信じたもの
今日は遅れてすみません…………。
そしてここでお知らせですが、そろそろ総合評価pt200にいきそうです。
ここらで頑張っていきたいと思っています!!!
49 信じたもの
「クハハハ!!!まさかアンデッド最弱のゴーストにそんなことを言われるとは…………私も耄碌したものだ。…………だが、力を失った私には丁度いい罵倒かもしれん…………」
この期に及んでまだ全てを失ったいると思い込んでいるコアトルちゃんのお父さんの心には、俺の言葉なんか届かなかった。でも俺がゴーストだということは認識しているようで、そのゴーストに言われることに対して思う所もあるらしい。
ここまで言ってもまだ全てを失っていると思い込んでいるのならこの竜は絶対に自信を取り戻さないだろう。だが、今回の騒動が全部コアトルちゃんのお父さんの手柄にした方が絶対に楽なのだ。あの人間側の方でも『竜の里で勝手に起こったことです』という最高の言いわけを作りだすことが出来る。
ノワールが言っていた通り、ここで今回の騒動を公表してしまっては今回の影に隠れていた魔王が黙っていない。あくまでも今回の騒動は竜族と人間の潰し合いということになっているので、魔王が関わっているということを公表してしまったら魔王がこの世界を滅ぼしかねない。
それだけは何としても避けたいので、ここはコアトルちゃんのお父さんを英雄と仕立て上げるしかないのだ。
(お前は寂しくないのか?ヨセフに負けて長の座を奪われただけでなく、誰からも心配もされずに…………ただ一人で孤独に死んでいくことが。俺は既に二回死んでいるから死にたくない気持ちは誰よりも分かるつもりだ。)
「…………そうかもしれん。だが、今の私は元々一人だ。私は自ら娘をこの里から追放したのだ…………。さぞかし私を恨んでいることだろう…………」
…………ふぁい?
一瞬こいつの言っていることが分からなかった。こいつは今『私を恨んでいることだろう』と言った。自分の真後ろにいるのがコアトルちゃん――――自分の娘だということに気が付いていないのか…………それとも自分の娘が来ないと思い込んで認めていないだけか…………。
けど、前者でも後者でも後ろを向かせてコアトルちゃんがいるということを分からせれば万事解決だ。
(なあ…………ちょっと後ろ向いてみて。)
「…………何故だ?」
(いいから黙って後ろを向いてみろ。多分目玉が飛び出るくらいびっくりするから。)
俺がそう言うと、赤い尻しか見えなかったコアトルちゃんのお父さんは体を回転させて顔をこちらに向ける。どうやらコアトルちゃんのお父さんは尻だけでなく体も顔も赤いらしく、何というか…………竜のようなただづまいを醸し出していた(語彙力なし)。
「ふぇ?…………こ、コアトル…………?」
――――コクンッ。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
後ろを向いてコアトルちゃんのことを確認したお父さんは一度確認をとってからヒュドラの咆哮顔負けの叫び声を上げていた。
※※※
「…………えっと……一度確認していいですかね?えっと…………ハルトさん」
驚きの叫び声をこれでもかというほど上げたお父さんはようやく落ち着いたらしく、滝つぼの水でのどを潤してから俺に聞いてきた。正直に言うと、こんな強そうな相手にさん付けで呼ばれるのは何となく慣れない。というか、もはや当たり前のようにスルーしていたけど、こいつは俺の心の声を勝手に聞いて会話してたよな?なに。やっぱりこの世界の人って人の心の声を聞いちゃう人なの?
もしもこの世界に学校みたいな施設があったらいじめが起きるでしょ…………陰口の意味がないから絶対会社とかできてもギスギスするだけだって。
「…………あの……ハルトさん?とりあえず今回の出来事に関して教えていたただ来ませんかね?」
おっとすみません。勝手にこの世界の疑問を考えているところでした。
…………と言っても、俺も少ししか知りません。今回の事件の真相は、簡単に言うと魔王の仕業です。あなたが負けたヨセフは悪魔の血を飲んで強制的に力を飛躍させました。そして悪魔の血を飲んだヨセフは魔王の手駒として動き、人間との潰しあいが始まるところでした。ですが、その争いが始まる前に私とコアトルちゃん…………狸のモン、そして最強のアンデッドであるハルニトル・ニランクニル・ドルゾエム・フィーレ・ノゼムリム・ハタストムが止めたんです。
…………一応簡単に説明したつもりだったけど、もしかしたら伝わらなかったかもしれない。正直に言うと上手く説明できた自信はない。会社の会議の時もよく注意されたことだ。その時は直そうかなとか思ったけど、一度死んだから既に直すつもりはない。
「なるほど…………そんなことがあったんですか…………。確かにあの時のヨセフからはただならぬ気配を感じました。娘をわざと追放したのもヨセフの魔の手から逃すためです。…………ですが、まさかあの力が悪魔の血を飲んだものだったとは…………」
(一つ聞きたいんですけど、俺の友達のハルニトル・ニランクニル・ドルゾエム・フィーレ・ノゼムリム・ハタストム―――通称ノワールと言うんですが、ノワールは一度あなたと戦ったことがあると言うんです。その話は本当ですか?)
この話は以前この国に来る前に聞いた話だ。確かその時は『決着はつかなかった』って言ってたけども、その話が本当ならばノワールにヒュドラを倒すほどの強さはないはずだ。
その質問を受けたお父さんは天を見上げてから鋭い目つきに変えてから俺に言った。
「…………あの男ですか…………大分昔のことですが、あの男のことはよく覚えています。確かに決着はつかなかったですが、あの男は同じくらいの力を思わせるために手を抜いていました。だから正直に言うとあの男の力は私にも底が知れません。【解析】でステータスを見ることはできますが、所詮は数字です」
…………マジですかい。何かデジャブ感がある反応だけど、ボキャブラリーが豊富でない俺ではこんな反応しかできない。そんなことはどうでもいいのだが、問題はノワールの強さが改めてチートであることが分かったことだ。確かにお父さんの言う通りならヒュドラを倒せる力を持っていたとしてもおかしくはない。相変わらずのチートをむき出しのノワールにはもはや何も言うことがない。
「それでハルトさん………なぜ私を訪ねたんですか?」
(ん?ああ…………実はお願いがあるんです。)
やっと今日の本題に入ることが出来た。でも、少しばかり俺が期待していたコアトルちゃんとお父さんの感動の再開シーンだったんだけど、全くそんなシーンはなかった。結局お父さんが驚きの叫び声を上げて終了となってしまったのだが、コアトルちゃんはそれでも嬉しかったみたいでとても笑顔だ。
でもとりあえず今は本題に入るとしよう。
(今回訪ねたのはあなたを英雄にするためです。…………ノワールは今回の騒動を一般公表しないと言っておりまして、次の竜の長に今回の騒動の英雄としようと考えています。仮に今回の騒動を我々の手柄にしてしまっては、一般人に全てを公表しないといけません。ですが、それでは魔王がもっと動いてしまうのではないのかと思ってます。)
「…………そういうことですか。確かに今回の騒動を公表してしまっては魔王がもっと派手な動きをする可能性はあります。ですが…………やっぱり私にはできませんよ」
少しばかり言葉を切ってから断ったお父さん。もはや呼び名に困ったのでお父さんと呼ぶことにした。…………確かに悪魔の血を飲んだヨセフに負けたからと言っても、負けたことには変わりない。負けたことには変わりないので、自分に自信がなくなってしまうのは当然のことだ。
(…………一つだけ言っておきます。今回の騒動の作戦を考えたのは私です。…………ですが、皆最弱のゴーストが考えた作戦を信じて動いてくれました。)
「…………そう。私も…………ハルトのことを信じた。中途半端な力しか持っていない私に『何もできないからって何もしない理由にはならない』と言ってくれた。…………私はその言葉を信じてみた」
…………俺の肩を持ってくれたコアトルちゃん。自分で言った言葉を他人に改めて言われるととても恥ずかしかったりする。
でも、わざわざコアトルちゃんが助け舟を出してくれたのに乗らない手はない。
(そう…………聞いた通りコアトルちゃんも信じたんだ。…………で、あなたはどうします?あなたが手放した娘さんは俺を信じた。そして、少しでも自信を取り戻したいと言うなら――――あなたも信じたほうがいいんじゃないですか?)
少しばかりズルい言い方だけど、ここまで言わないとお父さんは絶対に受けてくれない。
そして、少し考えるような素振りを見せたお父さんは俺の目を見ながら言った。
「…………分かった。あなたが言った通り、娘が信じたものを私も信じるとしよう…………」
こうして、半ば強引でお父さんを竜の里の英雄にする計画を成功させることができたのだった。
アハハ!!春休みが終わって学校が始まってしまいました。
ヤバいです。ヤバいです。宿題が終わったと思ったら、休み明けテストの時間でした…………。




