7章35話(ハーレム編_クリスマスパーティ) 閑話_遊園地③
この閑話は終わります。次から本題です。
………
……
…
衝撃だった。
衝撃すぎて、俺は声がでなかった。
そうだったのか?
俺はこれまでの人生、浅く広くを心がけてきた。
つまり、心から許せる友人などいなかった。いや、『作ることができなかった』のだ。
だから、俺は俺のできる限りで尽くしたいと思っていた。
初めてなのだ。こんなにも心を許せる友人ができたのは。
だが、華は言う。友人の距離感ではないと。
じゃあどうすればいいんだ…?
俺は友人に尽くしたい。友人に、…華に幸せになってほしい。
華は、これは友人の距離感ではないと言っている。距離感が心苦しいと言っているのだ。
「……華、もしかして俺のこと、嫌いになったのか?」
「…はぁ? そんなこと一言も言ってないじゃない! 嫌いになんてなれるわけないわ! だって、あんたこんなに私によくしてくれているのに…。ただ、私はこの距離感が苦しいだけなの…。友人の距離感だと、私は何も返していない。ただ、…恵んでもらっているだけじゃ、友人じゃないと思うの。だけど、どうやっても私は何も返すことはできない。何を返せるか考えたけど、何も思いつかない…。それが苦しいの」
「……」
本当に、俺は華が言っていることについて、本心から納得はできていなかった。
華にはいろいろなものを日常からもらっているのだ。
彼女との学校での会話、下校中の喫茶店での雑談、休日の買い物、そしてみんなでのごはん。どれもかけがえのないものだった。
全てが輝いて見えた。
それを全て華にもらったのだ。
初めての友人とは、こんなにも大事なものだと思わかなった。
手放したくなかった。
「友人の距離感、か……」
「…そうよ。」
友人、か……。
華との日常を振り返る。
暖かい空気に包まれていた。
彼女の笑顔、暖かい彼女の家庭。
それを俺は、…支えたかった。
だって、…初めての友人なんだ。
…家庭?
……ああ、そうか。
「華……いいか?」
「……うん。」
決心がついた。そうか、そうすればいいのか。
「なあ、……、友人がだめなら……」
「う、うん……」
「家族は、ダメか?」
「…え? えぇぇぇ!? ちょ、ちょっと! ど、どどどどういうこと??? つまり、そういうこと……?」
華の顔が急激に赤くなる。
慌てているのか、視線をせわしなく動かしている。
…そんなにおかしなことを言っているのか?
「華、お前は大事な友人だ。俺の……初めての友達なんだ。だから、大事だ。お前がいない生活なんて、もう考えられない」
「……う、うん」
「友人の上の関係になりたい。それだったら、もう貸し借りなんて考えなくてもいいと思っている。そんな、損得勘定はもう関係ないと思っている。それくらい、お前が大事だ。本来は友人でもそんな損得の考えはないと思うが、家族だったらなおさら考えなくてもいいだろう?」
「う、うん……? ……ちょっと恥ずかしくなってきた。いえ、大分恥ずかしいわ…。……もうぅぅぅ! なんで隠れるところないのよ。」
「続けていいか…?」
「なんであんたはそんなに冷静なのよ!」
「……? 俺も今緊張している。 華、…話を続けるぞ? 華、その関係、貸し借りなしの関係……それは家族だと思うんだ。」
「……ん?」
「家族だったら気にしなくていいと、本当に思ったんだ。お互い、気を遣う必要はないと思うんだ。家族、……俺はその距離感くらいお前を信用しているし、すごく大事にしている。お前が誰かに傷つけられたら、すごく悲しいし、やり返したいと考える。そして、お前が喜んでいたら、俺はすごく幸せだ。それはお前だけに向けた感情じゃない。お前の家族にも幸せになってほしい。」
「……」
ある人の言葉が頭にちらつく。
『和人。あなた以外の人間だったら、私は損得で動くわ。言うなれば、私に有用かどうか。私が価値を感じなかったら迷わずに切るわ。でも、あなたは違う。それは、私はあなたが家族だから。和人を愛しているから。価値という点では、あなた以上のものはない。あなたがそばにいてくれるだけで、お姉ちゃんは幸せよ? ほら、だから遠慮せずにほしいおもちゃ言いなさい。お姉ちゃんがなんだって買ってあげるわ。…え? おままごとの道具を買ってほしい? お姉ちゃんと遊ぶために? ……ふふっ。だめよ和人。これ以上お姉ちゃんの評価は上がらないわ。もう、お姉ちゃんの好感度をこれ以上上げてどうするの? 結婚する気? 一緒のお墓に入る気? しょうがないわね。今日もお風呂に一緒に入りましょうか。そういうことでしょ? え、そんなこと言ってない? お姉ちゃんに嘘ついたらダメよ?』
…後半は何かおかしい流れだったが、言いたいことはあっている。要は華とはもう損得で動くことはない。
「だから、…お前さえよければ俺にもそう思ってほしい。この世界で俺は……、今、お前以上に大切な存在はいない。だから、…お前もそう思ってくれたらうれしい。」
その言葉を言った後、少し静寂な時が流れた。
「……うふふ」
「ん…?」
突然華が笑い出した。
それは、いつも見た暖かい笑顔だった。
「もう、何よ家族って。あーもう、あんたがそういうやつだってわかっていたけど、ちょっと突拍子すぎよ。私が悩んでいたの、小さいことに思えてきたじゃない」
「……悩ませてすまない。俺が悪い」
「なんでもかんでも謝らない! 私が勝手に悩んだだけなの! それに、もう…あんたにとって『家族』なんでしょ? だったらもう、…勝手に落ち込まないの! 背負いすぎないこと! 私もあんたに貸し借りなんてないって思うから、あんたも私に変に気をつかわないこと! いいわねっ!?」
「あ、ああ…」
「……そうよ。家族なんだもん。普段できなかったことも、恥ずかしいこともやっていいのよね? そうよ。そうなのよ。だから、一緒にお風呂も入ったり、一緒に布団に入ったり、あんなことや、こんなことも…。えへへへ」
……何はともあれ、どうやら華は元気が出たようでよかった。
「そうよね……家族だったら、これくらい普通よね」
華は独り言を何か言った後、俺の方に距離を詰めてきた。
「……ちゅっ」
「え…?」
華は俺の額にキスをしてきた。
キスをした華の顔色を見ることはできない。それは夕陽が華を照らしていたからだ。さっきまでは普通の顔色だったが…。
「今日はありがとう。家族として、お礼を言わせて。そして、また連れていってね?」
「…ああ」