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モンの強さ

32      モンの強さ


半ば強制的ではあるものの、新しくぽんぽこ山の主である狸――――モンが仲間となった。モンもまた満更でもないような感じでOKしてしまった。

でも、モンが仲間になってくれたお陰でぽんぽこ山を下山するための最短ルートを進めるし、木の実や食べられる草なども教えてくれる(味覚ない)。

 だから結構助かっている――――あれ?今気が付いたけど、現在俺はいらない存在だったりする?

道案内役はモンが居るし、魔王くらすが奇襲をしてきても撃退できるぐらいの強さを持っているノワールいるし。



よくよく考えたら俺、いらない子だったんですか?


「ハルトよ。貴様は自分にもっと自身を持った方がいいな。確かに役に立った数の方が少ないが、全く役に立っていないわけでない。もっと自分に自身を持つんだ」


相も変わらず俺の心を読んでいるノワールは慰めるために言ってくれたのだろうが、ノワールのその言葉は俺の精神HPを容赦なく減らしてきた。褒めているのは貶しているのか分からないと感じたのは俺だけだろうか。素直に罵倒されるよりも、無意識に遠回しに罵倒されたから余計に傷ついてしまった。


「それはそうとモンよ。貴様はどのくらいの力を持っているのだ?」


「吾輩はそこまでの高ステータスを持ってはいないでござる。父上のような強さを持っていれば、魔王ごとき撃退できたでござるが…………」


おい。しれっと俺の存在を空気にするな。体だけでなく存在も透明にされたらさすがの俺も泣いちゃうぞ。

珍しく俺のことを褒めたと思った瞬間に放置された俺はなぜか目から汗が流れそうになってしまった。でも、確かにモンのステータスは気になる。

 モンの父親が魔王に深手を負わせるほどの実力者であるなら、モンにもそれなりの力があるということだ。魔王に匹敵するほどの強さを誇る狸というのも考えただけで恐ろしいけど、今は仲間だから気にしないでおこう。


(【解析:モン】。)


《 解析が終了致しました。ただちに展開いたします。

     種族:魔獣

  個体種族名:狸

    個有名:モン

    

    レベル:152

    攻撃力:5500

    防御力:20000

     魔力:15000 

   

     SPSスペシャルスキル 幻惑イリュージョン

      NSノーマルスキル ※多すぎて反映不可 》



頭にいつもの声が聞こえてきて、ノワールを調べた時と同じように事細かにステータスが反映された。規格外のステータスを誇るノワールと比べるといまいち強さが分からず、この状態だけだったらモンがそこまで強くないとまで思ってしまう。

 攻撃力と比較すると防御力が高いような気がするけど、こいつは結構防御型なのか?というか、NSノーマルスキルが反映されないこと多いな。皆そんなにスキル習得してるの?


何か…………3人いて一人だけレベル三桁いってないと結構辛いな。


自分がいじめられているような気分になってしまったが、こいつたはそんなこと気にしないだろう。体を発見した今、俺がするべきとこは『レベルを上げてスキルを覚えること』だからな。一応それをすること前提で旅に出てるけど、いつの間にか終わりのない旅行と化していたような気がする(そんなに時間経ってない)。


「…………ふむ。貴様は物理攻撃が不得意なのか?」


「そういうわけではないのでござるが…………吾輩のステータスは変化させることができるのでござる」


そう言ったモンは下を向きながら何かを呟き始めた。スキルを使って身体強化でもするのかと思ったけど、それでは変化とは言わない。実際に【身体強化】っていうスキルがあるのかもわからんし。

 そう思っていると、いきなりモンが白い煙に包まれて姿が見えなくなった。目を細めて睨むかのように見ていると、やがて人間の足のような影が見え始め――――人間の足?


モンにはあるはずのない長い足が見え始め、やがて煙が消え始める。全長40センチくらいしかない俺では足しか見えないので、俺は目線を少しばかり上に向ける。


煙がなくなって姿が見えたのはさっきまでいたはずのモンではなく、耳と尻尾が生えたどこか狸の面影がある程度の美少女が立っていた。


「こ、この状態になるには結構な魔力が必要なのでござる…………」


赤くなっている顔を隠すようにしているけど、そんなことはどうでもよかった。


(こ、こいつ…………メスだったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?)


この世界に来て何回か驚くことはあった。だけど、これは今まであった中でもトップクラスの衝撃だった。一瞬、これが俗に言う『男の娘』かと思ったけど、狸の状態とは違って声が高いしなぜか35歳の俺の煩悩を刺激してくる。

 身長は145センチくらいで、茶色の髪と茶色の耳を頭に生やしている。尻尾は狸の状態とあまり変わらず大きいが、問題はあの狸がとてつもなく美少女になってしまったということだ。


そう…………今モンに異名をつけるとすれば『理想の獣人(美少女の)』とでも名付けるだろう。


…………おちつけ、落ち着け俺の理性。いくら美少女でも狸だ。狸。狸――――いや、美少女だ。


マズイ…………いくら心に言い聞かせても一周回って元に戻ってしまう。


「ほう…………貴様、【人間体にんげんたい】を使えるのか」


「はい…………でも、持続時間はそんなにないので覚悟を決めた時以外は使わないのでござる」


(【解析:目の前の美少女】。)


《 解析が終了致しました。

    種族:魔獣

 個体種族名:狸

   個有名:モン


  ※ここから先は【人間体にんげんたい】状態のステータスです。


   攻撃力:20000

   防御力:32000

    魔力:40000 》




うわ…………スキル使っただけでこんなに違いますか?

 解析を使って調べた結果、さっきの状態のステータスとは段違いに強くなっていた。ノワールと比べるとそこまでではないが、それでもかなりパワーアップしている。スキルで強制的にステータスを上げているのであれば、俺にも使えるかもしれない。


「いや、このスキル【人間体】というのはアンデッドには習得できん。我らアンデッド族に使えるのは【変身】だけである」


うわーそんな差別があっていいんですか?差別は人を不幸にしますよ。特に会社ではめちゃくちゃ人を不幸にしますよ(自分がそうだから)。

【変身】っていうスキルも多少なりに興味はあるけど…………別に変身してまで人間にはなりたくないし。


「時にモンよ…………貴様のその力、我はもう少し見てみたい」


「どいうことでござる?吾輩のスキルを見せればいいのでござるか?」


「違う。我と実際に戦うのだ。貴様の力がどれほどなのか見てみたい。万が一にでも山が破壊された場合は我が責任持って直すとしよう」


え?ちょっと待ってくれノワール。何でいきなり戦う雰囲気だしちゃってくれてるの?確かにモンの強さがどれくらいなのか気になるけど、いきなり戦うなんて物騒なこと言わないでくれる?

 モンだって動揺して――――


「戦ってくれるのでござるか?」


おっと、めちゃくちゃ嬉しそうですね。

俺に賛同してくれると信じてモンの方を振り返って見ると、これ以上にないほどワクワクした目をしていた。戦うことがそんなに嬉しいのか。

 頼むから誰か俺に賛同してくれる奴はいないのだろうか。



「我に二言はない。思う存分暴れるがいい」


「分かったでござる」


モンはワクワクした気持ちを抑えられない様子で、ノワールから許しを得ると同時に木が密集している所に逃げ込んだ。これはノワールの目を欺くためなのか、それともどこから攻撃が来るのか分からせないようにするためなのかは分からない。

 でも、木が密集している所に視線を向けたノワールは、今まで以上に攻撃を警戒しているようだった。



「…………」


警戒をしているノワールはゆっくりとピストル型にした指を木が密集している所に向けて『魔弾』を打ち込む。モンを狙い撃ちしたというよりは、場所を特定させるために撃ったような感じだ。さほど威力もなく、挨拶替わりの攻撃と言ったところだ。

 魔弾を撃ったノワールに対し、モンは何もしてこなかった。いつまで狙いを定めているつもりなのだろうか?さっきはワクワクした目をしていたはずだったのに、やっぱり怖気づいてしまったのだろうか。


「む?」


何か違和感を感じたノワールは指を鳴らして魔結界を張る。ノワールが魔結界を張った直後、その魔結界に何十枚もの木の葉がまるで鋭いナイフが当たったようにぶつかった。魔結界がなかったらノワールにその木の葉風ナイフが直撃していたことだろう。


「フハハ、フハハハハハ!!いいぞモンよ!!貴様は想像以上だ!我の想像を超える力を持っている!」


攻撃を食らったノワールはなぜか嬉しそうに高笑いをする。これは相手を舐めているのではなく、ちゃんと『相手』として認識した証拠だ。いつものノワールなら大体の攻撃を防御したりはしない。

 モンのことをちゃんと『相手』として認識したからこそのことだ。


「吾輩のことを舐めているのでござるか?」


高笑いをしているノワールにいつ近づいたのか、ノワールが魔結界を張っていない背中に回り込んだモンは人間のような手から鋭い爪をたてて、ノワールを切り裂く。

 ザクッ!!


ハサミでなにかを斬ったような音が鳴り響き、ノワールの背中に一発食らわせ――――――ることもなく、マントにも爪痕一つついていなかった。



「ほう…………今のは【かぎ爪】だな。我のマントを裂くことをできないのは知っていたが、貴様は【かぎ爪】の本質を理解していないな」


「どういうことでござる?」


パチンッ。

 戦い途中でありながら話を始めようとした二人だったが、ノワールが指を鳴らしてその空気を断ち切る。

ノワールが指を鳴らすとモンの後ろから黒い渦のような物が現れ始めた。その黒い渦は以前童顔と戦ったときにみた【ゲート】というスキルだ。


黒い渦の存在に気がついていないモンはそのままもう一度ノワールに攻撃を仕掛けようとする。その瞬間、黒い渦から黒い炎でできた竜が飛び出てきた。

これも以前見た【黒炎竜】というスキルで、攻撃対象を中心に広範囲を灰にするほどの威力を誇る。



「!!?」



ドゴーン!!!

 完全に不意をついた黒炎竜は誰が見ても直撃したように見えた。黒炎竜が爆発音と爆風を起こし、強烈な砂煙も上げてしまった。

こうなってしまっては俺では中の状況を見ることができない?


では、本日の解説は以上です。今回はゴーストのハルトがお送りいたしました。この後のことはノワールさんにお任せしまーす。

 現場のノワールさーん?



「……………どこだ?」



黒炎竜で不意打ちを仕掛けたまでは良かったが、そのお陰で視界が悪くなってしまった。モンは狸であるから我よりも鼻がいい……………こうなってしまっては不用意には動けまい。



「かかったでござるな」


「!!?」



突如聞こえてきた死神のような声!姿は見えずどこに居るのかも分からない。……………そうか、奴はさっき【縮地】を発動したのか。

 縮地は敵の死角に入り込む、不意打ちを仕掛ける時に使われるスキル。黒炎竜を回避するだけでなく、その次の攻撃に繋げるのは…………。


「これが最後の攻撃です。我輩の()()()()()()最高火力のスキルを使うでござる」



――――後ろ!

 気がついた我……………でも、一瞬遅い。手練れ同士ではその一瞬が命取りとなる――――!!


「どんな防御も意味のない物理攻撃【天槍】!!」


モンは全力で我に攻撃を仕掛けてきた。

ならば、全力をもって相手をするのが敬意であり、筋である。【天槍】、それは【天滅】と同じ効果を持つ物理スキル。モンは一切無駄のない動きで手を槍のごとく突き刺してくる。

 その破壊力が詰まった手ではなく、腕を掴んだ我はそのまま腕を引いて体勢を崩す。


「え…………?」



体勢を崩したモンに足を引っ掻け、そのまま転ばせる。足を引っ掻ける瞬間に【打ち消し(バニッシュ)】を使ってモンの人間体を強制的に解除させる。

……………ポンッ!


一瞬にして人間から狸へと戻ったモンは相当な魔力を消費したらしく、そのまま倒れるようにして地面にへばりついてしまった。



「さすがでござる…………。我輩が全力を出しきっても傷一つつけられないノワール殿の強さ…………身をもって体験したでござる」



「気にするでない!我が相手であるから仕方ないであろう!貴様は

我と旅をしている途中に傷一つはつけられるよう精進するのであるな!」


「分かったで…………ござる…………」


魔力切れか。モンは命乞いをするかのようにして眠っていった。いつまで経っても砂煙が消えることはなく視界は悪い。

だが、そろそろ出てハルトの相手をしなくては後でうるさい。

 モンと共に砂煙を抜けようと持ち上げた瞬間、我の右の腕から血が垂れてきた。



「……………あの時か」



あの一瞬、腕を掴んだつもりだっのだが、少しだけかすってしまったらしい。

 血を流すのは何百年振りか……………ここで、我の期待する者が一人増えたことはまだ言わないでおくとしよう。

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