決定打とは
どうもココアです!春休みの宿題を一個もやっていないというのに、小説だけでは書いているココアです!
皆さんお立ちよりありがとうございます!楽しんで読んでくれると嬉しいです。
43 決定打とは
竜の里の中心にそびえたつ背の高い建物。そこは砦と呼ばれ、竜の里の長や立場の偉い竜がいる場所だという。その砦の屋上では過去最大と言っても過言ではないほどの戦いが繰り広げられていた。
砦の屋上にいるのは最強のアンデッドと呼ばれているノワールと、かつて女神によって作りだされた最悪であり災厄の竜…………ヒュドラだった。
現在砦は丸ごとノワール【魔結界】によって守られており、今は爆発音さえも心地いいと感じるほどの騒音と攻撃の連鎖がヒュドラに打ち込まれていた。
「フハハハハハ!!どうだヒュドラよ!力とは違って知力はゴブリン以下のヒュドラよ!貴様の頭ではその攻撃の連鎖を回避することはできないであろう?少し頭を使えば回避できない連鎖でもないが、貴様の知力では到底できまい!!貴様の異常なほどの再生速度も、我にとっては体が頑丈としか思わん」
両手を広げて高笑いをする我。だが、高笑いが出てしまうのも無理はない。初撃の【天滅】は首を二つ消し飛ばすだけでなく、ヒュドラの動揺も買ったというべきだろう。すぐさま再生されたことには我も少々驚いたが、それでも我が次の作戦を考えて実行するまでは十分に余裕があった。
「モンよ…………貴様の方は大丈夫であるか?」
この分だとヒュドラの方は大丈夫だと思った我はヨセフを任せたモンの方を向く。我が【縮地】を使ってヨセフの死角に入り込んでいたから、初期の戦闘開始場所はモンの方が有利と言っていいだろう。あのヨセフという男の実力が分からないため、絶対に勝てるとは言わないが…………モンなら十分に勝機があるはずだ。
「【天槍】!!」
「チッ…………。そんなスキルを習得していたとは…………」
我が振り返って見た光景は誰がどう見てもモンが押している状況だった。我が習得しているスキル【天滅】と変わらない効果がある【天槍】をヨセフに打ち込んでいたモン。もし狸の状態だったなら単純な攻撃力でのダメージであるから、対してきかなかったかもしれぬがモンは【人間体】を使って外見は人間となっている。そのためステータスが大幅に上がり、当然ながら攻撃力も上がっている。
そんなモンの【天槍】がもろに当たってしまえば、さすがの竜と言ってもただでは済まない。実際左腕がやられたと見える。
「ノワール殿!大丈夫でござったか!」
「我は貴様の方を心配していたが、そんな心配はいらなかったようだ。…………だが、そろそろ【人間体】は解いた方がいい。その状態で【天滅】まで使ったというなら魔力は殆ど残っていないだろう。ここで貴様という戦力を失うのは痛い。ヒュドラも一見大丈夫そうだが、戦いに絶対は存在しない。何が起こるか分からん」
「…………分かったでござる」
我の忠告におとなしく従ったモンは疲れ切ったような返事をしながら発動していた【人間体】を解く。するといつもの魔獣の姿――――狸の姿となっていく。こうしてみると少し頼りがいがないが、それでも十分な戦力だ。今やるべきことは我が今までゲートに送ってきた攻撃が尽きる前にヨセフを倒すこと。
「さあやるぞモンよ。次にヒュドラが動き出すまでの3分間、それまでにヨセフを倒すのだ」
「分かったぜござ…………え?今3分間って言ったでござるか?」
「よし行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って欲しいでござるぅぅぅぅぅぅ!!!」
最後にモンの叫び声が聞こえたような気もするが、そんな声は気のせいだ。我がそう言っているのだから間違いない。たとえモンがそう言ったとしても認めない。我はモンに最低限のことだけを伝えて【天槍】を食らってひるんでいるヨセフと一気に距離を縮める。スキル【音速走】を使って距離を縮めたのだが、この程度で驚かれてしまっていてはヨセフの実力の底が知れるものだ。
「【魔弾】」
距離を一気に縮め、そのままジャンプをしたあとに右手の指をピストル型にして魔弾を発射させる。一発だけではなく数発連射だ。普通連射型は狙いを定めるのが難しいからやらないのだが、これだけでデカい的なら狙いをつける必要なんてない。
――――パチンッ。
【魔弾】がヨセフに当たる前に今度は指を鳴らしてスキル【黒炎竜】を放つ。今はゲートから出すことはできないので、我の貴重な魔力を消費して打ち込んだ。追尾効果のある【黒炎竜】を後にはなったのは『逃げても無駄だ』ということをヨセフに伝えたかったからだ。
かなり厳しい表情をしている様子のヨセフがこれを回避する方法と言ったら、防御スキルを使うか攻撃スキルを使って相殺するしかない。
――ドガンッ!!!!!
だが、ヨセフは避けることもスキルを使うこともなく我の攻撃をもろに受けた。爆発音のような音が響くが、この程度の攻撃では致命傷には程遠い。せいぜいこの後に使う予定だったスキル発動に必要な集中力をそいだくらいだろう。
「…………どういうことだ?貴様はそのままヒュドラが動きだすまで待っているつもりか?」
「さあ…………どうだろうな?」
我のスキルのお陰で舞い上がってしまった砂煙が無くなると、想像通りまるでダメージを負っていないヨセフは我の質問をはぐらかす。
「やっぱり強いな…………。最強の名は伊達じゃないってことか。ヒュドラをお前と戦わせたら勝手に死んでくれると思ったが、どうもそういうわけにはいかねえようだな。しかも、その気があれば俺のこと何て3分かからず消し飛ばせるはずだ」
「この期に及んでまだ無駄口を叩けるとはな驚きだ。そうだ。我の力を持ってすれば貴様なんぞ簡単に消し飛ばせる。…………だが、それではだめだ。それをしてしまっては我ではなくなるからな」
「アンデッドになって人間を止めたお前がこれ以上何を守るんだ?その下らねえプライドはお前だけじゃなく、世界を滅ぼすぞ?」
「どういうこと――――」
――――我が聞き返そうとして警戒を怠ったその瞬間、さっきまで目の前にいたはずのヨセフがいなくなってしまった。
「なっ!?」
少しばかり驚いた我だが、いきなり消えたようにいなくなったのには何が仕掛けがあることくらい分かっていた。竜族は代々自分の力が強すぎるため、自分を強化するスキルを持っていない。我が習得しているスキルの【音速走】や【身体強化】といったスキルは習得できないのだ。
「だとすれば…………あれだけか」
思いついた我は急いでスキル【透視】を発動させる。そう。消えたようにいなくなった正体は【認識阻害】だ。習得できないスキルではないが、力の強い竜族が習得するのは珍しい。
スキルを発動させた我は急いで周囲を見渡す。すると、現在進行形で攻撃の連鎖を受けているヒュドラの方に向かって飛んでいる。
…………さすがは竜と呼ぶべきか。飛んでいる速さはとてつもない。今から我が【音速走】を使っても間に合わない。
「久方ぶりだな…………。このスキルを同時に発動させるのは…………」
ヨセフの場所を確認した我はスキル【音速走】だけでなく【身体強化】も発動させて一気に距離を縮める。【身体強化】はその名の通り身体能力を飛躍させるスキルで、それに上乗せするように【音速走】も発動させる。
「…………どこに行くのだ?」
「――!?…………そうか。もう気づかれたか」
まるで瞬間移動のように飛んでいるヨセフの目の前に移動した我。あのままヨセフがスピードを緩めることなく突っ込んで来たなら処理も楽だったのだが、どうもそういうわけにはいかない。
「悪いがヨセフ…………そろそろヒュドラが動きだすから手加減はできん。今度は全力で【天滅】を打たせてもらう」
「じゃあ最後に雑談を聞いてくれ。何で魔王様は俺を選んだと思う?」
ヒュドラが動きだすまでの時間はあと1分半と言ったところか…………。それに、仮に攻撃が尽きても再生まで時間がかかるはずだ。
「そうだな…………。力を欲していたからではないのか?選んだ理由など分からんが、何かを欲している者に魔族は目を光らせている。得にその欲が強すぎる者ほど」
つまり我の言いたいことは『簡単に行きそうだから』ということだ。血を飲んでくれなそうな奴に血を渡す者などいない。血を飲んでくれそうだから選んだだけではないのか?
「なるほど…………だが、少し違う。魔王様は…………俺をヒュドラのえ…………さに…………」
「どうした?」
言葉に詰まっているのか分からないが、最後の部分が良く聞き取れなかった。少し気になってヨセフ顔を見てみると、目に埋め込まれている紋章のようなものが紫色に光出す。痛みを伴うのか…………さっきモンの【天槍】で破壊された左手で目を押さえつけるようにしながら暴れ回る。
「おいヨセフ!一体どうし…………」
「マジか…………まさか…………もう命令がくるなんて」
敵同士であるものの、なぜか我は心配してしまった。なぜか分からぬが、心配いてしまったのだ。そして、我が声を荒げた瞬間に妙なことを言ったヨセフは、まるで狂ったように攻撃の連鎖を受けているヒュドラの方へと飛んでいく。
急いで振り返るが、声を上げていたロスは大きくスキルを使っても追いつけない。だが、まだヒュドラには攻撃の連鎖が続いている。あの中に飛び込んでいっては自殺もいいところだ。
「魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様…………」
ヒュドラに向かって飛んでいっているヨセフは本当に狂ったようで魔王のことを呪文のように言いながら飛び込んでいっている。最初からヨセフは捨て石だったということか?だとすれば、ヒュドラを復活させた意味はない。魔王の狙いというのが、まだ我には理解できていなかった。
「ノワール殿!彼を行かせてはだめでござる!!」
「どういうことだ?」
「吾輩が戦っていると時に聞いたでござる。魔王の狙いはノワール殿とヒュドラを部下にすることだったのでござる!」
「な…………に?」
肩に乗ってきたモンの言葉を聞いた我は全てを理解した。思えば魔王の目的は最初から我だということをヨセフが言っていた。確かに我が本当に狙いだというには人選が半端だ。確かに力はあるが、ヨセフはまだ発展途上であり、自分の力を自由に使うことが出来ない。力はあっても己が弱いから意味がないのだ。
そして魔王が選出させたのは最悪であり災厄の竜…………ヒュドラだ。だが、仮にヒュドラが我を殺したとしてもその後のことが問題なのだ。ヒュドラの力では本当にこの世界を滅ぼしかねない。
目に入ったものを殺し…………食らうことしかしないヒュドラだから、この世界の生物がいなくなるまで暴れるだろう。魔王でも手に余る存在だ。
「そうか…………最後に言っていたことは『エサ』だったのか。言葉がとぎれて分からなかったが」
そう。最後に言おうとしていた言葉。それは『エサ』という二文字だ。魔族の血を飲んだヨセフをヒュドラが食らえば、間接的にヒュドラがヨセフに血を与えた魔王の部下となる。隷属させることで勢力を上げると言うことだろう。
「キシャァァァァ!!!!」
「…………これはマズイな」
タイミングを狙っていたのか…………我が考えていた時間の間に攻撃が止み、ヒュドラも動き出した。
そして…………攻撃を永遠に食らっていたヒュドラは憤怒している。そのヒュドラの一つの顔に向かってヨセフが飛んでいく。今我が全力で【天滅】を打っても間に合わない。ここはおとなしくヒュドラが魔族化するのを見てるしかないのだ。
―――バクンッ!!!
躊躇なく大きく口を開けているヒュドラの口に向かって飛び込んでいったヨセフ。思えば、魔族化するところを生で見るのは初めてかもしれない。…………黒い霧のようなものがヒュドラからあふれ出ている。
魔族化したヒュドラを倒すなど、我とモンだけでは当然のことながら不可能だ。だが…………我の仲間は一人ではない。
そろそろ来る頃だろう。
(あれ?ノワール。これってどういう状況なの?)
「ようやく来たな」
さあ、これで終わりとしようではないか。魔族化したヒュドラに打つ手などは考えていなかったが、ここでハルトとコアトルが来たのは大きい。
「さあ…………反撃ののろしを上げるとしよう」
――――パチンッ。
読んでいただいてありがとうございます!!
次回更新は二日後でございます!作者目線だと中々いい展開かな~と思い込んでいます。
次回をお楽しみに!




