まさかの事態
75 まさかの事態
「そう言えばハルトさん。発動している魔法には魔力を放つことで威力と持続時間がプラスされるって知っていますか~?」
(威力が上がるってことか?つまり、俺のスキル【火炎粉塵】も魔力を再び送ることで威力を上昇させることができるってことか?)
「つまりそういうわけです~。もちろん送るには【魔力付与】というスキルが必要ですけどね~」
…………それじゃ意味ないじゃないでか。
結局俺は女神様から指示されたモンスター同士の争いに参加し、見事に他のモンスターを圧倒したのだ。……厳密言うと、スキル【気配遮断】で気配を消して不意打ちのタイミングで【火炎粉塵】を全力で放っただけだ。一応モンスターの中で【火属性耐性】を持っている奴がいたので、それは【腐食息吹】で腐食させた。レベルこそ上がらなかったが…………というか、何か最近モンスターを倒してもレベルが上がらなくなってきた。
(ちなみに女神様。最近レベルが上がらなくなったんですけど、何でですか?)
俺の質問を聞くといきなり笑顔になった女神様は満面の笑みでこちらを向きながら口を動かした。
「それですね~。限界レベルが近くなったってことですよ~。生物には【レベルアップ概念】と言うものがありますが、それぞれ限界のレベルというものが決まっているので『レベルが上がらなくなった』ということは最大レベルが近いということですよ~」
(―――ちょい待ち。仮にも俺が【乗り移り】のスキルを習得する前にレベルが最大になったら、俺はもう【乗り移り】を取得できないってことだよね?)
「そうかもしれませんね~。でも、きっと大丈夫ですよ~。ハルトさんのことだからきっと習得できますよ~」
わりと本気で聞いていることなのに女神様は軽い口調で俺に言う。のほほんとしたオーラを纏っていて、それを見ているだけでさっきまで感じていた怒りのような気持ちが和らいでいく。これが元女神様の力だというのだろうか?元であったとしても、女神自体の魅力や力といったものが残っているのだろう。……まあ、最初に見た女神様のステータスを見れば当然か。
明らかに常人離れしたステータスだったのを覚えている。まあ、元女神様だからそのくらいのステータスを持っていてもおかしくはないか。
(……じゃああれか…………結局モンスターを倒しまくるしかないんだな。)
「そういうわけですね~。ほら、そう言ってるうちに一体のモンスターが現れましたよ~」
生き物一ついないように見える荒野だが、女神様は遥か遠くにいる豆粒のような影を指さす。俺は直ぐにスキル【千里眼】で確認するがそれでもよく分からないモンスターだった。大きさは多分……3~5メートルくらいで、カエルのような足とウサギのような毛並みと耳…………そしてユニコーンのような角を合わせ持っていた。何か、小学生が描いた絵みたいだな。
(【解析:あのモンスター】。)
《 解析が終了致しました。
名前【混合獣】。多種多様なモンスターを混合して生まれたと言われているモンスター。その分、様々なモンスターの特性を合わせ持つことで有名。危険度はSなので少々注意が必要なモンスターである。》
……言いたいことは色々あるけど、とりあえず名前考えた奴出てこいや。さすがに【混合獣】何て安易&適当すぎるだろ。絶対名前つけた奴センスの一つもねえよ。外見だけでなく名前のセンスも小学生というのはちょっと止めてほしいかな。
…………そんな感じで油断していると、さっきまで遥か遠くにいたはずの混合獣との距離が明らかに近くなっていた。
(あれ?もしかしなくても距離縮まっているよね?)
「そうですね~。多分こちらに気が付いたからだと思いますよ~。野生の勘?とでも言えば良いんですかね~?確か混合獣は自分より強い相手を見つけたら、それを不意打ちで襲い掛かるモンスターですから~」
(え?強い相手って女神様ですよね?じゃあ、俺が戦わなくてもいいんじゃないですか?)
「そんなことありませんよ~。だって私がハルトさんに【挑発】というスキルを付与してますから」
―――ふぇ?
一瞬女神様が言ったことが全く分からなかった。
「グルルルル…………」
(うぎゃぁぁぁぁ!!出たァァァァ!!女神様逃げよ―――って、もう居ねえし!?)
女神様が放った言葉に硬直した瞬間、まだ大分距離があったはずの混合獣が目の前に来ていた。まずは挨拶からしていきたいところだけど、モンスター同士の挨拶は言葉よりも先に手が出る可能性が高い。
―――ドパンッ!!
…………攻撃が来るかと思って警戒したその刹那、混合獣は口から過剰威力の高熱高圧ブレスを放ってきた。幸いのことに頭で判断する前に行動して【魔結界】を張ってあったので、何とか即死は免れた(既に死んでいる)。【魔結界】は当然の如く破壊をされたが、直接的なダメージを激減できたからよしとしよう。
習得したのは良かったが、これまで使う機会がなかったので破壊されるのが普通なのかどうかは分からない。しかし、【魔結界】というのは純粋に魔力の強さが現れてしまう。つまり俺の【魔結界】が破壊されたということは混合獣の攻撃力・魔力は俺よりも上だということだ。
(まあ……ノワールより弱いから大丈夫だろ。)
しかし、なぜか俺の心はとても落ち着いていた。最初こそ驚いたけど、今になってはとても落ち着いていた。多分…………俺が今まで異常とも言えるほどの強敵を相手にしてきたからだな。この世界に来て最初に出会ったのがこの世界最強のアンデッドだし、それからも魔獣の中ではトップクラスに君臨する狸だとか…………潜在能力だけではノワール以上のものを持っている竜族のコアトルちゃん。
――うん!やっぱり俺の人生可笑しいな!
「グルル………」
おっと、放っておいてしまって申し訳ありません混合獣さん。混合獣はユニコーンのような角をこちらに向けながら唸っている。俺はそのことに気が付き、スキル【身体増強】と【身体強化】、そして【縮地】を発動させる。
(【魔力撃】!!)
【身体増強】で数値的にステータスに加算しながら【身体強化】でステータスを倍増させる…………そして【縮地】を使って混合獣の死角に移動し、がら空きとなっている背中に【魔力撃】を放つ。
「グルガァァァ!!」
二つのスキルを使って攻撃力を上げ、最後に魔力を乗せた拳で思い切り殴る。すると危険度Sと解析の人が言っていた混合獣も痛いでのたうち回っている。そののたうち回る勢いで俺の体は数メートル吹っ飛ばされてしまうが、俺はすぐさま次の攻撃の準備をする。
(【火炎粉塵】。)
ゴォォォォォ!!!
数メートル吹っ飛ばされたお陰で【火炎粉塵】が狙いやすくなったため、楽に当てることができた。天に届くとも言えるほど威力をドンドン上げる【火炎粉塵】の中では、身を焦がす高熱と身を切り崩す暴風に包まれている。
《 警告。混合獣は【火属性耐性】を習得しています。 》
…………え?マジで?
「グラァ!!」
【火属性耐性】を習得しているモンスターにとっては【火炎粉塵】がただの【風塵】になってしまう。それでもダメージは与えられるが、【火炎】と【風塵】が合わさることで俺のスキル【火炎粉塵】は完成する。そして…………混合獣なら、ただの【粉塵】を消し飛ばすことなど造作もないことだろう。
【粉塵】を消し飛ばして見せた混合獣は、俺の姿を見つけると角を生かして突進をしてくる。カエルのような足からは想像も出来ないほどの速度でこちらに突進してくる。それを見越していた俺は【氷結矢】を混合獣に放つ。
……突進している混合獣は気づきにくいかもしれないが、俺は混合獣の目を狙って放った。スキル【氷結矢】と言うのは放った矢を魔力で誘導することができる。…………もちろんそれなりの技術は必要だが。しかし、元々細かい作業が得意な俺にとっては十八番とも言えるものだ。
―――ドスッ。
「グラァァァ!!!」
放たれた【氷結矢】を回避することもない混合獣の目には大きさ僅か数センチの氷で出来た矢で右目を貫かれる。さっきの身体強化+魔力撃よりも痛かったらしく、混合獣は突進することを止めて痛みを体で表現するかのように暴れ回る。
(【腐食息風】!!)
痛みで暴れ回る混合獣を畳みかけるようにして次の攻撃を仕掛けた俺。以前、『傷口の方が腐食の速度が速い』と聞いたので、混合獣は今右目が真っ先に腐食しているはずだ。…………一応【腐食息吹】で姿は見えないが、とりあえずその中にいることは分かっているので、スキル【氷結矢】を次々とぶち込む。
やがて―――
《 危険度Sを倒したことにより、大量の経験値を獲得しました。そして、レベルが最大になりました。
ステータスの向上を報告致します。
レベル 60→MAX
攻撃力1625→2000
防御力1120→1300
魔力2230→2800 》
――――あれ?
レベルMAXになったけど【乗り移り】習得してなくね?




