魔族として再開
27 魔族として再開
「空間を捻じ曲げて対象をどこかに転移させるためのスキル…………【ゲート】か。君が使うと何でも簡単そうに見えてしまうけど、そのスキルは誰もが覚えられるスキルじゃない。
最強の異名は伊達じゃないってことだね」
ノワールに言われて少し離れた場所で身を隠した俺は、少しばかりノワールの心配をしていた。あいつが負ける所を想像することはできないが、それはあくまでも俺自身の妄想でしかない。万が一にでもノワールが殺されてしまっては状況はかなり変わってくる。
ノワールから距離が数百メートル離れているのにはっきりと見えるのは、ノワールが【千里眼】というスキルを同調してくれたのだ。
【千里眼】というのに声も聞こえるという少しおかしなスキルだが、お陰で戦況がよく見えて助かっている。今までの会話を振り返るとノワールと童顔は昔の仲間だということらしい。
詳しい話は分からないが、そこまで仲は良くないみたいだ。さいごに見たのはすごい剣幕でノワールが怒っていたというだけだ。
どっちが勝つかは分からないけどノワールが勝つことを願っているのは確かだ。
「全く…………君には失望したよ。『群れ』とは弱さの証だと言うのに、アンデッド族最強である君が最弱のゴーストと旅してるなんて」
「群れこそが弱さであるというのに、なぜ悪魔たちは魔族を増やしている?そして貴様はそれに承諾をした。自ら群れることをしたというのに、貴様自身に群れを否定する権利があるというのか?」
おお…………さすがはノワールだ。さすがの俺もそこまで的確な言葉カウンターをかませる自信はない。あの童顔が言っていたことに矛盾を感じたような気がするのは俺も同じだったけど、そこまで的確な答えは見つからなかった。
ノワールの容赦ないカウンターを食らった童顔は顔を赤く染めながら再びノワールに手を翳す。
いや、手を翳すのではなく小学生がやりそうな感じで指でピストルにしてノワールに向けた。
「【魔弾】」
童顔がピストル型の指をノワールに向けたあと、スキルを使った。何とも小学生が考えそうなスキルである。そして俺の想像通り指先から大砲の玉くらいの塊が半端ない速度で発射された。
細い指先から大砲の玉クラスの大きさ発射されるという常識外れのことが起こったことにはツッコミを入れないようにしよう。
「ほう…………【魔弾】か。そこまでの威力を生み出すのは世界に何人もいない。だが、我にその程度の攻撃がきくとは思わないことだな」
目で追いつくことができないくらい速さの玉が自分に向かっているというのにも関わらず、全く動じていないノワールはゆっくりと右手を伸ばして余裕で待ち構えている。
ノワールが余裕で構えているということなら、そこまで心配することもないだろう。
「だが、貴様の狙いはこれではない。貴様が狙っているのは時間稼ぎであるな?」
さっきまで伸ばしていた右手を下ろしたノワールは、今まさに当たるというところまで来ている玉を回避することなく目を瞑った。
ドゴン!!!
ノワールが目を瞑っても玉が止まってくれることもなく、容赦なくノワールを打ち抜いた。爆発音と砂煙を上げて辺りは何も見えなくなってしまった。
砂煙砂煙が完全になくなるまでは時間がかかると思っていたが、その常識はチート並を持っているノワールには通用しないことを思い出した。
砂煙が立ち上っていた焼け野原に強烈な風が吹いて砂煙を全てなくした。そんな芸当ができるのは…………そんなことをする奴は今は一人しかいない。
砂煙がなくなって視界がはっきりすると、一番砂煙が激しいはずだった場所に黒いマントの男が立っていた。その男はあの砂煙の中にいたというのに全く汚れておらず、大砲クラスの玉をもろに受けたというに傷一つついていなかった。
その男―――ノワールを中心としてクレーターのような穴が空いているというのに、なぜノワールにダメージはないのだろうか?
「フハハハハハ!!貴様の力はそんなものか!悪魔と契約をしてまで力を追い求めたというのに、得た力では我に傷一つつけることさえできないとは!!」
…………うん。いつものノワールだ。
少しばかり心配したというのに、俺の目線の先には黒いマント姿の男が両手を広げてめちゃくちゃ馬鹿にしていた。ノワールがそんなテンションなら心配するだけ無駄だったか。
いつものように馬鹿にして、馬鹿にされている奴はめちゃくちゃ涙目で…………あれ?本当に泣いてる?
顔が赤いのはさっき確認できたけど、何やらすごくプルプル震えているような気がするんだけど。
「何でだ…………君はなぜそこまでの力を持っているのにも関わらず、放浪者をやっている?君はいつまで関係ないと勘違いをしている?」
…………なんだ?関係ないと勘違いしている?
ノワールに聞こえているのかは分からないが、千里眼のお陰で俺は全て聞こえている。ノワールの圧倒的な強さに嫉妬したのだろうか?今回、ノワールに歯が立たなかったのは素人目から見ても明らかだ。でも、童顔は唯一気になることを言った。
『いつまで関係ないと勘違いをしている』と言っていた。この世界で今何が起きているのか、なぜ魔族が増えているのか。ノワールが過去に何があったかはまだ知らない。
でも童顔の言葉を聞いた限りでは、魔族が増えていることとノワールは何か関係している可能性が高いということだ。
「フハハハハハ!!貴様はさっさと消えて失せるがいい!!…………と、言いたいところだが、また狙われるのも気が引けるのでな。
ここは少し力づくにいかせてもらうぞ」
少しばかり前置きをしてからノワールは指をパチンと鳴らした。
さっきのように【ゲート】を使うのかと思ってたけど、どうやらそういうわけでもないらしい。パチンと指を鳴らしたことに何の意味があるのかは分からないけど、嫌な予感がするのは俺も童顔も同じだろう。
「我がこのスキルを使うのは二回目だが、貴様に使うとは思っていなかった。
我の持っている数千種のスキルの中でも最も過剰威力を誇るスキルである」
ノワールが冗談の一線を確実に超えている発言ばっかりしている。数千種のスキルを習得していることにも驚きだけど、何でここに来て最も過剰威力のスキルを選んじゃうかな?
それって俺にも被害くるよね?というか、この辺にある村とか街とか、下手すれば大陸全てが吹き飛ぶんじゃないの?
「君は一体何を言っているんだ?君が何のスキルを使うのかは知らないけど、僕がその程度で死ぬわけないでしょ」
「そうか…………なら受けてみろ。我の力を――――【天滅】!!!」
ノワールがスキルの名前を叫ぶと、宙に浮いていた童顔のはるか上――――天から光のエネルギーのような物が一気に放出された。
その速さはさっきの大砲とは比べ物にもならない。マッハを超えているかもしれない速さで、童顔に放出される。その放出されたエネルギーは童顔に当たって威力を失うこともなく、地面に向かっていく。
そこからエネルギーが放出されること数分間、いつまでも威力を失うことを知らない【天滅】はいつまでも放出し続けている。
童顔もいきなりこれが飛んでくるとは思っていなかったらしく、最後にかろうじて見たのは【天滅】に驚いた間抜けな顔だった。人が殺されたというのにあまり心が痛まないのは自分も死んでいるからだろうか?
(【解析:天滅】。)
《 解析が終了致しました。
スキル名【天滅】。この世界に確認が出来ている数万種のスキルの中でも、5本の指に入るほどの威力を誇るスキル。全ての防御スキルを無視して、どんなに防御スキルを使っても無効化されてしまう。また、スキルを使う時に消費する魔力も群を抜いている。【天滅】を使えば大陸まるごと消滅させることも可能で、使用には気を付ける必要がる。 》
…………うわ。何でそんなスキル使っちゃたの?てか、そんなに破壊力のあるスキルを使ったのに何でこの辺は無事なんだ?
ここまで被害もないし…………唯一被害があるのは童顔がいたところだけど、そこは底が見えないほど深い穴が掘られいた(そこだけに)。
さて、童顔がいなくなったのならノワールの所に行っても問題はないだろう。ゴーストの俺にとってはたった数百メートルなのにすごく遠く感じてしまう。ゆっくり進んで近づくことにしよう。
「ハルトよ」
うわぁ!?いきなり声かけてくるなよ!!びっくりするだろ!!
ノワールのところまで行こうとしたその瞬間、いきなり後ろに現れたノワールが声をかけてきた。瞬間移動でもしたのかと思うほどの速さで俺の後ろに立っていた。
こいつの習得しているスキルは何なのか結構気になってしまう。
「いきなりで悪いが、少しばかりやるべきことが増えた。次の目的までは大分距離があるが、急がないと手遅れになるかもしれん」
おお、別にいいよ。……………っていうか、さっきの童顔の人は放っておいていいのか?どんな関係かは知らないけど、【天滅】なんてチートスキルを使ったら死んでる可能性は高いだろ。
「我が気にすることでもない。第一にあの程度で奴が死んだとはかんがえにくい。いくら天滅と言えど、極力被害を押さえるために威力を殺した。あの程度で死ぬなら苦労はない。だが、しばらく行動不能となったのは事実である」
……………マジですか。あんなえげつない攻撃をまともにくらったのに生きてるんだ。ノワールの強さもチートだけど、さっきの童顔の耐久力も頭ひとつ抜けてるな。
「では行くぞハルトよ。我の予想では、事態は想像を遥かに越えて不味くなっている」
そう言って歩き出したノワール。この辺り一面は童顔のスキル【黒炎竜】によって焼け野原状態で、方向感覚が狂いそうな勢いだったがノワールは迷うことなく北に向かった。
歩き出したノワールの背中は少し寂しそうに見えたような気がするが、それは単なる妄想だと思い込むことにした。
ノワールの過去について気にならないわけがない。さっきの戦いの合間にも聞こえてしまった会話を思い出したら気になってしまうのは必然と言えるだろう。
だけど、俺にはまだノワールに過去の話を聞くことができない。なぜなら歩き出したノワールのその背中は、地球で何度も見た背中にとても似ていたから――――――




