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狐様初めまして

81        狐様初めまして



――――コンコン山に入ること約2時間、コアトルちゃんの誤解も無事に解け、俺とコアトルちゃんとモンは感動の再会をすることに成功した。疑っても仕方ないと思っていたのに、コアトルちゃんらともかくモンは迷い一つないような言い方で人間となった俺を見た瞬間に「ハルト殿」と呼ばれた。

 少々残念なような気もするけど、疑われないに越したことはない。


「そう言えば…………二人は何してたんだ?」


感動の再会をもう少し楽しみたかったのだが、何やら二人とも急いでいる雰囲気を出していたので歩きながら何をしてきたのかを聞いた。すると、先頭を歩いていたモンは動かしていた足を止め、後ろを振り向いて説明を始める。


「我輩とコアトル殿はハルト殿が行ってしまった後も、しばらくルイン殿の元で修行していたでござる。ノワール殿はハルト殿を転移させた瞬間にどこかに行ってしまったでござるが、我輩とコアトル殿はルイン殿が造り出した空間でずっと鍛えていたでござる」


「ああ。だから二人ともえげつないくらい強くなってるのか」


スキル【解析】を発動させなくても、二人の魔力の強さと覇気が【受動探知】を通じてビンビン伝わってくる。特にコアトルちゃんは以前よりも数倍から数十倍になるほど強くなっていることだろう。

 魔力の強さ…………いや、それ以前に軽く戦ったときの動きが以前とは全くもって別物だった。


「それはハルト殿の方でござるよ。人間になったとはいえ、そんな飛躍的にステータスが向上したのはハルト殿くらいでござろう。

 人間という種族に絞れば『最強』と言ってもいいのでばござらぬか?」


二人の強さに関心しているとお返しをするようにモンが俺の強さに関心をする。【解析】を発動していないので正確な数値は分からないが、俺とモンとコアトルちゃんはそこまで数値に差違はないはずだ。俺の方は一応前世…………いや、前前世も人間なのでその時に得た知識が戦いでも意外と役に立つ。

 この世界はスキル・魔術・魔法がある関係で科学があまり発展していない。…………多分この世界の全員が原子論を知らないだろう。別に俺も科学者じゃないから詳しいわけじゃないけど、この世界にいる人たちよりは詳しい。


…………つまり、強さが拮抗している時では戦い方で戦況が大きく変わるということだろう。今度ノワールに会ったら剣術を教わるのもいいかもしれない。


「ところでハルト殿はこれまで何処にいたのでござるか?」


「俺か?俺は【眠りの森】ってところに転移させられたな。そこにいる主…………オーガを起こすまで出られないって言う意味分かんない森」


「出てきているってことはオーガを起こすのに成功したのでござるね。あそこのオーガは【永眠キノコ】を謝って食して永遠に近い眠りについたと言われているでござるが、よく起こせたでござるな」


「正直俺もそう思う」


輝いて尊敬する人を見るような目でモンが俺のことを見てくる。……正直に言うと、俺も起こせるとは思っていなかったので褒められても素直に喜べなかったりする。なぜなら俺がオーガを起こすためにやったことは体に触れて【ドレイン】を使ったくらいだ。

 あの時解析の人から『オーガの魔力が尽きます。このままいくと死んでしまいます』って言われた時は結構びっくりした。…………今思い返せば、それをいい思い出だな。オーガはまだ俺の体の一部として生きてくれているわけだが、願いが叶うなら人間になった俺の姿を見てほしかったような気がする。


「……あれ?そう言えば何でモンは俺だって直ぐに分かったんだ?人間の姿を見るのは初めてだよな?」


オーガのことを思い出していたら不意にそのことが頭をよぎってしまった。一つのことを思い出していると別のことまで思い返してしまうのは人間としての特性とも言っていいだろう。俺が質問するとモンは「ああ……それなら――」と一回言葉を切るような言い方をして


「以前ノワール殿にハルト殿の本体の話を軽く聞いていたのでござる。吾輩もちゃんと見たわけではないから不安でござったが、人間になってもハルト殿特有の気配を感じたから何も問題なかったでござる


「へえ……ノワールの奴俺に許可も取らないで勝手に言いふらしたのか。あとモン。もう一つだけ聞きたいんだけど、何でこの森にいるんだ?」


「ああ…………それは単純に仲間を集めるためでござる。いくつか候補はあったでござるが、古くから狸と同等の存在にある狐を訪ねるためでござる。受けてくれるかは分からないでござるが、一度頼まないと何も始まらないのでござる」


モンは自分に確かな自信を持っているような目をしながら俺に言ってきた。俺もそこまでモンの意志が固いとは思っていなかったが、今のモンなら多分本当の意味で言っているのだろう。魔王に自分の父親が殺されたと言われるモン…………あまり表には出さないけど、もしかしたら魔王を倒したいという気持ちはノワールに匹敵するほど気持ちが強いかもしれない。


「―――そうか…………まあ、そうだよな。何かしないと何も始まらないよな」


「ええ~全くその通りなのです~」


「「「!!?」」」


俺がモンの言ったことに答えた瞬間明らかにこの場にいる3人とは違う声が3人の耳に入り、一斉に声が聞こえた方に視線を向ける。……しかし、語尾を伸ばして話すという特徴的な口調に俺は視線を向ける前に答えが分かってしまった。


「どうも~。天界から降ってきたまだ名前がない元女神です~」


―――3人の視線がただ一点に集中すると女神様は手を振りながら軽く自己紹介をし始めた。……うん。確かに天界から降ってきたことに間違いはないけどさ、そんな言い方じゃ絶対信じないでしょ。女神様の適当すぎる自己紹介に俺はフォローに入ろうとした。

 しかし―――


「……女神様って、あの女神様…………?いつも私たちのことを見守ってくれている」


「ほ、本物なのでござるか?だ、だとしたら…………とんでもないことでござる」


―――コアトルちゃんとモンは全く疑いを抱いていないピュアな瞳で一応本物の元女神様に触れようとする。モンはともかくコアトルちゃんは、俺がハルトであることよりも今あったばかりの人が『元女神』と言った方が信じるという現実だった。少し悲しすぎる現実に胸が痛くなり、人間になって初めて涙が出るかと思ってしまった。しかし、涙は望んだ時には溢れてこないもので俺が『涙を流したい』と思っている時には自然に涙が出てくるわけがない。


「…………ねえ、まさかとは思うけど二人ともこの人が言ったこと信じたの?」


俺が少し呆れた感を乗せた声でそう聞くと、二人は「何を言ってるの?」という顔をしながら俺のことを見つめ返してきた。


「ハルト……この方は元女神様だから失礼なこと言っちゃダメ」


「そうでござるよハルト殿。元女神様相手にご無礼な態度をとっていてはいけないでござる」


―――まるで俺が悪者のように扱われ、女神様はニコニコ笑うながら俺のことを見てくる。正直に言うと今は女神様のことを殴りたくて仕方なかった。駄女神というほどではないが、俺はこの女神様が来てからというもの良いことは一回くらいしかない。一つはレベルがMAXになった俺にスキル【乗り移り】を授けてくれたということだ。

 それ以外は別に良かったと思ったことは無い!!!…………多分。







※※※






―――結局俺はあの後コアトルちゃんとモンの圧力に負けて元女神様に謝り、その後狐を探すためにさらに山の奥まで入ることとなった。

 山の中を進むこと約3時間。青が広がっていた空がいつの間にか赤く染まっていて、太陽が月とバトンタッチするような時間となってきている。そんな中、先頭を歩いていたモンが足を止めた。


「……狐を見つけたでござる。一応これは交渉でござるから、礼儀はしっかり頼むでござるよ」


どうやら狐を見つけたらしく、モンは俺たちに最小限の注意だけ伝えると直ぐに目の前にいる狐に駆け寄った。狐と狸は地球でも同じような感じで名前を聞くことが多いけど、この世界でもそうなのか?

 

「いや~久しぶりでござるな。以前会ったのは随分と前のことでござるからな」


「……わらわの元にやって来た理由はわかっておるが…………何故お主は仲間を連れてきたのじゃ?」


―――初めて見た狐様…………。銀色の長髪をなびかせ、少し赤い瞳でこちらを向き…………そして髪と同じ色の九つあるフワフワモフモフそうな尻尾を椅子代わりにして座っていた。尻尾の存在感が結構すごいから気がつかなかったけど、銀色の髪からヒョコっと顔を出すように生えている耳。…………大人の色気というのか、大巫女様と同じようなオーラを感じる。

 狐様はモンだけでなくモンの近くにいる俺たちのことを聞いたので、俺は3人を代表して一歩前に出た。


「初めまして狐様。俺はモン…………いや、この狸の友達の一人―――ハルトと申します」

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