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練度というもの

56     練度というもの



「グガァァァァァ」


―――ゴオォォォォォォ!!

 俺が今習得したスキルの中で最も強いスキル【腐食息風アシッドブレス】を食らったベヒモスだけど、まさかの特性【自己再生】を習得しているという状況。最初は回復に徹していたベヒモスだったけど、自分の【自己再生】の回復速度の方が速いと分かったベヒモスは、そのまま【腐食息風アシッドブレス】を消し飛ばし、口からかめ〇め波のようなものを放った。


(【解析:今ベヒモスが放ったスキル】。)


《 解析が終了致しました。

   スキル名【魔力破】。文字通り高い魔力から放たれる衝撃波であり、威力は自分の魔力の強さによって左右される。【魔弾】や【魔力撃】の上位互換であり、純粋な無属性の魔力攻撃の中ではトップクラスの威力を誇るスキルである。 》


あら…………随分とカッコいいスキルだけど、ノワールが使う【天滅】に比べると大したことねえな。確かに直撃したらとんでもないけど、そんな【魔力破】など全く怖くない。

 仮に食らっても一撃だけは耐える自信があったりもするし、何なら普通に避けることすらできるかもしれない。


「ハルト殿。これは実にマズイ状況でござる…………。今回の相手ベヒモスが【自己再生】を習得しているとは思っていなかったのでござる。これでは先に吾輩たちが魔力切れで終わってしまうでござる」


(…………どういうことだ?ベヒモスってモンと同じくらいの力なんだろ?今回はコアトルちゃんもいるし、戦力としてはあんまり使えないけど、俺だっているから勝てないわけじゃないだろ?)


「………先ほど吾輩が口にしたことは言え本当に申し訳ないでござるが、互角というのは大人になった狸なのでござる。吾輩はまだ未熟…………それ故ベヒモスには勝てないでござる」


いつもは沈着冷静が売りのモンがかなり後ろ向きだ。沈着冷静故に、いつもは勝利の可能性をいつも信じているというのに、今回はなぜこんなにも自信を無くしてしまっているのだろう。

 …………けど、思い返せばこんな強いモンスターと対峙した時はいつもノワールが頼りだったような気がする。もしこの場にノワールが居たら高笑いをしながら余裕で消し飛ばすことだろう。


でも、今はノワールがいない。つまり決定打がないということだ。それどころか時間をかければかけるほど奴の【自己再生】によって無限ループが発生してしまう。ここは思い切って3人の力を合わせしかないのか?


「問題ない…………こんなの私が余裕で倒す」


(いやいやコアトルちゃん…………さすがにそれは無理でしょ。)


俺とモンがどうやってベヒモスを倒すかで悩んでいるところで自身満々に答えたコアトルちゃんだけど、さすがにモンでも倒せない怪物を倒せるわけがない。確かコアトルちゃんは解析ができないから、ステータスを数値的に見ることはできないけど、竜族だからそれなりに強いのは分かっている。

 でも、さすがにベヒモスを倒せるほどの力はないでしょ。


「グガァァァァァ!!」


――ほら、そんなことを話してるうちにベヒモスが突進してきてるよ!!早く逃げないと――――って、何でそんなにワクワクした顔してるのコアトルちゃん!!そんな顔してないで逃げないとだめでしょ!!

 モンはとっくの昔に逃げてるし、ツッコミを入れてる俺の地味に上空に逃げてるから!!コアトルちゃんだけに任さられないし、いくら異世界だからって35歳の童貞のおっさんが少女に助けられるのも絵ずら的にヤバくないですか?


「コアトル殿ー!!」


「問題ない…………」


俺の代わりにコアトルちゃんに向かって叫んでくれたモンだけど、コアトルちゃんは自身満々の顔をしながら突進してくるベヒモスに向けてゆっくりと片手を伸ばした。

――――ドスッ、バキバキ!!

 ベヒモスがコアトルちゃんに向かって突進していったが、その突進力はコアトルちゃんの華奢な片手によって殺されてしまった。一瞬この何もない白い空間に骨が折れたような音が響き、ベヒモスの突進力とコア

トルちゃんの体幹によって地面はバキバキに割れてしまっている。


――――あれ?もしかしなくても、コアトルちゃんて俺が想像していたよりも何倍も強かったりするの?誰が見ても半端じゃないベヒモスの突進を片手で止めたよね?それに結構涼しい顔してるし。…………全く、さっきのワクワク顔はどこに行ったのやら…………。


「…………これじゃ足りない。こんなんじゃ足りない。私はもっと強くならないといけない…………。こんなのじゃ足りない…………ッ!!」


ベヒモスを片手で固定しながら変なことを叫び始めたコアトルちゃんは、ベヒモスを固定している手とは逆の方の手で拳を握り、そのままベヒモスに強力なパンチを放つ。


「グガ!?」


「…………」


全力で放たれたパンチ――――ではなくアッパーは、象並の巨体を持つベヒモスの体を少し浮かせ、その時にできた隙を利用してさらに攻撃を仕掛けようとする。


「これが私の新しいスキル…………」


(【炎竜】の炎を【身体強化】している拳に纏わせてから打ち込む…………。そう…………このスキルの名前は―――)


「【炎突き】!!」


――――怒涛の連続攻撃を仕掛けるコアトルちゃん…………空中で見るというのも何か気が引けるような気もするけど、ここで助けに入ってもかえって邪魔になってしまうかもしれない。でも、現在コアトルちゃんが使っているスキルは気になるかもしれない。

 時々見える火柱のようなもの…………ただ殴っているだけでは出るはずがない火柱が見えるのだ。一体どんなスキルを使っているのか気になる。


(【解析:今コアトルちゃんが使っているスキル】。)


《 まだ誕生してから時間が経っていないので情報が少ないです。

  個有名コアトルが使っているスキルは【炎突き】。パンチの破壊力に炎を纏わせた攻撃である。破壊力や効率、魔力消費などは個有名コアトルのオリジナルスキルなのでまだ未知です。 》



…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう解析は言っていた。今までそれなりに解析を使ってきたけど、『情報が少ない』と言われたのは初めてだった。解析ができないなら『解析のスキルレベルが足りません』と言っているだけなので、今回のようなことを言われたのは初めてかもしれない。

 しかもコアトルちゃんが自分で作ったオリジナルのスキルとも言っていた。この世界に来てそれなりに時間が経ったから、大分この世界の概念について分かってきているつもりだった。でも、自分自身でスキルを作れるというのは知らなかった。


「ハルト殿、気が付いたでござるか?」


(うわっ!?…………って、何だモンか。いきなり声をかけるから誰かと思った。)


いつの間にか背後に来ていたモン。俺は魔力の消費が気になるので【浮遊】を解除していたけど、モンが後ろにいるとは知らなかった。


「吾輩は気が付いたでござるが…………ハルト殿は気が付いたでござるか?

  一見コアトル殿が押しているように見えるでござるが、最初に比べて一撃一撃の威力が弱まっているでござる。このままいったらベヒモスの【自己再生】が追い付いて、コアトル殿の魔力が尽きるでござる」


モンが真剣な顔で言っているけど、顔が狸のままだから真剣なのかどうかはやっぱり分からない。でも、そう言われてから見ると確かに威力が落ちているかもしれない。

 コアトルちゃんの怒涛の拳の連続攻撃を受けているベヒモスも、結構余裕そうな顔をしている。むしろコアトルちゃんの魔力切れを待っているようにも見えてしまう。


(モン…………今すぐ【人間体】を使ってから【天槍】をベヒモスに打ち込んでくれ。出来ればコアトルちゃんの魔力が切れる前に。)


「了解でござる」


俺の作戦を聞いてくれたモンは快い返事をした後に霧のような物を出して【人間体】を発動させる。俺が個の姿を見るのは久ぶりだけど、やっぱり獣少女というのは何かをそそるものがあったりする(意味深)。

 【人間体】を発動させたモンは大幅にステータスを上げることに成功し、ものすごい速さでベヒモスに突っ込んでいく。


「グガァァァァァ!!」


「…………マズイ。そろそろ魔力が…………」


「【天槍】!!」


――――ズドンッ!!…………ブシャァァァァ。

 コアトルちゃんだけに意識を集中していたベヒモスの体に容赦なく【天槍】をぶち込むモン。そのお陰でベヒモスの体に半径40センチくらいの風穴が空いてしまう。ベヒモスの特性【自己再生】の回復速度はよくも悪くも一定の速さなので、回復できないほど強力な攻撃を食らわせればいいのだ。致命傷には届かなくとも、しばらくの間は【自己再生】を風穴を治すことに集中させることができる。


――――こうなったらあとは俺の出番だ。


(【腐食息風アシッドブレス】!!)


ベヒモスが回復に集中するために止まったことを確認した俺はモンとコアトルちゃんごと【腐食息風アシッドブレス】に包み込ませる。

…………いや、別に二人を腐らせようとしているわけでない。スキルというのはとても便利のもので、無差別範囲攻撃の場合はちょっとコントロールするだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり完全に【腐食息風アシッドブレス】に包み込まれているモンとコアトルちゃんだけど、二人には全くもって無害だということだ。


…………結構疲れるし、今でも集中を解いたら二人を巻き込んでしまうだろう。



「ハルト殿!!まさかこれはハルト殿がやっているのでござるか?」


(ああそうだけど、今結構集中してるから後のことは任せた。)


「いや、もう終わっているでござるよ。ハルト殿が【腐食息風アシッドブレス】を放った瞬間に、吾輩たちは勝利していたのでござる。なぜなら…………腐食というのは傷口の方が朽ちていきやすいからでござる」



ふぁい?

 一瞬モンの言っていることが分からなかったけど、少し考えれば分かることだった。俺のスキル【腐食息風アシッドブレス】は体を腐らせ、溶かし、朽ち果てさせていくスキル。でも、体の部位によっては腐りやすい部位と腐りにくい部位というのが存在する。


そしてモンはその腐りやすい部位を傷口だと言う。

 つまり、今回のベヒモスに止めを刺したのは俺だということになる。確かさっき【経験値2倍】というわけの分からない特性を習得したけど、そんな時に格上のベヒモスを倒したらどうなってしまうのだろう――――



《 レベルアップしました。ステータスの向上と、新たなるスキル・特性の習得を報告致します。 

    25→42

    攻撃力500→1080

    防御力350→700

     魔力700→1340

      

    習得したNSノーマルスキル

    【魔結界】【魔力破】【すり抜け】【千里眼】【氷結矢】【火球】【風迅】【ドレイン】【探知】

    習得した特性

    【自己再生】【スキルレベル自動アップ】【下級魔法・魔術の詠唱破棄】【大食漢】→【超大食漢】 》



 


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