俺はやっぱり最弱のアンデッド族
14 俺はやっぱり最弱のアンデッド族
……ここは異世界。
まさかの車にひかれてあっという間に人間としての人生が幕を閉じ、新たに始まったのは幽霊としての生活だった。
俺が転死してやってきた世界は地球とは異なって、いわゆる『ファンタジー世界』という所だ。魔法とかスキルという物が存在する世界で、乗り移る予定だった体を探すのだが今は絶賛迷子中だ。
ノワールというチートヴァンパイと出会い、一緒に俺の体を探してくれるということになったのだが頼りのノワールがどんどん先に行ってしまったので迷子になってしまったのだ。
森を進んで、「近道だから」ということで洞窟に入ったわけだが、思いのほか暗い洞窟だったので慎重に進んでいたんだ。
でも、ふと気が付いたときにはノワールがいなくて独りぼっちになってしまっていた。
(ハア……。何で俺ってこんなに運悪いのかな。)
段々と暗い洞窟にも目が慣れてきたので、さっきよりも早いペースで進めるようになったけどノワールに追いつける気配がまったくしない。
そもそも自分がいる場所が分からないので、右へ行けばいいのか左に行けばいいのかすら分からない。だからひたすらに真っすぐ進むしかないのだ。
………というか、俺一応幽霊なんだから暗い所でももう少し見えてもいいと思うだけどな………。
《 暗い所でも見えるようになる【特性:夜目】は解析することで習得が可能です。 》
―――愚痴をこぼした瞬間、頭の中に言葉が流れ込んできた。
そういうことならもう少し早く教えてくださいよ………。まだここに来てそんなに時間経ってないんだから、どんな特性があるとかスキルがあるとか分からないんだからさ。
理不尽な怒りを、頭の中に流してくる音源に伝えていた。当たり前だが返事があるわけではない。むしろ返事があったら怖いけど………。
(【解析:夜目】。)
愚痴をこぼしながらも、しっかりと教えてくれた通り俺は解析を使って【夜目】とやらの特性について調べることにした。
プライドのぷの字すらない俺にとってはこのくらい余裕だ。俺が何回会社の糞上司に謝っていたと思っているんだ。
一に土下座で二に土下座、三四が無くて五に土下座みたいな感じだったからな。
《 夜目の解析が終了しました。
【夜目】。暗闇や洞窟でも、昼間と同じように見える特性。多くのアンデッド族が習得しており、夜になると活性化するアンデッド族の特徴の一つの例を挙げるとすれば、他の生物は暗闇だとまともに動けないからだろう。 》
……つくづく思うけど、便利だなこの【解析】ってスキル。元々汎用性向きのスキルなんだろうけど、ここまで便利だと【解析】ってスキルだけでいいような気がしてきた。
全部解析をすれば、最強になれるんじゃね?最弱のアンデッド族なのに、最強のモンスターとかカッコよくね?
《 【特性:夜目】の解析が終了いたしましたので、【特性:夜目】を習得したしました。特性は魔力を消費いたしませんので、安心してください。》
何か………このセリフもデジャブだな。
カラオケみたいにボイスチェンジャーがあったら、他の声に変えるところなんだけどな。
メイドとか幼な妻とか、ツンデレとか―――ってあれ?いつの間にか俺の好みのボイスになったか?
ご、ごほんっ!!
何はともあれ、新しい特性を習得したんだからノワールを探すのに専念しますか。
特性を習得したけど、既に目が暗闇に慣れかけていたのであまり変わらない。
(こんな時はいつもノワールからメッセージが届くんだけど………さすがにそこまでタイミングはよくないか。)
いつも怖いくらいな絶妙なタイミングを狙ってくるというのに、こんな時に限ってメッセージがこないという都合の悪いチートヴァンパイだ。これからあいつのことを『都合の悪いヴァンパイア』というあだ名に改名するべきか?
でもそれだと『都合の悪い女』みたいになっちゃってるからな………。
「グルゥゥ……」
!!?。
洞窟で無駄な雑談をしている時に、後ろから嫌な声が聞こえてきた。耳はないのに音は聞こえるという中途半端な体なのに、なぜここまでに正確に聞こえるのだろうか?
獣の声がここまで俺の心を揺さぶるのだろうか?
もう足がすくんで動けない(足ないけど)。
「グガァァ!!!」
(いぎゃぁぁぁぁぁぁ【硬化】!!)
後ろからいきなり巨大なネコ科のモンスターが襲いかかってきたので、心のなかで 悲鳴を上げながら俺は新しく覚えた【硬化】のスキルを使った。
メタルスラ〇ムならぬメタルゴーストになった俺の体に、ネコ科の巨大モンスターが鋭い牙で噛みついてくる―――
―――ガキンッ!!!
………あれ?痛くない?
俺に噛みついてきたはずなのに、なぜ痛くないのか?そして聞こえた謎の音はなんなのだろうか?
「キャウン……キャンキャン………」
………しかも、俺を噛みついたネコ科のモンスターは犬のように鳴いてどこかに逃げてしまった。
モンスターが逃げてしまったことを確認した俺は、自然に【硬化】を解いて普通のゴーストに戻った。経験値が一気に下がったような感じだけど、俺に傷はないからよしとしよう。
………モンスターが逃げたあとにノワールを探そうと進もうとした瞬間、俺の頭から歯のような物が落ちたのは気のせいだと信じたい。
※※※
………てか、あいつどこいったんだよぉぉぉぉぉぉ!!!
ノワールを探して約3時間(自分の腹時計の間隔)、一向にノワールのことを見つけられていなかった。
いくら先に行ったと言っても、そこまで距離あったか?いくらノワールでも俺がいないことに対して須古地は心配してくれる―――よな?
あいつが正直に俺のことを探している光景が全く想像できないのは俺が悪いのか?それともノワールの普段の行いがいけないのか?
別にどっちでもいいけど、さっさとあいつと合流しないと巫女に遭遇した瞬間に浄化される可能性がある。
早くノワールと合流しないと、乗り移る予定だった顔を拝む前におさらばする可能性が高い。
(くそっ!!どこにいるんだよあいつ!!!)
「ハルトよ。一体誰を探しているのだ?」
(ノワール丁度良かった。今ちょっとノワールを探して―――)
………いきなり話かけられたからいつもの感じに反応しちゃったけど、何かおかしかったよね?
(―――お前のことを探してたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!)
思わず乗りツッコミをしちゃったけど、俺はそのあとに魔力が尽きるまで【魔力撃】をノワールに打ち込み続けた。
「それで、貴様一体何がいたかったのだ?貴様程度の力では我を倒せないことくらいは理解しているはずだが、何故にそこまで無駄なことをしたのだ?」
(やめろ………確かに正論だけど止めてくれ。)
「勝手に自分が迷子になったというのに、見つけた瞬間に魔力撃を打ち込むとは………我も仕返しをしてもいいのか?」
(止めてくれ。本当に止めてくれ。お前の攻撃は下手したら巫女の浄化よりも怖いからさ。)
魔力が枯渇するまで魔力撃を打ち込んだが、そのあとすぐにノワールが魔力を分けてくれたので完全回復した俺は、ノワールに精一杯の土下座を繰り広げていた。
だって先に行ったのはお前だし………気が付いた時にはお前がいなかったし。
「まあよい。何はともあれ、そろそろ町に着くのでな」
(マジか。いつの間にそんな進んでいたんだ?3時間くらいしか………というか、3時間も歩けば十分か。)
「既に洞窟は抜けていると言ってもいい。あっちに光が見えるであろう?あそこまでいけば洞窟は抜けられる。目的の町は目と鼻の先だ」
そんなに近いのか。
町に到着するのはいいんだけど、そこで俺の体が見つかるのか?情報無しの状態でこの世界に来たから、俺の体が男なのか女なのかすら分からないのに………。
「大丈夫であろう。貴様をこの世界に導いたのが女神だというのなら、女神を最も尊重するあの町にいるはずだ」
(あ、なるほど。ノワールさん頭いいですね。)
「フハハハハハ!!貴様は元人間だというのに、こんなことも分からないのか?これは傑作だ!!フハハハハハ!!!!」
……久しぶりに聞いたノワールの高笑いは俺のフラストレーションを想像以上に溜めさせ、イライラさせながら光が見える方へと進んでいったのだった―――