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抗う人間たち

新章スタートです!!

 これからも頑張っていきたいところですが、そろそろテストが近づいてきたので、もしかしたら更新が落ちてしまうかもしれません…………。

83     抗う人間たち



――――物心ついた時から既に始まっていた。

 剣の使い方や種族によっての弱点や特徴、毎日地獄のような訓練。しかし、人間以外の種族はそんな人間の毎日の努力を嘲笑うようにして蹂躙し、そして多くの人々の命を顔色ひとつ変えることなく奪っていく。


「……いつまでこの戦いが続くんだ?」


咄嗟に口から出てきてしまった言葉は直ぐに居場所を無くしてしまったようにどこかに消えてしまった。俺の周りには任務で一緒になった仲間の焼け死体が転がっていた。……既に人としての原型を留めていない焼け死体を見るだけで吐き気と共に怒りが湧いてくる。


「……帰るか」


抑えきれないほど怒りを抱いているというのにも関わらず、自らの命を落とすのを怖がっている自分が胸のどこかにいるのが情けなくて殺したくなってくる。そのうち…………自分という存在が完全に無くなるのではないかと言う恐怖に押しつぶされそうになり、生きていること自体が罪のような気がしてならない。

 今日死んだ仲間も、昨日死んだ仲間も、一昨日死んだ仲間も…………皆自ら死を望んで死んだわけではない。


一人一人の意志を受けて生きて行かないと意味がないというのに、自分にそれを成し遂げられるほどの力がないことに怒りを覚える。


「何でなんだよ……。どうして俺は死なないんだよ……っ!!何で俺が無事に生き残ってるんだよ!!今まで死んでいった誰が死ぬことを望んだんだよ!!何で俺は…………死なないんだよ……」



近くに伸びている木を思い切り殴りながら理不尽という言葉が似合っている運命に対して叫ぶ。後悔・怒り・恨み・苦しみ…………ありとあらゆる感情を乗せた叫びは静寂をもたらしていた夜の世界に響き、そして直ぐに消えてしまう。


「ねえ………」


「―――え?」


―――誰もいないはずの暗い森のはずなのに、俺の耳に入ってきたのは今まで聞いたことがない高い声だった。聞こえた声質から分析するに女性…………しかも俺と歳はあまり変わらないみたいだった。

 色々の感情をさらけ出した後に話かけられた俺は少し気持ちが落ち着いていて、今まで以上に冷静に考えることができた。


「ねえ………あなたはどうして死にたいの?」


「……どうしてって…………き、君は一体…………?」


声が聞こえた方を向くとそこには予測通り俺と同じくらいの歳の女性……いや、少女が立っている。少女は出会い頭に『特殊』という言葉が似合う質問をしてきたことによって返す言葉に迷ってしまった。咄嗟に出てきてしまった言葉を少女に返すと、少女はその言葉に対して手を顎にあてながら口を開いた。


「私…………?私は―――」


――少女が口を開いたその瞬間、まるで計ったかのようなタイミングで今まで隠れていた月が顔を出して少女を照らす。――月明りが少女を照らすことで現れたのは月と同じかそれ以上の輝きを持っている金色の長髪…………そして美しい瑠璃色の瞳だった。

 瑠璃色の美しい瞳には汚い人間の鏡のような存在である自分が映っている…………。俺は…………それを感じた瞬間に一気に恥ずかしくなってしまった。


「私はルナ……ルナ・アレキウスよ。多分、ここにいる理由はあなたと同じよ?それで……あなたの名前は?」


「あ、ああ……俺はハタストム・ヒューズ。今は任務帰りなんだ」


「やっぱりね。どうせ偵察命令でも出されたんでしょ?」


少女――――ルナ・アレキウスは自己紹介をし終えると一気に距離を縮め、まるでずっと前からの友達のような対応をしてくる。……先ほど仲間が蹂躙される光景を見た俺にしては十分すぎるものだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今日逝ってしまった仲間が言っていた言葉だが、その言葉の意味が何となく分かったような気がした今日だった。



※※※




ルナと出会い、周囲の警戒をしながら俺とルナは国に戻った。任務に向かう時は4人だったというのに、帰ってくる時は2人となっていることを目を逸らそうとしたが、悲しいことにそう強く思うほど気にしてしまうように人間の体はできているのだ。

 今日共に任務に向かった者たちのことを思い出しながら俺は一言もしゃべらずに国に辿り着いた。



「着いたね。ありがとうヒューズ君、送ってくれて」


「ああ…………別に気にするな……」


国に辿り着いてようやく自分の口を動かした。びっくりするほど声は出なく、囁くように出た声は直ぐに消えてしまった。てっきり呆れていると思っていたけど、ルナはそんな俺のことを心配しているような顔をしながらいきなり空いている右手を握ってきた。


「今日……ヒューズ君が叫んでた理由も何となく分かるよ。それに―――ヒューズ君がとても優しいってこともね」


「そんなこと……」


否定するとルナは俺の否定を否定するかのように握る力を強めてこちらを真っすぐに見つめた。……互いの目が合うと、ルナの瑠璃色の瞳に引き込まれてしまうような感覚におぼれてしまう。……今まで味わったことのない感覚に一歩も動けなかった。


「――そんなことあるよ。……こんな世界だから()()()()()()()()()()()だって認識してる人も多い。でも、ヒューズ君は今日死んだ人のことも昨日死んだ人のことすら覚えてる。

 ……それが当たり前のはずなのに、世界がそれを当たり前にしてくれない。…………だから私はヒューズ君が優しいと思う」


「ルナ…………」


ルナが言った言葉にはこれ以上ないほどの重みと悲しみが乗っていた。直ぐに消えてなくなってしまうような言葉した言えない俺の心には想像以上響くことになり、今までどんな辛いこと・悲しいことがあったのかと想像するだけで涙がこぼれそうになってしまう。

 目に浮かぶ涙を拭くために目に手を当てると、手を握っていたルナが今度は強く抱きしめてきた。


「ルっ!?ルナ!?い、いきなり…………」


いきなり抱きしめられたことに一瞬動揺の声を上げながら自分の腹に顔を埋めるルナに顔を向けるが服が濡れているのを感じてルナの感情を感じた。


「ごめん…………なさい。何か色々思い出しちゃったから…………」


まるで俺の心を読んだかのように返してきたルナ。先ほどのように言葉に重みは感じられないが、さっき以上の悲しみを感じた。この世界を生きている人間で同じ人の死を目の当たりしたことがないという人の方が少ないだろう。

 この世界は男だろうが女だろうが変わらず戦場を駆けまわることとなってしまう。唯一駆けまわらないのは子供と歳よりくらいだろう。…………つまり、ルナも俺と同じかそれ以上に人が―――仲間が目の前で殺される光景をみたことだあるということだ。



―――そう思った瞬間、俺の体は勝手に動いて強く抱きしめてくるルナのことを抱きしめていた。抱きしめることで彼女の―――ルナの体が震えていること、体温、鼓動の音、髪の匂い…………全てが伝わってくる。今まで人とここまで密着したことはなかったが…………なぜか自分の鼓動も早くなっていた。

 ルナの鼓動よりも早く……一回一回の音がとても大きくなり、ルナに聞こえてしまうのではないかと心配になる。


「……大丈夫だ」


「……え?」


初めての体験をした俺はまた初めての言葉をルナに伝える。なぜか分からないが、ルナを強く想えば想うほど胸が痛くなってしまう。


「俺は死なない…………。たとえ何が起こったとしても俺はお前の傍を離れない。神に誓っても、絶対に俺はお前のことを死なせないし、俺も自分を殺させない」

読んでいただいてありがとうございます!!

前書きでも言った通りですが、テストが近づいてきたので更新ペースが落ちてしまうかもしれませんが、そんな時は気長に待っていてください。

 次回をお楽しみに!!

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