3Uの意味とは
18 3Uの意味とは
「魂とはそこのゴーストのことなのか?」
「うむ。単なる我の直感であるが、きっとその脱け殻の魂はそこのハルトだ」
あれ?巫女さんが俺の存在に気がついていたことに驚いているのは俺だけですか?
戦いが終わった………とまではいかないが、一時期休戦のようになった途端俺の話題となった。どうやらこの街にはノワールの予想通り脱け殻があるらしい。教会に保管されているみたいだけど、人間の脱け殻をそんな風に扱っていいのかとても疑問だ。
というか魂が抜けた状態の体をよくさわったな。俺だったら気持ち悪くて絶対さわれないぞ。
「お前!言うに事欠いて、まさか『女神の息子』を侮辱するとは………今すぐ浄化してやる!!」
え?まさかあなたもノワールと同じで心の声聞こえるの?ノワールと同じで盗み聞きが趣味な結構ヤバいおばさんですか?
どっかの大阪のおばさんよりも絶対たち悪いよね。
「お、お前!女性に対して『おばさん』とは失礼ではないか!?いくら私でも、ゴースト程度なら浄化できるのだぞ!」
ノワールに負けた腹いせにゴーストの俺を浄化何て恥ずかしくないんですかね?
そこの最強のアンデッドと違って、俺は最弱のアンデッドなんですよ?罪のないゴーストを浄化するなんてそれでも神の使い魔なんですかー?
「ハルトよ………言い過ぎであるぞ。あと、大人げないぞハルトよ。貴様より年は上かもしれんが、精神年齢はまだまだ子供であるから泣いてしまうぞ?」
「な、泣いてないし!お前!変なことを言うのもいい加減にしろよ!!」
………確かに少しからかい過ぎたか。
ノワールの忠告が巫女さんにも聞こえていたらしく、さっきみたいにギャーギャー子供のようにノワールな文句をいっていた。精神年齢が子供というのが本当であることは、この光景を見るだけですぐに分かる。
(それはそうとして、早く教会に連れてってくれません?)
「うむ。我々は客なのだから、丁寧なもてなしをされるのは当然であろう。早く教会に連れていくがいい」
「アンデッドモンスターを教会に連れていけるわけがないだろう!!私たち巫女の仕事はお前たちアンデッドモンスターを浄化することなんだぞ!!」
………まあ、それはそうだ。
さっきまで戦ってた相手の言うことを信じて自分の本拠地に敵を招くなんてことはしないか。でも、そこに案内してくれないと俺の体かどうかもわからない。
(とりあえず一回だけ連れていってくれないか?その教会にある体が俺のなのか確認したいからさ。)
「むうう……。確かに一度確認してみる以外に方法はないみたいだし、ここまで人間と会話できるゴーストは見たことがないからな。………分かった。教会に連れていってやろう!」
(よっしゃー!!さすが巫女さん!いい人!優しい!!)
「だが、一つ条件がある」
巫女さんが許可をだし、俺がその優しさに軽く感動しているといきなり真剣な顔になった巫女さんがノワールの方を向きながら言った。
「お前は来るな。お前は私たち巫女のなかで一番危険と見られている存在だ。もしお前が教会に来たら、巫女全員お前に襲いかかるだろう。
この街にいる巫女が全員、お前を浄化するならお前もそれなりに抵抗する。そうなったら、この街どころか世界が消滅するかもしれないからな」
いやいや巫女さん、いくらノワールでもそこまでしないだろ。
それにノワールだって抵抗するだけで世界を消滅させるなんてことは――――ないよね?
少し不安になり、チラッとノワールの方を向いたら結構真剣な顔をしていた。口に手をあて、なにかを必死に計算しているかのように見えるがやがて目を閉じて冷静になったかのように巫女さんに言った。
「ふむ………確かにそうかもしれん。我を本気で狙う奴らと戦いたい気持ちもあるが、それにこの世界がついてこないからな」
「そういうことだ。お前はこの街を怪しまれずに観光してくれ。このゴーストは私が教会まで案内しよう」
あれ?話がドンドン進んでますけど、まさか俺の意見はなにも通らない系な感じですか?
その予想通り、まるで霧のように消えたノワールを見届けた瞬間俺は巫女さんに捕まれて誘拐された。
………巫女よりも誘拐犯の向いてるんじゃないですかね?というか、ノワールはいつ認識阻害の同調を切ったんですか?いきなり消える前に一言言ってほしかったよ。
でも、この周囲が巨大な岩がある所に教会があるわけでもなく、巫女さんにガッと捕まれてスキルを使用された。
………正直、ノワールの【音速走】のスピードにすっかり慣れてしまったので巫女さんの使うスキルはあまり速いとは思えなかった。
(【解析:自分の体感しているスキル】)
《 現在あなたが体感しているのは【音速走】です。ですが、あなたが普段体感しているノワールの【音速走】とはスキルレベルに差があります。ノワールはあらゆるスキルのレベルがカンストしています。 》
………マジかい。毎度毎度ご丁寧な説明ありがとうございます。
いつも通りの機械音がご丁寧に説明してくれたけど、結局ノワールがチートとしか分からなかった。
…………心なしか、さっきの機械音もどこか呆れているみたいな感じだった。
※※※※※
「ここまで来たらもう少しだ。巫女は浄化の力を持っているが、ステータス自体は普通の冒険者と変わらないからいつまでもスキルを使えない」
へえ………。巫女って特なのかと思ってたけど、聞いてみるとそんな風でもないんですね。結局アンデッドの相手をさせられるだけみたいだし。
「お前、自分がアンデッドモンスターという事を理解してるんだよな。それとも自虐体質なのか?私が会ってきたアンデッドは皆そこまで自虐体質でなかったぞ」
………巫女さん。なんかそれデジャブ感が半端ないんですけど、もしかしたらノワールと仲がいいんじゃないですか?
「何を言う!?わ、私とあいつはそんな関係じゃないぞ!
………誰があんな『3U』みたいな奴と………」
3U?
3Uってどういうことですか?
「ん?ああ、うるさい、うざい、嘘くさいだ。私たち巫女は奴のことをそういっている」
え?なにその二つ名。それ考えた人ぜっっったい、天才だろ!!
あいつにそこまでセンスのあるあだ名を考えられる人間がこの世界にいるなんて………一度お会いしてみたいもんだねえ。
「お前………奴と一緒にいたということは、仲間なんじゃないのか?」
……うーん。仲間とは少し違うかな…………一応、『友達』ってことになってるし。まあ、あいつが俺にとっている態度が友達を慕っているようには思えないですけど………。
「なるほどな。私はあいつがこの街に来たのも驚きだが、それ以上に驚いたのはあいつが自分から行動したことだ」
行動?だってあいつ、この近くの森にいたぞ?
最初会ったとき『ヤバい奴だ』って思ったし………『関わりたくねえ』とも思ったし。
「あいつの思考は誰にも分からん。SPSも【思考抑制】だったか?いずれにせよ、不気味で恐ろしい奴だ」
………あの、ずっと疑問だったんだけど俺の心はどうやって読んでるんだ?ノワールと同じで人の心のなかを勝手に除くような最悪のような奴なの?
「違う!そんな最低なことをするわけがないだろ!私はちゃんとスキルを使ってやっている」
え?スキルを使った方がたち悪くね?
なんかめっちゃくちゃ偉そうに答えてるけど、結局はやってること同じだよね?スキル使ってるか使っていないかの差でしょ?
(………うん。それはもういいから、教会に着く前に巫女さんの名前教えてよ。)
「な、名前………か?ど、どうしても言わないといけないか?」
え?そんなに言いたくないの?
「………だ」
え?何て?
メチャクチャ声が小さくて全く聞こえなかった。年も限界なはずなのに、なぜか恥ずかしそうにしてモジモジしている。
「だから!私の名前はゴン・ゼンノだ!!」