守れなかった騎士
これで70話目ですね!!
100話の大台まであと30話となりました。
これからも頑張っていきまぁぁぁぁす!!
70 守れなかった騎士
――――さっきまではキレイな青空が広がっていた空はいつの間にか黒い雲で覆われ、今から戦う二人の剣士の心の中を表すかのように雨が降り注いだ。
二人の体が雨に濡れ、互いに緊張感が帯び始める。
「アハハ!!まさか君と僕が剣を使って戦うとは思っていなかったよ。
でも…………まあ、あの時は誰であれ一度は剣を握らされたから一般人よりは剣を使えるのか。まあ、僕と君は少し違ったけどね」
「うるさい…………。少しは静かに出来ないのか。殺し合いに言葉は必要ない…………殺しあいに必要なのは、殺す覚悟と殺される覚悟だけだ!!」
童顔とノワールが一直線に立ち――――そして向かい合う。そして空から降り注ぐ無数の雫のうちの一つが地面に音を立てながら落ちる―――
「おっと」
――――キンッ!!
降り注ぐ雫のたった一滴が地面に落ちると同時に剣を大きく振りかざしながら走り出したノワール。するとここら一帯に思わず耳を塞いでしまうほど大きい金属音が響く。
またもノワールの一撃を軽々しく受けて見せた童顔。その顔にはどこか笑みのような物が浮かんでいて、二人の力が拮抗して剣が震える。すると上体を剃らすようにして跳躍して見せた童顔。あまりに一瞬のことでノワールは上手く反応することが出来ず、上空から剣を振りかざす童顔の一撃に反応するのに一瞬遅れる。
「!?」
しかし、童顔はノワールに剣を振りかざす瞬間に何かを感じ取ったようで少し慌てた様子でスキル【浮遊】を発動させて滞空する。
「危ない危ない…………今君に攻撃を仕掛けていたら一発貰うところだったよ。相変わらず隙がなくてムカつくなあ」
「そんなのは知らん。もし貴様があのまま突っ込んでいったらそのまま一撃貰っていただけのこと。つまり、貴様の実力がその程度だったということだ。しかし、貴様は異変を感じて回避して見せた。
…………この剣技は所見殺しのはずなのだが、なぜ貴様はこの剣技を知っている?」
滞空している童顔の顔には焦りと冷や汗のようなものが浮かんでいて、ノワールの顔がどこか悔しそうな顔であった。よく見るとノワールの剣の持ち方が変わっている。
さっきまでは剣の柄を両手で握っていたのだが、今度は右手はそのまま柄を握っていて左手は剣先に近い刃の部分を握っていた。
「所見殺しねえ………確かにそうだけど、僕も君と同じ時代に生きてるんだからその剣技を知らないわけがない。…………その剣技は剣を棒のように扱う剣技だ。柄と剣先に近い部分を握ることにより力が均等に入りやすくなる。
もし仮に僕があのまま剣を振りかざしていたら容易く君に受けられ、そしてバランスを崩されていた」
「フハハハハハ!!その通りである!!我は貴様のことなどこれっぽちも覚えていないが、中々やるではないか!!ちなみにこの剣技は現在では教えられていないらしいぞ。理由はこの剣技を知っている者が極僅かだからだそうだ。
……じゃあ、貴様はこの剣技を知っているか?」
再び両手で剣の柄を握り始めたノワールは宙に浮いている童顔に受かって剣を振る。しかし、あまりに単調の攻撃…………童顔はこの剣を軽く受けて見せる。
「…………?」
しかし、容易く剣で受けた童顔はどこか納得しないような顔を見せながらその剣を振り払おうとする。――だが、ノワールが仕掛けた剣はピクリとも動かなかった。さっきは力が拮抗しているようで剣が震えていたのだが、今度は剣が震えることもなくピクリとも動かなかった。
「――――!?何だいそれは…………?」
「やっと気が付いたな。だが、もう遅い」
違和感を感じ取ってノワールが握る手を見ると、またも不自然な握り方をしていた。…………右手で剣の柄を握り、左手も柄を握っているのかと思いきや左手は柄ではなく右手も握って固定をしていた。そして…………童顔がその違和感に気が付いた時には既に遅かった。
右手ごとしっかりと固定された剣を童顔が握る剣ごと巻き落とし、がら空きになっている童顔の首を斬り落とそうともう一度振りかざす。
一度下げられた剣をもう一度上げるのは難しく、自分の首を斬り落とそうとする剣を受ける術がない。
「さらばだ」
―――最後にそう呟くと、音もなく落とされた童顔の首。血もつかないほど早い剣速…………落とされた童顔の接続部分からどす黒い血が大量に飛び出ていて、ノワールのマントに大量につく。
「…………終わったか」
首を落とされた童顔に生きているというのは感じられない。それを確認したノワールは童顔に斬り殺された同胞をもとへ近づいて行く。そして、無残に斬り殺された同胞を抱えるとパチンっと指を鳴らして地面に穴を空けた。その空けた穴に抱えた同胞を優しく寝かせると、埋めるようにして土をかける。
「ねえ…………今どんな気持ち?」
「!!?」
土をかけて同胞を埋葬したノワールの耳に、これ以上ないほど不気味な声が響く。その声はさっきノワール自信が斬り殺したはずの声だった。声が聞こえた方を向くと落とされたはずの首がくっついてさっきと同じように活動を開始していた。
さすがのノワールも驚きが隠せない様子で、少し冷や汗を浮かべながら童顔を見つめる。
「ねえ、今どんな気持ち?首を落として勝った気でいたのに実は倒していなかったってどんな気持ち?」
「…………なぜだ。なぜ貴様はまだ生きているのだ。首を斬られても生きる生物なぞ…………」
挑発するような感じでノワールに言葉を繰り返し続けるとは違って、ノワールは首を斬られても生きている
という事実の謎が気になって仕方ないようだ。
「あはは…………すごくいい反応。でも、僕だって予想外だったんだよ?まさか首を斬られるとは思ってなかったし。お陰で無駄な魔力を消費したじゃないか。
僕はね…………特性【蘇生再生】っていうの習得してるんだよ。その特性は魔力さえあれば塵にされない限り、蘇生・再生することができる。だから僕を倒したいなら【天属性】のスキルを使わないと倒せないよ?まあ、それ使ったら僕は【地属性】のスキルを使うんだけどね」
少し疲れた顔を見せながら説明して見せた童顔…………そして、ノワールの顔にはさっきよりも焦りと驚きのようなものが浮き出ている。
「それにしても君も腕を上げたじゃないか…………。あの時代にここまで強かったら彼女を守れたかもしれないねえ…………守れなかった騎士さん?」
「…………なぜ貴様がそのことを知っている?」
「僕はあの時代だと【隠密】として機能してたんだ。君は最初は【戦士】として機能していたみたいだけど、いつしか【騎士】になっていたね。そして…………僕がそれを知っているのは、魔王をけしかけたのは僕だからさ」
「なん…………だと……!?」
突然のカミングアウトにノワールは驚くことしか出来なかった。童顔が言うあの時とは、ノワールやルインが体験してきた悲惨な時代の時だ。その時は魔王の支配力が激しく、魔王による蹂躙が全世界で行われていた。しかし、魔王に服従する種族には危害を加えないという噂が同時に全世界に広がった。殆どの種族が魔王に服従するなか、なぜか人間だけは魔王の危害を受け続けていた。
その原因が童顔だと童顔自身がそう言ったのだ。
「今の話は本当か?」
「そうだよ。僕が魔王に【人間】という種族を襲うようけしかけたんだ。もちろん僕も結構損傷したけどね」
「…………なぜ魔王をけしかけた?」
「それはまだ教えられないな。というわけで、僕はそろそろ引かせてもらうよ。君を殺したいのは山々だけど、僕も色々やることがあるからね」
逃げようとする童顔に「逃げれると思っているのか?」という眼差しを向けながら指を鳴らして【天滅】を放つ。しかし、その【天滅】は童顔のスキル【地殻】で容易く受けられてしまう。
「また会おうハタストム。その時は真実を語るとするよ…………悪魔たちの目的と、この世界の末路を。
この世界の末路を変えるには、君が戻ってくれないといけないんだ。だから僕は君をあの時の君に戻すために殺し続ける」
「言っている意味が分からん…………それ以上無駄口を叩くと言うなら、我は貴様を塵一つ残さずこの世から消してやる」
「今度は守れるといいね…………守れなかった騎士―――」
そう言い残し、童顔は黒い霧と共に姿を消した。
ノワールの胸には童顔は残していった『疑問』という名の矢が深く刺さってた――――
読んでいただいてありがとうございます!
ここに来て童顔の存在が少しミステリアスになってきましたねえ………。
忘れ去られていた方が多かったと思いますが、ノワールにやられるだけに作られたモブキャラでないことくらいは分かったと思います。
次回をお楽しみに!!




