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『巫女の街オーレン』

15            『巫女の街オーレン』



巫女の街オーレンというのは、その名前の通り巫女の数が世界で最も多い街である。

 街の総人口は約3万人にも及び、そこの住民の7割が巫女というかなり変わった街だ。主に巫女というのは、家にとりついた幽霊の除霊をしたり墓場に湧くゾンビなどの討伐が主な仕事だ。

巫女にも浄化パージの強さが強い者、弱い者などさまざまだが、オーレンに住んでいる巫女はほとんどが強い浄化パージ能力を持っている。


一番浄化パージ能力が強い者は『神に最も愛されし者』と称され、多くの人々からあがめられる対象となるのだ。 そして今、その巫女の街オーレンに二人のアンデッド族が辿り着こうとしていた―――




(なあノワール………本当に大丈夫なんだよな?いきなり捕まって浄化パージされたりしないよな?)


巫女さんがそんな2万人もいたら………って、あれ?確かノワール、前は300人くらいしかいないって言ってなかったか?


「そう言えばそうであったな。だが、それは随分と前のことだったらしい。我が巫女の数を意識していたときが300人だったのだ」



つまり意識しなくなったときから巫女さんのことは何も考えないでいたのか。自分を浄化パージするかもしれないのに、よく無関心でいられたな。

 

………というか、巫女が全員襲ってきたりしないよな?大丈夫だよな?


「そこまで心配することはないであろう。一応我がスキル【認識阻害】を同調リンクしてやったではないか。さすがの巫女たちも【透視】のスキルを発動させながら街を出歩いていることはあるまい」


………本当に大丈夫なんだよな?

 近道と言っていた洞窟を抜けた先には大きな街が見えていた。ノワールが言うにはそこが『巫女の街オーレン』だという。

わざわざ敵の本拠地に顔を突っ込むことは無いと思ったのだが、ノワールが「貴様が乗り移る予定だった体はきっとあそこにある」というので行かないわけにはいかなかったのだ。


浄化パージされる時にはノワールが助けてくれるみたいだから少しは安心できるけど、万が一にでもノワールが浄化パージされては元も子もない。

 体を取り戻したい気持ちもあれば、浄化パージされる危険を避けるために当分はこの体でもいいような気もするし………。


「貴様、我は貴様が「体を見つけたい」と言うから協力してやっているのだぞ?それなのに今更になって怖気づいてどうするのだ?」



そんなに辛口で言わないでくださいよノワールさん。

 俺だって前と言っていることと今言っていることが違うことくらい分かってるけどさ、でも俺だってしにたいわけでもないしさ。

いきなり敵の本拠地に殴りこむんじゃなくて段々と段階を踏みながら行くべきだと思うんですよ。


「段階を踏み終わったとしても結局はここに訪れるのであろう?我はそこまで暇ではないから、なるべく早めに済ませたいのだが」


暇じゃないって、お前友達も知り合いもいねえじゃねえか。

 この世界にお前以上に暇な奴なんていないくらい暇人じゃねえのか?俺もお前の時間を裂くほど強制はしないし………嫌だったら点いてこなくてもいいんだし。


「べ、別に嫌とは言っていないであろう!!!これは貴様が一人で旅するのは寂しいと思ってついてきているだけであるぞ!!」



おいおいツンデレは止めろよヴァンパイアのおっさん。

 正確の年は分からないけど、多分三百歳はとっくに超えてるんだろ?三百歳になってようやくツンデレとか………その前におっさんのツンデレって誰に需要があるんだよ。一応俺はノンケだから男の趣味はないし………。


やっぱり誰にも需要はねえか。

 地球じゃないから精神年齢が並の人間より低いだけなのかもしれないけど、それでもこいつのツンデレ需要はないな(ただの偏見。もしかしたらファンがいるかもしれません)。



「とにかく貴様!!我の友達と言うのなら黙ってついてくればよいのだ!!【認識阻害】も同調リンクしたのだから、心配はなかろう!!」



おっと何かデジャブ感が半端ないですよノワールさん。

 ……でも確かに遅かれ早かれ行かないといけないなら、さっさと行って済ませた方が賢い選択肢かもしれない。


(じゃあ取りあえず行きますか。)


「もちのロンである!!大船に乗った気持ちでいてよいぞ!!」


おっと、今度は何か懐かしいのをかましてくれましたねノワールさん。

 

地球でどこか懐かしいギャグをかまされたところで、止めていた足を動かして目に見えている『巫女の街オーレン』に歩いて行った(足ない)。



※※※





異世界に来て初めての街が敵の本拠地というのは実に信じがたいことだが、なぜか妙にテンションが上がってしまう。

 異世界にいる人間が作る街がどんななのか、農作物とか街並とか見物するのも楽しいだろう。味覚はないから食べても無駄だけど―――って、今思ったけどノワールって金持ってんのかな?


財布みたいなのを持っているようには見えないし………そもそも金で物を買うんだよな?地球とは違うと言っても金で物を購入するんだよな?



(なあ、一応聞くけどお前って金持ってるのか?)



「金だと………?ああ、人間が物を買うために使うあれか。我は金を持ってはいないが、金になりそうな物は持っておるぞ。この『ブラウド鉱石』とかな」


そう言って、ノワールはポケットからキラキラ宝石のような石を取り出した。氷のように透き通っていて、ダイヤモンドのように光る石だけど、これがどのくらいの価値なのかが全く分からない。

 それどころかこの世界の金の単位も分からないし………よくよく考えたら知らないことばかりだな。


俺とノワールはアンデッドモンスターだから飯を食ったりしなくても生きてはいけるけど、街の人にそれを感ずかれたら怪しまれる可能性が非常に高い。だからなるべく食べ物を買ってほしい。

 そしてグルメリポーターのように味を教えてくれればいい。そうしたら体を見つけて最初に食べるべき食べ物ランキングに入れるから。


「むうう……そうしないといけないものなのか?確かに何か食べないと怪しまれる可能性が高いかもしれん。だったらこの『ブラウド鉱石』を金に換えればよかろう。これだけデカい街なら質屋の一つか二つくらいあるであろう」



あ……この世界にも質屋とかあるのね。何か夢を壊されたような気分だけど、この際アンデッド族だってばれなければ何でもいいや。

 とりあえず金のことは解決したので、いよいよ門をくぐって『巫女の街オーレン』の中に入る。



―――門を抜けて広がる景色は、まるで祭りをやっているかのように賑やかだった。

 この街は巨大な洞窟を改造して作った街らしい。門のところに張り紙が貼ってあった。『鍾乳洞を改造した美しい街並み』と大きく宣伝するかのように紙がドーン!と張られてあったので思わず見てしまった。


確かに、門をくぐるときから思ったけど外よりも薄暗いような気がする。上を見上げると鍾乳洞独特のつららのような突起物。

 正確には『鍾乳石』と言うらしいけど、所詮はただのにわかなので『つららのような突起物』という判断でいいだろう。


そして、日本のいたるところにある街灯とは少し違うけど、確かに街灯のような物がいくつも並べられていた。日本の街灯と比べると光の加減が少し弱いような気もするけど、これで十分見えるから何の問題もない。それに新たなる特性【夜目】を獲得したから暗い所でも普通にみることもできる。


(なるほど………これがこっちの世界の『街』なのか。)


「その言い方だと、まるで貴様のいた故郷とは全く違うような言い方であるな。この世界の街はほとんどがこんな感じであるぞ?ここは鍾乳洞を改造した街であるから、下がそのまま岩のような感じだが、それを除けばほとんど同じである」


そっか……じゃあやっぱり、地球の方が経済的にも専門技術的にも進んでるわけだな。

 別にそれでもいいし、「どっちに住みたい?」という質問なら間違いなく地球を選ぶほどだ。この先の成長速度によって、その選択は改ざんされそうではあるけど。


「ハルトよ。街をゆっくり見物するのもいいが、まずは質屋に行って金を手に入れないとマズいのではないか?」


おっとそうでした。

 さすがはノワール、よく覚えてたね。街についた瞬間、魂のように抜けちゃってたよ。


「貴様の足りない頭ではそうかもしれないが、我の狡猾で素晴らしい頭の辞書に『忘れる』という文字は存在しないのでな」


(へいへい。そうですか。)


そんなノワールの皮肉に段々となれてきた俺は、ささっと流して質屋を目指すことにした。通り過ぎる人から妙な視線を感じることが度々あるけど、全員女性なのでノワールの外見に騙されているだけなのだろう。

 そして俺たちは街のどこかにある質屋を目指した。












………黒い服。高い身長。そしてあの顔と目。

 間違いない、あいつだ。

SSSトリプルエス級の危険アンデッドモンスター。


「見つけた………この世界最強のアンデッドモンスター」


その姿を見つけた私は、黙って男の後をついて行った。


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