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嫌な再会

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…………結構やばくね?

 危険度Sランクのモンスターをちょっとスキルを纏った拳一つで、大地ごと吹っ飛ばしてしまった。以前の俺なら間違いなく「チートだな………」と声に出していただろうが、それをやってのけたのは自分だからそんなことはもう言わない。


「………これヤバくね?ってか、これ以上に強いってノワールもっとやばくね?」


自分の強さに酔いたいところだったけど、女神様からノワールのステータスはマントを外したらもっとヤバイということを聞いたので、そこまで酔うことはできなかった。

 俺と同じくらいのステータスを持っているだけでも十分チートだというのに、マントを外したらもっとチートになるなんて考えたくもない。


「………やっぱりノワール一人で十分倒せるんじゃねえの?」


「――――さすがにそれは無理だよ」


「!?。誰だ!?」


心の中で思っていたことが口に出てしまったその瞬間、上空からどこかで聞いたことがある声が聞こえた。声がした方を向くと、そこにはスキル【浮遊】を使ってフワフワと浮いている奴がいた。

 …………それは、かなり前にノワールと歩いていたところを襲ってきた童顔だ。


「お前は…………あの時の童顔………」


「どうがん?なんのことか分からないけど、その呼び方は止めてもらおうかな。僕にはマッド・ヘルって言う名前があるから」


「じゃあマッド。俺に何か用か?残念ながらノワールは一緒じゃないぞ」


あいつの目的はノワールだという確信を持っている俺は、一緒でないことを童顔――――マッドに伝える。しかし、マッドはその言葉に首を振ってから俺に向かって人差し指を指した。


「違う…………僕の今日の目的はハタスタムじゃない。確かに彼を殺したいのは山々だけど、今彼を殺してはこの世界の末路を帰られない。そして…………今日は君に用があるんだ。以前僕が見たときは貧弱なゴーストだった君が、人間に乗り移った瞬間、飛躍的にステータスを工場させた君にね」


「…………この世界の末路?」


長々と説明を始めたマッドだったけど、俺はマッドが放った『この世界の末路』という言葉に引っ掛かった。今日はノワールではなく俺が目的だということよりも、そのことが矢が刺さったように胸に残る。


「この世界の末路ってなんのことだ?」


「…………そうか。君たちはまだ知らないのか。でも、それは仕方のないことだ。この世界の末路は8割ほど決まっているからね」


「だからこの世界の末路ってなんだよ!!」


話を振っておきながら俺の質問には答えてくれないマッドに、俺は声を荒げながら聞く。


「…………その答えは僕が『強者』だと認めたら話てあげるよ」


少し含んだ言い方をしたマッドは言いたいことだけ話て、俺の方を向けていた人差し指から【魔弾】を放つ。直径8はある魔力の塊は、物凄いスピードで俺目掛けて向かってくる。


――――しかし、その魔弾が俺に届くことはなく事前に張っておいた【魔結界】によって防がれてしまう。


「へえ…………僕の【魔弾】を弾くなんて、なかなかやるね。じゃあ…………今度は近づくとするよ」


そう言いながらマッドは【浮遊】を解除するのと同時に頭を逆さにし、足元に【魔結界】を張って足場として思いきり蹴る。―――下降速度がどんどん上昇するなか、マッドは地面に当たる直前に半回転して見事に着地する。

 ―――着地したと同時に空間から剣を取りだし、俺が張っている【魔結界】を破壊するために剣を振る。


さっき魔弾でも破壊できなかった魔結界がただ剣を振っただけで破壊されるわけがないと思った俺は、余裕ぶっている感じで立っていた。


―――バリンッ!!

 しかし、絶対に破壊されないと思っていた魔結界はまるでガラスが割れたような音を響かせながら破壊されていった。


「……一つ新人の君にアドバイスをしよう。()()()()()()()()()()()。そして……『絶対』だと思った瞬間、勝率はぐんと下がる」


「やべ……っ!?」


破壊されるとは思っていなかったので、マッドが流れるような動作で俺に剣を振っていることに上手く反応ができなかった。

―――ザシュ……ドサッ。


「が……ッ!!」


何とか避けようと急いで後ろに跳躍をしたが、それでも左腕一本失ってしまった。あまりの痛さに発狂しそうになったけど、ここで発狂していてはまた相手の思う壺だと思い、全力でポーカーフェイスを出して顔に出さないようにした。


「へえ……腕一本失ってもそんなに動じないなんてやるじゃん。まあ、頑張って痛みに耐えてるんだと思うけど……」


マッドは本当の意味で俺の心を読んでいるようなことを言ってくる。その言葉に嘘のようなものは感じられず、むしろマッドの顔にはこれ以上ないほどの自身を滲みだしていた。……ズキズキと痛む左腕の切り口……幸い特性の【自己再生】の効果によって血はあまり出ていないけど、それでも腕が生えるまで何カ月かかるかわかったもんじゃない。


「……やるしかねえか」


斬り落とされた腕は右手の方にあり、距離は大体4メートルといったところだ。マッドが腕を拾わせてくれる時間をくれるかどうかは分からない……いや、むしろとるわけがない。

 戦いの中でわざわざ相手が有利になる状況を自分から作りだすようなことはしないだろう。しかも、マッドはノワールのことを殺そうとしている。それなら、ノワールと友達である俺も殺そうとするだろう。


そして―――俺はついに決心した。


「一か八かだ!!」


声に出してそう叫んだとともにスキル【認識阻害】を発動させて一時的に認識を阻害させる。もちろん、マッドが【透視】を展開すれば1秒かからず見つかってしまうのだが、不意打ちで発動させたために気が付くまで2秒はかかる。


(2秒もあれば十分だ!!)


心の中でそう叫び、俺は4メートル離れた先にある左手をヘッドスライディングする容量で回収し、切断部分にくっつける。…………もちろん直ぐに治るわけではないが、一応くっついたし左手もちゃんと動く。


(あとは発見されるまで少しでも回復するしかねえな。)


左腕を回収したことにより大体の位置を教えたも同然だが、そこは抜かりなくスキル【身体強化】を発動させて一瞬にして違う場所に移動している。仮に今すぐ【透視】を発動したとしても、マッドの視界に入っていないので少しの間は見つかることはない。


「……いい判断だね。不意打ちで【認識阻害】を発動させて斬られた左腕を回収する…………。そしてその後【身体強化】を発動して一瞬にして左腕が落ちていた場所から移動して見つかるまで回復し続ける」


…………思わず声が出そうになってしまった。

 俺が【認識阻害】を発動させてから声を発しなかったマッドは俺がやっていたことをずっと見ていたように行動を事細かに説明する。


(まさか……最初から見ていた?)


「それは違うかな。別に僕は【透視】を発動させて君の行動を見ていたわけじゃない。……まあ、スキルを使っていないわけじゃないけどね」


動揺しながら―――冷や汗を滲ませながら心の中で呟いたが、マッドはそれすらも読んでいたかのように言った。…………ゴーストの時はあんまり気になっていなかったが、『心を読む』という行動がどれだけ恐ろしいことかよく分かった。

 心が読まれているということは、こちらの考えが全て分かっているということだ。つまり、どんな作戦で行っても意味がないということだ。


「……まあ、今日は君を殺すのが目的じゃない。だから僕はこの辺で帰らせてもらうよ」


マッドは姿が見えていないはずなのに、俺の方を向きながらそう言った。帰るということを言ったマッドだったが、俺は何かの罠かと思い、【認識阻害】を解除しなかった。



「………帰る前に一言言っておくよ。―――()()()()()()()()()()()()


―――そう言い残し、マッドはどこかに去っていった。去っていったと確信したあとに【認識阻害】を解除して姿をさらし


「…………過去を知る?」


最後にそう言ったマッドの言葉だけが頭から離れなくなっていた。

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