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角を無くしたオーガ その2

62    角を無くしたオーガ その2



(…………角を無くしたオーガか。でも、何でお前は角を無くしたんだ?口で言うのは簡単だけど、オーガの角ってのは命と同じくらい大事なんじゃないのか?)


余計なことを聞いてしまったということに気が付いているけども、俺は話が気になって仕方なかった。まだオーガにとって角がどのくらい大切な物なのかは知らないけど、自分から好んでとる奴もいないだろう。この森には普通オーガがいないはずなのにここに迷い込んだ理由も知りたい。


「…………そうだな。お前が言ったと通り俺たちオーガにとって角というのは命と同じくらい大切なものだ。でも、俺はそんな大切な角を自ら無くした…………自分から切ったんだ」


「見えるか?」何てことを言いながら前髪をたくし上げてオデコの部分を見せてくるオーガ。切ったと言っていたけど、確かにそうい言われると何かが生えていたような痕が残っている。その傷跡を見るだけでもお腹がいっぱいになってしまうほど痛々しい傷跡で、オーガが角を切った時に感じた痛みが手に取るように分かるようだ。

 一度…………いや、二度死んだ俺でもオーガほどの痛みを感じたことがあるだろうか?一回目死んだときもトラックに引かれて一瞬で終わったから痛みとか覚えてないし、二回目何て認識がない時に死んでるからな。

死んだ数は割と多いけども、それに見合うほどの痛みを体験したわけでもない。


だからこそ、このオーガが感じた痛みを分かりたいと思った。


(…………自分で切ったって言ったな。でも、何でお前は自分で角を切り離したんだ?苦い思い出を思い出させるようで申し訳ないが、俺はどうしても知りたい。)


普段よりもなぜか熱くなっている俺は自分自身の勢いに任せてオーガに質問をした。いつもはこんなに暑くならないけども――――



…………その時、以前訪れた竜の里でコアトルちゃんのお父さんに言った言葉を思い出した。


――――すみません。俺はテンションが高くなったり、イライラしたりすると熱くなってしまう人でした。いや、むしろ地球にいたころよりも生き生きしているかもしれません。

 童心に帰ったとでも言うのか?よく子供が口にする「魔法使ってみたい」みたいなことが大人になってから現実になってしまったのだ。それは童心に帰ってしまうだろうと、いよいよ開き直ってしまった方が早いのかもしれない。


―――ゴッホン!!話がそれてしまって申し訳ございません。

 つまり俺が言いたいのは、いつもの童貞のおっさんではなく、『熱くてしつこい童貞のおっさん』となったということだ。…………今適当に考えたことだけど、ひょっとしなくても俺は自分で自分の首を絞めたよね?


「…………確かに思い出したいわけでもない。でも、俺の過去の話を聞いてどうするんだ?」


おっとすみませんオーガさん。真剣なことを話そうとしている時にくだらないことを考えていて。

 ノワールなら絶対「そのくらいにしてくれないか?」的なことを言ってくる場面だけど、オーガはノワール何かと違って人の(ゴーストの)心を読むような野暮なことはしないのだ。


(…………どうもしないよ。ただ俺が聞きたいからだ。…………強いて言うなら――――

   ()()()()()()()()()()()()()()()()()


少しカッコつけながらゴムまりの手を上げて言った俺。

 そんな俺の行動と言葉が面白かったのか、さっきまで辛そうな表情をしていたオーガが大きな声を出しながら笑い出した。


「ハハハ!!そうだな!!それはそうだな…………辛いことも嬉しいことも全部分け合った方が良いに決まってるよな」


笑いながらそう答えるオーガ。バシバシと俺の背中を叩いてくるオーガ(背中かどうかは知らん)。ゴーストだから全くもって痛みを感じないけども、その痛みよりもオーガの手の温かさだけは十分に伝わった。 

 俺のことをちゃんと認めてくれたような気持ちを感じ、この世界で初めての親友が出来たような感じだ。


「話すのは構わないが、あまり面白い話でもない。

   …………そもそもこの世界は亜人族のことを好まない人間も多く存在する。つまり…………亜人を人間と対等な存在だと思っていないということだ」


一息ついてから話を始めたオーガ。話の初まりは地球でもよくある『差別』というもので、今回は人種差別ならぬ種族差別というやつだ。


「俺は貧民街のスラムで産まれたんだ…………もちろん親とかも知らないし、俺は捨てられたんだ。そして不幸にも、その国は亜人を良く思わない人間ばかりが住んでいたんだ。意外かもしれないが、今でも闇市場では亜人が『奴隷』として売られている。人間もいるが、闇市場での奴隷の9割は亜人だ」


…………なるほど。何となくオーガが体験してきたことや、角を切った理由が分かったような気がする。

 種族差別が強い国の貧民街で産まれたオーガ。親も知らず捨てられたということになる状況で育ってきたわけだ。さっきまで笑っていたオーガとは思えないほど真剣で、それでいて辛い表情をしている。さっきは「確かに辛いことは分け合った方が良い」って言っていたのに、やはり辛いことは思い出したくはないだろう。


「…………物心つくころから俺は周りから疎まれ、蔑まれ、そして生き物として扱ってはくれなかった。

   それが嫌で嫌で仕方なかった…………だから俺は、自ら角を切ったんだ。…………あの時の痛みはよく覚えている」


古傷が傷んだのかさっき見せてきた頭を押さえるオーガ。



「でも…………角を無くしたからと言って、人間たちは俺のことを歓迎をいてくれなかった。むしろ以前よりも酷く扱われるようになったわけだ。そして全てに絶望した俺は迷い込むようにしてこの森に辿り着き、【永眠キノコ】を食べて永眠に近い眠りをしたわけだ」


(…………そうか…………そんなことがあったのか。)


全ての過去を話してくれたオーガ。俺の予想ではどっかのタイミングでオーガが話したくなくなるかと思ったけど、辛い気持ちを堪えてまで全てを話してくれた。…………この世界にもオーガが話したような国があるのかと思ったり、種族差別や奴隷という聞いたことのある単語も出てきた。つまりこの世界も少し前の地球とあんまり変わらないということだ。

 特に種族差別、それは地球で言う人種差別と同じようなものだろう。オーガはその人種差別に遭遇してしまし、そのせいで角を無くして今まで一人で生きてきたのだ。


(悪かったなオーガ。辛いことは分け合った方が良いとは言ったけど、さっきの話はお前にとって最大のトラウマだろ?

  …………それに無神経に触れて悪かった。)


「気にするな…………どうせ俺はこうなる亜人生だったんだ。角を無くして人間でもオーガでもなくなった俺は、永眠キノコの効果を知っていて永眠キノコを食べたんだ。

  でも、結局眠ったあとも迷惑をかけることになっているとは思わなかった」


深々と頭を下げてきたオーガ。俺と最初に会った時は全力でお礼を言っていたのに、今は効果を知っているのに口にしたと言う。つまりこいつは死にたかったのか?

 …………確かに絶望したとは言っていたけど死ぬほどだったのか?


(でもお前………俺と会った時めちゃくちゃお礼言ってきたじゃねえか。でも効果を知っていて口にしたってどういうことなんだ?)


俺が心の中でそう言うと、さっきまで全てを話してスッキリした表情をしたオーガが今度は悲しい顔をしながら俯いた。


「…………思ったんだよ。『これを口にしたら俺はもう俺としては目覚めないかもしれない』って…………。そうすると俺は最後まで一人ぼっちで終わることになる。そう思った瞬間、涙が出た。でもそれは『死ぬ』ことに対する涙じゃない。

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――」

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