巫女さんの名前………ぶっ!!
19 巫女さんの名前………ぶっ!!
「私の名前は………ゴン・ゼンノだ!」
………涙目………というか、すでに涙を流しながら答えてくれた巫女さん―――改めゴンさんの顔はめちゃくちゃ赤くなっていた。
まるで恥ずかしいことでもバレたかのように………ぶっ!!
「おいお前!!今絶対笑っただろ!?」
(いやいや………人の名前を笑うとかそんな………ぶっ!!)
「うう………だから嫌だったのだ~」
おっとからかい過ぎましたかねゴンさん。
ノワールという人をおちょくることに右に出るものはいないと言えるほどの奴と離れたというのに、今度は俺が巫女さんの名前をメチャクチャいじっている。この人の名前を考えた人はセンスがないのか………?
それともこの国では今のような名前が普通なのか………?でも、あそこまで恥ずかしがったということは結構珍しいのだろう。
名前をいじるのはこのくらいにして、次の話題へと行きますか。
(ぶっちゃけ、何で巫女って外見が変わらないの?)
これはノワールが言っていたことだが、30年前会って以来外見が全く変わっていないらしい。巫女さんだから不老不死なのかと思ったけど、それでは単なるアンデッドと変わらない。
詳しい情報があるのなら知っているに越したことはないだろう。
「それは………いや、それこそが巫女と言っておこう」
(というと?)
「巫女には二種類あるんだ。生まれや育ちが一緒でも、種類が違ければ力が違う。
私のような巫女を『混合種』、もう一つの方を『純血種』と言うんだ。混合種は人間と巫女とのハーフに生まれたもので、そこまでの浄化の力はないがその分長く生きられる。
また、純血種は巫女と人間でないものと生まれたものだ。強い浄化の力を持っているが私たちのように長くは生きられない」
………なるほど、結局はどっちもどっちみたいな感じだな。
力が強くて寿命が短いのと、力が弱くて寿命が長いのどっちがいいか?と聞かれたとしても、正直あまりよさはわからない。
それに、人間でないということは『亜人』ということだろう。結局は混合種の方が数が多そうだし。
「お前頭がいいな………。私の知る限りでは、お前のように頭のいいゴーストはいなかったぞ」
そりゃあ転生じゃなくて転死してこの世界にやって来てるんだからね。
それで普通のゴーストよりも弱かったら泣いちゃうよ?
ノワールの話だと普通のゴーストよりは強いみたいだけど、実際本物見てみないと分からないよな。
「ずっと思っていたんだが、なぜお前は3Uのことをノワールなどと呼ぶのだ?」
ああ、それか?
理由は特にないけど、ノワールってのは俺の世界で『黒』を表すからな。
ノワールの第一印象が黒かったから適当に考えたんだけど、存外気に入ってくれたみたいだったし。
「なるほど。お前らにはそんな物語があったのか」
いやいや、物語って言うほど素晴らしいものじゃないし………ってあれ?ゴンさん、ここ行き止まりじゃないですか?
ゴンさんのあとをついてきた結果、なぜか行き止まりについてしまった。人気の多い道をドンドン離れていくと思っていたけど、なぜこんな袋小路のような場所に来たのだろう?
「お前は確か『ハルト』と呼ばれていたな………」
え、おう。俺の名前がハルトだからそう呼んでるんだろうけど。
ていうか教会ってこっちなの?明らかに向こうに見える立派な建物が教会みたいな雰囲気出してるけど。
建物と建物の間にできたこの行き止まりの道からうっすらと東の方向に見える建物………それが教会にしか見えない。
教会の場所は向こうだけど入り口はこっちという夢の扉というわけでもなさそうだ。
「私は30年間………あいつをずっと追い続けた。でも、あいつを浄化することは出来なかった。あいつはこの街では指名手配者だ」
何を当たり前のこと言ってるんだ?ノワールが指名手配者だってことくらい俺でも知ってるし、あいつがそれくらいになっているのも予想できてたよ。
これでも元は人間なんだからそこらのゴーストよりも知識はあるつもりだし。
いきなり殺すような殺気を出し始めたゴンさんは腰に下げている剣をゆっくりと抜き始めた。
「その指名手配のあいつがいきなり街にやってきて、『女神の息子の魂を連れて来た』と言っても信じるわけがないだろ!」
………あれ?もしかしなくても俺って大ピンチ?大ピンチだよね?
ヤバい………何かメチャクチャ怒ってるし。何か剣こっちに向けてきてるし。
「お前とあいつの関係など私には興味がない。だが、我々巫女の敵だということは理解している。あいつと共に行動しているゴーストが『女神の息子』の魂のわけがない!お前はこの私が浄化してやる!」
………やっぱりですかい。
なーんか嫌な予感はしてたんだよね。明らかにすんなり行きすぎてたから。ノワールと話しているときはあまり感じなかったけど、ノワールと俺を引き離したのは俺を浄化するときに止められないようにか。 あいつが居たんじゃさすがのゴンさんも俺を浄化できないってことか。
「仮にお前が女神の息子の魂だとしよう。だが、いざ教会に入れば同じことだ。ここで私が納得したとしても教会にいる巫女全員が納得はしてくれない」
確かにそうだけどさ。チャンスくらいくれたっていいんじゃないの?
だって最弱のアンデッドだよ?一回本物かどうか確認してから浄化しても遅くないよね?別に世界を崩壊させるようなチートの力はもってないんだし。
「それはダメだ。お前を教会につれていっている途中に3Uが合流したらお前を浄化できない」
………ていうか、一応俺とノワールって友達なんだけど俺を浄化したらノワールが後で怖くないの?どれだけ怒ってくれるかは分からないけど、多分相当怒ってくれるよ?
その気になれば世界を消滅させることさえもできるノワールが本気で怒ったら本当に世界滅亡級の災厄がもたらされたゃうぞ。
「それなら心配はない。現在何人教会に巫女がいると思っている。いくら奴でも数さえ多ければ有利に立ち回ることができる」
おいおい、もう少し労ってやれよ。ノワールはなにもしてないんだろ?
「何もしてないが、何かするための力を持っている。それだけで浄化するのはおかしいか?」
………おかしくはない。否定はしないけど肯定はしない。
事件何て起きてから調べるんじゃ遅いからな。
「お前ならそう言うと思っていた。お前の言う通り、事件が起きてからでは遅いのだ。だから事件が起こってしまわぬように元凶を潰すのだ」
…………そうか。じゃあしょうがねえや。
ノワールがここにいない以上、抵抗するだけ無駄だ。異世界に来てまだ1ヶ月くらいしか経ってないのにいきらに天に還るなんて悲しいな。
異世界系ラノベでこんなに早く天に変えるのは俺が初めてじゃないか?
もはや近づいてくるゴンさんの攻撃を避ける気にもなれない。避けたところで俺が助かる確率何てたかが知れている。
ノワールが助けてくれれば勝算はあるかもしれないけど、今はのんびり観光しているところだろう。
「お前のようなゴーストは忘れないようにする。だが私は立場上、お前を浄化しなくてはならない………」
分かってる俺も討伐されることを覚悟でこの世界に来たんだ。
カッコつけてるような感じだけど、死ぬときくらいカッコつけてもいいよな?前世………いや、前前世は気づいたから死んでたから。
………さてと、今度は幽霊じゃなくてちゃんと人間として転生させてもらおう。この世界に送ってもらって、またノワールでも探しに行こう。
そのときはこの世界の美味い物でも教えてもらって………一緒に冒険でもするか。
「さらばだハルト。浄化!!」
近づいてきたゴンさんが剣をこちらに向け、巫女さん特有の浄化を使ってきた。
俺の周囲を水色の神々しい光が包み込み、まるで夢見心地のような気分になった。
…………そして俺は――――――
一応言っておきますが………物語は完結してませんよ!!
まだまだ続きますので、ここで読むのを止めたりしないでください。読者が減ったら泣いてしまいます。
………次回更新は三日以内にはしたいと思っています。