狂人(童顔)の正体
72 狂人(童顔)の正体
「フハハハハ!!!どうした破壊の魔女よ!!貴様の力はその程度なのか?貴様は自分の持てる力全てを出し切っても我を捕まえることすら出来ないのか?ほら、我はここにいるのだぞ?さあ、早く捕まえてみるがいい!!」
「うるっさいわねえ!!おとなしく私に捕まっていれば痛みを感じる前にこの世から破壊してあげるというのに!!とりあえずあんた!!今から私がそっちに行くから待ってなさい!!」
破壊の魔女が住む城の中に上手いこと入ることが出来たノワール。こうして始まったのは、この世で一番危険な鬼ごっこである。ノワールが挑発すればするほど魔女のフラストレーションは溜まっていき、徐々に城に空く穴の数が多くなっていく。破壊の魔女の異名を持っている理由は、その名の通り全てを破壊するだけの力を持っているからである。
魔女は特性で【全ての攻撃に天属性付与】という規格外なものを習得していて、ただ殴るだけでも天属性の効果が付与されるため殆どの物質が容易に破壊することができる。
「フハハハハ!!!『待て!』と言われて待つ奴がいると思うか?まあ、『待つな!』と言われても待たないのだがな!!フハハハハ!!!さあ、早く我を捕まえないと貴様の趣味が全世界に知れ渡る可能性があるぞ?以前貴様が眠りについた時にコッソリ宝物庫をのぞかせてもらったのでな!!」
「な、何てことするのよ!!私の趣味を全世界に知り渡して何をしたいの!!そんなに私のことが嫌いなの?」
「フハハハハ!!!否!断じて否である!!むしろ我は貴様のことが好きな方であるぞ?こんなに面白い玩具は他にいないからな!!フハハハハ!!!さあ、早く我を捕まえてみるがいい!!」
両手を広げて赤のカーペットが敷かれている階段の上で破壊の魔女を見下すように高笑いをする。その言葉を受けて苛立ちを見せる破壊の魔女の足元は徐々にヒビが入っていて、どれだけ破壊の魔女が怒っているのがうかがえる。
「どうした?まさか本当に我のことを捕まえることが出来ないのか?フハハハハ!!!それは笑止!!我やルインと肩を並べる存在出来る『元魔王候補』である貴様は我を捕まえることすら出来ないのか?フハハハハ!!!その程度で『元魔王候補』を名乗る何ておこがましい限りある!!」
「そんなのは私の知ったことじゃないわよ!!そもそも私をルインやハタストム何かと一緒にしないでよ!!私はあんた達に比べて化け物染みた力は持っていないのよ!!そもそも『元魔王候補』何て異名がついたのはあなたのせいじゃいのよ!!
あなたが手っ取り早く悪魔たちに協力していたら私もあなた達みたいな化け物と肩を並べられることもなかったのに…………」
ノワールの言葉に不満と否定をダイレクトに伝える破壊の魔女。ノワールはそんな破壊の魔女が言った言葉に気になる単語があったのか、どこか不思議そうな顔をしながら赤いカーペットが敷かれた階段を一段ずつゆっくりと下りていく。
いつになく真剣な顔をしているノワールを見た破壊の魔女はさっきまでの怒りをどこかに置いてきたかのようにノワールのことを見つめ、深いため息をついて
「ハア…………あんたがここに来た理由が何となく分かった気がするわ。最初から素直に要件を言っていたら私もそれなりに話を聞いてあげたのに…………相変わらず素直じゃないわね」
「すまぬな…………我は元よりこの性格でな。だが、我はこんな傲慢である我が嫌いではない。故に我はこの性格を変えるつもりもないし、変える気すらない」
さっきまでこの世で一番危険な鬼ごっこをしていた同士とは思えず、旧知の仲であるノワールは破壊の魔女に案内されるがままにどこかの部屋へと向かう。さっきまでは互いの歩幅を合わせようともしなかったというのに、今度はしっかりと互いの歩幅を熟知しているかのように歩き出して部屋へと向かう。
「…………ちなみにあんたの目的はあの時から変わらないの?」
「愚問であるな。我は一度決めたことを決して諦めない。今までもそうであったし、これからもそうであるつもりだ。力有り余るこの体を手にしても出来ないことは多いが、それでも我は絶対に諦めるわけにはいかないのだ」
「…………そう。まあ、多分無理だと思うけどね」
破壊の魔女はノワールが絶対に考えを曲げない奴だと分かっていながらそう質問したが、改めて確認がとれると冷たく返事をする。…………しかし、言った傍からそっぽを向くとノワールに気が付かれないようにしてから顔に笑みを浮かべて見せる。
その笑みからは『喜び』や『安心』という感情があふれ出ていて、ノワールの最終目的が変わっていないことを喜んでいるようだ。
「ここでいいかしら?生憎客室はあなたが私を起こした時に破壊しちゃったから今はないけど、それと自室と宝物庫を抜けば一番キレイな部屋よ」
「つまりこの部屋は実質4番目にキレイな部屋ということであるな?それはまた随分と中途半端な部屋を出したことであるな。…………まあ、我としては貴様の宝物庫だけはもう二度と入りたくは無いのだがな」
「うるさいわね。そんなに文句を言うなら入れないわよ」
ノワールにそう忠告した破壊の魔女であったが、言いながらドアを開けては説得力というものが全く感じられない。ここでいつも通り馬鹿にすると思っていたノワールは珍しく静かにドアが開くのを待っていた。
ドアが開くとノワールが破壊の魔女よりも早く入り、中央にある豪華そうな椅子に素早く腰かける。
「あなたねえ…………もう少し遠慮という言葉を覚えたらどう?」
「貴様に遠慮することなど何もない。貴様が我に遠慮してほしいというなら、我を遠慮させるほどのことをすればいい。だが、もしそれが出来ないということは実質貴様の負けだということだ」
静かにドアを閉めて見せた破壊の魔女は自分が座ろうとしていたイスに座っているノワールをどかそうとするが、ノワールの良く分からない言葉に惑わされて気がうせてしまったようだ。破壊の魔女は部屋の隅に重ねて置いてある木で出来た椅子を用意し、ノワールと見つめあうようにして腰かける。
「それで?あなたの目的を教えてもらえるかしら?」
「………先日、我はとある狂人と戦った。しかし、その狂人が去って行くとの同時に我にいくつかの『疑問』を抱かせたのだ。今日はその疑問を無くすのと、あわよくば我が集めている戦力に加えるつもりだ」
「…………清々しいほど素直ね。最後のことは言わない方が良かったんじゃない?まあ…………別に構わないのだけど。ちなみにその『狂人』というのは何者なの?あなたの口ぶりから【魔族】であることは間違いないようだけど、まさか悪魔本人じゃないでしょうね?」
破壊の魔女の言葉に首を横に振って見せたノワール。破壊の魔女はノワールが言っていた『狂人』というのが気になっている様子で、ノワールもそんな破壊の魔女を思考を読んだのか先日奇襲をかけてきた『狂人』について説明を始めた。
「――――ちょっと待って。つまり、あなたが言っていた『狂人』というのはあの時代の生き残りであり魔族である存在。そしてその狂人は去って行くと同時に『この世界の末路』と『悪魔たちの目的』と呟いたのね?」
「そういうことだ。つまり、あいつは悪魔について我々以上に知っているということだ。それに、正直に言うとかなり強い…………。恐らく魔王…………いや、それ以上の力を持っている可能性がある。まだ実力の底が知れず、先日奇襲をかけてきた時もどこか余力を残しているようだった」
「それでもあなたにマントを脱がせるまでは至らなかったようね。…………それにしても、その『狂人』というのは正直気になるわね。私も悪魔の目論見が気にならないわけでもないし…………でも、私はあなたが知りたいようなことは全く知らないわ」
『狂人』についての説明を終えると破壊の魔女とノワールの顔がどんどん真剣な顔となって行く。二人の魔王候補が真剣な顔になるほど今回の案件は重要であり、一歩間違えれば悪魔たちの目論見通り進んでしまうと言う綱渡りだ。
二人が今悩んでいるのはノワールのことを襲った狂人(童顔のこと)が何者であるかだ。あの時代の生き残りであり魔族である存在…………。少なからずあの時代を生き延びて今もなお生きているのは全て人間ではないのだが、狂人(童顔)はその中でも突発して異端な存在である。
「…………貴様はあの時、確か【隠密】として機能していたはずだ。今回話した狂人も【隠密】として機能していたと自分で言っていた。嘘には聞こえなかったし、そもそもあの時代の生き残りでないと分かるはずのない言葉を知っている」
「…………同じ【隠密】であり、白い髪…………そして童顔」
今まで以上に真剣な表情をし出した魔女は手で顔を覆いかぶせながら考え始めた。すると、急に何かを思い出したような顔をしてノワールに言い出す。
「思い出した…………あなたが狂人だと言っていた存在が」
「…………一体何者なのだ?」
「名前はマッド・ヘル…………当時最強の名前を手に入れた人類最強の暗殺者よ…………」




