いきなり出てきた
今回の話は少し文字数が多くなっています。
多分いつもの1.3倍くらいの文字数だと思います。
26 いきなり出てきた
ゴーストとしてこの世界にやって来て数週間。
ようやく人間の体に戻れるという希望を抱いていた時期も今では懐かしい思い出だ。以前ノワールと共に行った『オーレン』という街に出会うことが出来た体だったが、心臓目掛けて飛びついたら普通のボールよりも素晴らしいバウンドをして床に落ちた。
それだけでメンタルがボロボロなのに、追い打ちをかけるかのように言葉責めを浴びせられた。選ばれたゴーストだけが習得できる【乗り移り】というスキルが必要というのを知らなかったのだ。ノワールと解析の声の人(人ということにしておく)は知っていたが冷たいことにそれを教えてくれなかった。
思わず泣きそうになってしまいそうだったが、次の瞬間に現れた大巫女さんを見て全て吹っ飛んだ。今でも鮮明に思い出せるキレイな声、大人の女性の魅力と色気を兼ね備えた完璧な美しさ。
あの顔を思い出しただけで思わずニヤけてしま――――
「ハルトよ。まさかとは思うが、あの大巫女に惚れたのか?」
――――やべ、心の声がこいつに筒抜けになっているのをすっかり忘れてた。勝手に俺の性癖を知ってしまっているノワールなら俺の好みまで知っていると思うが、一目ぼれした時の振り返りぐらいはそっとしておいてほしい。
空気読めないことに関しては右に出る者はいないという異名を付けられているノワールに空気を読むということは難しかったか(たった今考えた異名)。
(いやその…………できればそっとしておいてほしかったんですけど。)
「うむ。我もまさか本気だとは思わなかった。貴様が本気というなら我も全力で手を貸すとしよう」
あれ?いつものノワールらしくないな。
思いのほか…………というより全く予測しない答えが返ってきたことに少し動揺してしまった。全力で手を貸すとも言っていたが、こいつの手を借りたら失恋のコースを全力で進みそう感じがするからキチンとお断りしましょう。
それよりも、俺が聞きたいのは次の目的地についてだ。俺の体があの街にあることを知ったとなると、俺たちの行く場所に意味は無くなってくる。しかも下手に街や国に行ったら警戒体制を取っている人たちに攻撃される可能性が高い。だとすればこの辺で魔獣を倒してスキルを覚えるのが適切だと思うんだけど。
「一つ教えておくが、我々に残された時間はそんなにない。
前にも言ったが、現在は魔族の数が増えているらしい。魔族が増えているということは、悪魔たちの行動が活発になってきたということだ。悪魔が契約を交わそうとするのはアンデッド族が明らかに多い。我のやるべきことはそれを止めることだ」
ちょっと待ってノワールさん。俺にその手伝いでもしろっていうこと?悪魔って魔王を生み出すんでしょ?つまりめちゃくちゃ強いよね?
アンデッド族の中で最も最弱のゴーストが協力しても大した戦力にもならいと思うよ?
「無論だ。貴様の力をはなから当てにするほど落ちぶれてはおらん。我が当てにしているのは、元人間という知力と浄化が効かないことを利用して巫女たちを説得することだ。
アンデッド族と悪魔が契約を交わすと人間を襲う可能性がある。そうなると人間は今まで以上にアンデッド族を敵対視してしまう」
なるほどね。悪魔が契約を交わすのは狙いやすい奴だけってことか。アンデッド族なら契約を交わすのには丁度いいってことか?
確かこいつは『同胞を殺す気はない』とも言ってたし、できれば同胞であるアンデッド族を守ってやりたいのだろう。俺を単なる道具としか見てないことに苛立ちを覚えるようなこともないが、大巫女から何を聞かされたのかは気になっている。
(ノワールは大巫女さんから何をいわれたんだ?魔族が増えてるってことも大巫女さんから聞いたんだろ?)
「確かに大巫女から情報を貰ったが、全知全能の我に限ればその情報が耳に入るのは時間の問題だったであろうな。大巫女から聞いた情報は魔族が増えたということだけだ。そして、奴は我にそれを食い止めてほしいと言った」
へえ、ノワールが言うことを素直に聞くとは思わなかったけど、魔族が嫌いなのか?
大巫女さんの頼みだからと言って素直に言うことを聞かない奴だということは俺が一番よく分かっている。魔族が増えていたとしても、ノワールに直接関係しているわけでもない。仮に魔王が襲い掛かって来ても余裕で撃退しそうな奴だからな。
「確かに魔族が増えることに関して我に直接関係はない。だが、関係している奴がいたのだ」
関係している奴がいた…………?
普通の人なら聞き流してしまうかもしれないが、俺の耳は聞き逃すことが出来なかった(耳ない)。
ノワールは『いた』と言っていた。つまりそれは過去形…………しかもノワールは元人間だったりする。アンデッドになった理由も『守りたい者を守るため』と言っていた。
もしかしたらこいつは、俺が知らないだけで悲惨で残酷な過去を体験しているのかもしれない。
もしもそうだとしたら、ノワールが人間だった頃の話はしばらく聞かない方がいいかもしれない。何度かこぼしているノワールの本心をまとめてみると、悲しい過去があったかもという予想は誰にだってついてしまう。いつかノワールが自然に話したくなったら聞くことにしよう。
「む…………これは不味いな」
急に立ち止まったノワールは空を見上げながらそんなことを呟いた。雨でも降るのかと俺も空を見上げると、そこには雲一つ浮かんでいない青空がどこまでも続いていた。雨やくもりという天気が似合わないキレイな青空なのに、なぜノワールは不味いと言ったのか?
(どうしたんだノワール?)
「どうやら…………我に野暮用のある客が来たようだ。この美しい草原と青空には似合わない客であるがな」
少しばかり深いことを言いながら今度は空に左手を翳す。手を翳したあと、左の手のひらからアニメで見たことのあるような結界を繰り出した。
(【解析:ノワールが出した結界みたいな物】。)
《 解析が終了致しました。
スキル名【魔結界】。魔力で出来た結界であらゆる攻撃、魔法を防御、反射できるスキル。魔力が高いほど強度が増すスキルで、使う者によって強度が変わってくるスキル。 》
何か結構カッコイイ名前だな。
ノワールが魔結界を張ったということは何か攻撃がくるってことであり、受けるのは危険だと判断したということに――――
――――「【黒炎竜】!!!」
スキルのような名前が聞こえてくると、空から黒い炎の竜がこちらに向かっていた。どっかの日〇昔話のOPで出てきそうな竜がノワール目掛けて突っ込んでくる。
不味いと思った俺は申し訳なく思いながらノワールの後ろに隠れた。ノワールの後ろに身を隠したところで再び空を見上げると、黒い竜のはるか上に誰かが浮いていた。
そして、遂に竜が突撃をしてくるというタイミングで俺は思い切り目を閉じた。
ドゴォォォォォォン!!!!
まるでミサイルが落ちたかのような衝撃と熱、さらに強風が襲った。
でも自分にダメージがないことを確認できるとなると、ノワールが張った魔結界が破壊されていないということだ。
自分の身が安全だと判断した俺は恐る恐る目を開けて現在の状況を確認する。
目を開けて広がっていた景色はさっきとは全く違う焼け野原だった。芝生が生い茂っていた草原は半径数百メートルにも及ぶほど灰になってしまい、唯一無事なのはノワールが魔結界を張っていた半径2メートルくらいの範囲だ。
黒い炎は消えることなくまだ残っていて、迂闊に逃げることさえも出来なくなってしまっている。
「さすがは最強のアンデッド……………この程度の威力では火傷すらつけられないか」
「我は貴様のことなど知らん。殺されたくないのなら、我の目の前から失せるといいであろう。
貴様が魔族だということは既に分かっている」
ちょっとちょっと、俺を置いて話を進めないでよ。別に戦いに混ぜてくれとは言わないけど放っておかれると結構傷つくんだよ。
そんなことを思いながら上を見上げるとさっきうっすら見えていた人影が今度ははっきりと見える。
どうやらさっき打ち込んで来たのはあいつらしい。ノワールの話だと魔族という話だが……………予想を斜め上行く姿だった。
魔族と言ったら角が生えてて目が血走ってて、何かオーラが凄い黒っぽいイメージな感じだけど。
だけど、俺が見つめる先に浮かんでいる魔族は角なんて物は生えてなく、目も血走っていない。
オーラが黒っぽいというのは合っているかもしれないが、それでも魔族とは思えない。
「失せるわけにはいかないよ……………僕は君を殺しに来たんだから」
前言撤回、あいつメチャクチャ血走ってます。白い髪と童顔には似合わなすぎる言葉…………というか、あいつ年いくつだ?
12歳ぐらいにしか見えないけど。
「我を殺しに?フハハハ!!貴様に我を殺せる力があるというのか!
力を求めて悪魔と契約を交わした者よ!悪魔と契約を交わしただけで殺せるほど、我は簡単ではないぞ?」
「いいね……………僕は君と戦うことを望んでいたんだ。
君を殺し、僕が最強であることを証明するために…………!!」
全ての決め台詞をいい終えたことをゴングに再び戦いが始まった。
最初に先手を取ったのは童顔の魔族―――――めんどくさいから童顔にしておこう。スキルを使うように右手で伸ばした左腕を掴んでこちらに向けてくる。
「【黒炎竜】!!」
再び出してきたスキル【黒炎竜】。黒い炎で作られた竜は再びノワール目掛けて突っ込んでくる。
(【解析:黒炎竜】。)
《 解析が終了致しました。
スキル名【黒炎竜】。スキル【黒炎】のさらに上を行く上位スキルで、非常に強力な火属性スキル。ターゲットだけでなく広範囲を全て焼き尽くすため、逃げても意味がなく、逃げても追撃することができる。
黒炎とは『消えない炎』という意味で、自然的に消えることはない。 》
長い解析ありがとうございます。
………………これからは解析をする回数を減らそうかな?スキルの効果とは威力とか知れていいんだけど、知らないほうが特って場合もあるじゃん?今回は知らなくても…………というか知らないほうがよかったよね。
スキルの詳細を聞いちゃったから逃げれないし、さっきよりも怖い。
「この程度の攻撃が我に当たると思うな」
そう言って近づいてくる黒炎竜に恐怖を抱くこともなく、パチンと指を鳴らしたノワール。
ノワールが指を鳴らすとノワールの目の前にブラックホールのような物が現れ、黒炎竜はそれに引きずり込まれるようにして入っていった。
何をされたのかがわかっていない様子の童顔は防がれたのかと勘違いをして、次の攻撃へと準備をした。
童顔が油断をした瞬間、もう一度指を鳴らしたノワール。
すると今度はさっき黒炎竜が入っていたブラックホールが童顔の後ろに現れる。
それに全く気がついていない童顔だったが、そっから先のことは嫌でも予想がつく。
「今度はこれだ!」
準備が整った様子の童顔は自分の後ろに驚異が近づいてきていることに気づくことなく啖呵を切ってくる。
童顔が啖呵を切ったその瞬間、後ろから黒炎竜が飛び出て童顔に直撃をした。直撃をする瞬間に慌てた表情で後ろを向いていたが、さすがにあの距離では防ぎようがない。
自分が繰り出したスキルで殺られるとは救いようがないな。
「ハルトよ……………少しばかり離れてくれ。
どうやら、舐めてかかったら危ない相手らしいのでな。少しばかり本気を出すことにする。我が本当の本気を出してしまえば世界の崩壊を覚悟しなくてならないが、そんなことをするつもりはないので安心しろ」
そ、そうなの?…………というかあの黒炎竜直撃したけど生きてるの?
一瞬ノワールの言うことを疑ったがとても冗談を言っているような顔にみえない。
少しだけ本気を出すと言っていたが、いきなりそんな相手が出てきてこの先大丈夫なのか?
魔族とは……………悪魔の狙いってなんなんだ?何で今回はノワールを狙ったんだ?
「あはは!忘れてたよ…………君は昔からこういうのを平気でやってのける奴だったね」
「その異常な再生能力……………悪魔と契約をしただけでは到底できるわけではない。貴様は一体何者だ?」
「まだ分かんないの?やれやれ……………君ってほんと昔から興味がないことには興味ないんだねえ。
僕は…………いや、僕らは君の仲間だった戦士だよ」
「!!?」
今のは…………聞こえないフリをしていた俺にも聞こえてしまった。
童顔は言った『仲間だった戦士』だと。そして、その言葉にノワールが動揺していることも分かってしまっている。
さらに…………動揺だけでなく。
「貴様は……………あの時の生き残りか?」
「そうだよ。やっと思い出した?」
「ああ……………思い出したくのない過去だ。だが、そのお陰でちょうど殺る気がでた」
ノワールは今怒っている。
であってから時間はそんなに経っていないが、ノワールが怒ったことは一度だってなかった。
そんなノワールを怒らせるあいつは…………一体何者?
読んでいただいてありがとうございます!
ノワールが一体何者だったのか気になっている方がおおいと思います。
次の話での戦闘では、ノワールが今まで以上に活躍しますよー!
ノワールファンなら必見です!!




