全員集合
今日は少し遅れて申し訳ございません!!
でも、いつもより文字数が多くなっております!!
82 全員集合
―――コンコン山で遂に狐に出会うことができた俺たち。モンが最初に挨拶をし終わったタイミングで俺も社会人だったときのことを思い出して丁寧に挨拶する。
見た目小学4、5年生程度にしか見えない子供がとても丁寧な言葉使いをしたことに驚いたのか、狐様は少し口を開けたまま俺のことをじっと見つめる。
「…………お主…………何か不思議じゃな。妾も長いこと生きておるが、お主のような人間と出会ったのは初めてじゃ。
人間…………いや、明らかに人間を卓越したオーラを纏っておる」
「え?そうですか?」
俺のことを見つめた狐様は尻尾ソファーに乗せていた腰を持ち上げながらそう言った。人間を卓越したオーラ…………意味はよく分からないが、褒められていることに変わりはないだろう。
「ちなみに狐殿………今回、我輩がここに来た理由でござるが―――」
モンが目的を言おうと話を切り出した瞬間、狐様は言葉の途中で頷き、そしてどこからか出した扇子のような物を俺たち――――いや、俺たちの後ろの方に向けて
「そのことならそこにおる男に聞いた………。近いうちに魔王や悪魔たちがこの世界を支配しようとしておるのじゃろ?お主たちはそれを太刀打ちできる戦力…………いや、仲間を探している。…………そうじゃな?」
モンが説明する予定だったことを全て簡潔にまとめあげて狐様が説明してしまった。説明途中だったモンは額に少し冷や汗を浮かべ、驚きの表情を隠せていないようだ。しかし俺は、狐様が言っていた『そこにおる男』というのが気になり、今もなお扇子を向けている方向に視線を向けた。
「フハハハ!!!よく気がついたなハルトよ!!随分久しぶりのような気がするが、まずは『おめでとう』と言っておくとしよう!!
今まで何の役にも立たなかった貴様が遂に役に立つかもしれないのだ!!これから我が死ぬまでこき使う予定であるから楽しみにしているがいい!!」
―――視線を向けると、そこには懐かしいいつもの高笑い&ハイテンションである例の最強のアンデッド――――ノワールがいた。ノワールは俺が自分の方を向いたと分かると同時に両手を広げ、そして長々と今まで溜めていた言葉を出会い頭に俺に言ってきた。
…………どうやらノワールの頭の中には『感動の再会』という単語が存在していないらしい。
「…………ああ。分かった分かった。約束だからな…………お前にこき使われてやるよ」
ため息と共に込み上げてくる何とも言えない嬉しさを隠したまま、俺は自然に出てきた言葉をノワールに言った。するとノワールはいきなり俺の腕を掴み、
「…………ふむ。なかなか強くなっているな。さすがの我もそこまで強くなるとは思っていなかった」
力量を計ったようなことを口にしながら首を適度に縦に振る。現在はショタ状態である俺に300歳を軽く越えているノワールが俺に触るなど、一種の犯罪ではないだろうか?
そう思った理由は思いきって自分の胸に秘めている言葉の数々を声に出して言い放った。
「うわー助けてー。何か変な人に腕を捕まれて誘拐されちゃうー」
――――清々しいまでの棒読みで自分も驚いているなか、ノワールは笑いを堪えるのに必死な様子だった。
「そうだノワール。お前に聞きたいことが山ほどあるんだ」
笑いを堪えることに必死のノワールに対して真剣な眼差しを向けながら言った。……俺が聞きたかったのはこの世界の過去のことである。人間になって直ぐに以前に会った童顔―――いやマッドと戦った。勝敗はついていないが、何となく負けたような気がする結果だったのが残念でならない。
その時にマッドに言われたことがずっと頭の中をグルグルと回って仕方ない…………。マッドは『君は早くこの世界の過去を知るべき』だと最後に言った。
だから―――俺は―――
「もう分かってるとは思うけど…………俺にこの世界の過去について話してくれ。話たくない部分を話してくれとは言わない。
けど……お前が見てきた――感じてきた――そして、生きてきた時代を知りたいんだ」
―――どんなに苦しかった過去でも、どんなにつらい過去だったとしても、どんなに残酷な過去だとしても逃げない。…………この世界に何があって、何が世界を変えたのか…………俺はそれを知りたい。
「……そうか。思えば、貴様にこの世界の過去のことを話したことは無かったな。…………ルインや他の者から大体のことは聞いているかもしれないが、この世界に何があったのかまでは知らないだろう」
笑いを堪えていたはずのノワールだったが、俺が真剣な眼差しを向けるとノワールもまた真剣な表情をしながら俺を見つめてくる。久しぶりに見せてくるノワールの真剣な眼差しはとても真っすぐで、俺の質問にもちゃんと答えてくれる。
いつものように小馬鹿にしながら高笑いとかしたら本気でぶん殴ろうかと思ったけど、そんなことはなかったのでとりあえず一安心だ。
「ハルトよ…………その話をするのは構わないが、今は狐を仲間にする方が最優先だ」
「はいよ」
いざ話を聞こうかと思ったが、ノワールは狐様の方を指さしてそう言った。…………狐様の方を向いてみるとモンとコアトルちゃんが既に話を始めているみたいだが、こちらには聞こえてこない。俺だけ取り残されている感がすごいので俺も話が聞こえるところまで狐様とモンとコアトルちゃんに駆け寄った。
「それで、結局狐殿は協力してくれるのでござるか?」
「……確かにこのまま行ったら妾だけでなくこの森…………いや、この世界のあらゆる生物が絶滅する可能性があるわけじゃな…………。しかし、それだけで妾を動かせるほど妾は単純でも安くもないぞ?」
―――どうやら現在交渉中らしい。
途中からではあるが、一部だけ聞くことが出来たので何となく話の筋は分かった。コアトルちゃんは見ているだけかもしれないけど、モンの方は交渉に手間取っているらしい。しかし、狐様の言うことも一理ある。自分にメリットが少ない戦いに加えて、自分が命を落とすかもしれない戦いに参加する者は少ないだろう。ルインやノワールと違って元魔王候補というわけでもない狐様の心を動かすのは厳しいことだろう。
…………よく狐を祀る神社とかだとお供え物として油揚げを送るが、この世界に油揚げがあるわけもなく物で釣るだけで釣れるとは思えない。
なら―――ここは長年の社畜人生で培った俺の知識を生かすべきだろう。
そう思った俺はモンよりも前に出て壁のように狐様の前に立ちふさがる。
「確かに狐様の言うことも一理あります…………。しかし、参加しなくて負けたとしても魔王や悪魔たちは『蹂躙』ということをしてこの世界を支配するでしょう。これは狐様が参加しようがしないが、負けた時の結果です。
…………所詮は確率でしかない未来ですが、狐様が協力してくれることで『勝利』という確率がグンと上がるでしょう。つまり―――勝ちを信じて戦うか、負けを認めて引き下がるかということです」
ただ単に思いついた綺麗ごとを並べただけの上澄みだけの言葉…………。しかし、それでいい。今の狐様の中では『勝利』という未来というのが想像できないのだ。―――なら、小さくてもいいから『勝利』という未来を信じさせればいい。
参加すれば勝てるかもしれない。参加しなければ負けるかもしれない。……単純な話ではあるが、別に駆け引きが必要なわけではないのでその程度の考えを持たせるだけで十分なのだ。
―――そして、俺が放った言葉に耳を傾けて見せた狐様は再び尻尾をソファーにして座り
「……カカッ!!まさか人間に言われるとは思っておらんかったが…………確かにお主の言う通りじゃ。
よかろう…………。腑に落ちない点も多いが、今はお主が想像する未来に騙されてやるとしよう」
「ありがとうございます」
人間相手ではこうも簡単にはいかなかったことだろうが、とりあえずうまく行ったから良しとしよう。狐様の協力が得られたということで一息つこうかと思ったが、後ろにいたはずのノワールがいつの間にか俺の横に移動していた。
「フハハハハ!!!いいぞハルトよ!!貴様ならこの堅物である狐も交渉出来ると信じていた!!
いつもいつも自分の考えを曲げない堅物の考えを曲げさせたのは今までもこれからも貴様だけであろう!!喜ぶがいい!!ハルトの名前はこの先何百年と語られることとなるぞ!!」
「……お前さ。もう少し休ませてくれよ」
ノワールが「そろそろこっちの話をしたい」というオーラを出しているのを感じた俺はため息をつきながら再び立ち上がった。
※※※
「…………それじゃあノワール。話してくれ」
「いいだろう。我が話してやる」
狐様を仲間にするというのを無事に成功した後、結局少し休憩してからノワールに過去の話を聞くことにした。ついでというわけではないが、モンとコアトルちゃん…………そして狐様も一緒に話を聞くことにした。しかし、これからノワールと供に戦うならこの世界の過去のことは聞いておいて損はないだろう。
太陽が既に月とバトンタッチして世界に一時だけ静寂な時が訪れようとしていた。焚火の火が薪を燃やす音だけが響くなか、ノワールはついに口を開いた。
「あれは―――今から500年前のことだ。我がまだ最強でもアンデッドでもない人間だったころの話だ。…………あの時代は『異種族戦争』が始まっていた。言い換えれば、それぞれの種族の戦争だ。
もちろん【人間】という種族が最弱であったな。あの時は今ほどスキル・魔法・魔術全てにおいて力不足であったし、何よりあの時代の人間の多くは魔力を持っていなかった。
―――戦争が続いているなか、我はとある偵察任務の後に一人の少女と出会った―――」
―――今明かされる。
この世界の過去…………『異種族戦争』の隠された真実と最強のアンデッド誕生の謎が―――
読んでいただいてありがとうございます!!
残念なお知らせですが、これからしばらく『ノワールの過去編』が続くことになります。
ハルトやモン、コアトルなどは一切登場しませんがルインや破壊の魔女…………そしてマッドやその他新キャラも登場する予定なのでどうぞご期待ください!!
次回をお楽しみに!!!




