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進みながら願う

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腐っている体についてどう思うだろう。

 自身の体から腐敗臭が漂い、もしかしたら体自体が崩れてしまうかもしれない。やがて森などに生息しているバクテリアなどが分解し、その体は土に還る。野良で腐った体の末路はこんな感じかもしれない。


でも、その体が自分の体……ましてや新しい人生を過ごすためにもっとも大事な物だというのに、現在『腐っているかもしれない』という最悪な現実を当てられている。



(……く、腐ってる。俺の体が腐っている。まだ見つけてもいない体なのに腐っている可能性があるなんて……。)



「ハルトよ。現実はちゃんと見なければならん。人間の体は直ぐに腐る。だから、既に腐っている可能性は十分高い」


(やめてくれよ!!せめて妄想くらい夢を見させてくれよ!!)


この精神が不安定な状態でも容赦のないノワールさんの毒舌は、想像以上に俺のHPを削ってくれる。足場の悪い森の中だというのに、何でこんなにもHPを削らせてくれるのだろう。

 こいつは俺を人間的にもゴースト的にも殺したいのだろうか?こいつの目的は一体なんなのだろうか?

しばらく一緒にいるが、何でこいつが俺についてくるのか分からない。


「ハルトよ。なぜ貴様はそんなにもどうでもいいことを考えておるのだ?我が貴様と一緒にいて不満でもあるというのか?」



おっと、心の中が全部分かっているようですね。さすがはノワールさんです。心の中を勝手に読まれるのは勘弁だけど、説明しなくてもいいのは楽ですね。

 まあ、別に不満はないし守ってくれるからありがたいけど……俺にそこまで感情移入するようなことあったかな?


(なあ、お前ってそこまで俺のこと好きだったのか?好かれるならできれば綺麗なお姉さんがいいです。)


「ほう……。貴様は我に殺されたいのか?それとも殴られたいのか?同胞と言っても、殴ることくらいはできるのだぞ?」


(すみません。……いやマジすみません。本当に申し訳ございません。私が調子に乗った次第でございます。)



「うむ。貴様がそこまで言うなら、我も何もせん」



やったあ!ありがと―――って、軽いなこの野郎!!俺が地球で社畜やってきた時に学んだ謝り方をやっただけなのに。

 元忠犬社畜としては、こんな謝り一つで許してくれるんなら現実の商談はもっと楽になるのに。



「貴様、本当に反省をしているのか?我の知る人間という生物は、『失敗から学ぶ生き物』と聞いたことがあるぞ」



おいおい、何だよそのカッコいい名言。地球にもありそうな名言だけど、この世界にも似たような言葉があるんだな。

 『失敗から学ぶ生き物』とか、そこまで立派な生き物じゃないよ?人間何て大したことない生き物だし。社畜を経験している俺なんか、毎日『人間辞めてえな』とか『何で人間で生まれたんだ??』みたいなことを考えてたのに?



(えっと……確かにそうかもしれませんけど、全員が全員そういうわけじゃないというか……。少なくとも俺は違うというか……。)



「つまり貴様は『失敗しても何も学ばない』ということか?」


何か今日は当たりが強いですねノワールさん。

 別にそんな悪いことしてませんよね?


(えっと、そんな単純な話じゃないというか……俺だって一つくらいは学ぶかもしれないし。あの……その………『人それぞれ』ってやつじゃないですかね?)


もはや逃げるようにして全く違う答えを生み出した俺。これ以上ノワールを刺激したら本当に殴られそうなので、ここはちょっと逃げさせてもらいます。

 だけど、思っていた以上に納得のいったノワールは数回首を縦に振ったあと先に進んだ。どうやら、俺の言ったことを納得してくれたらしい。


小学生がよく使いそうな『宿題やったけど、家に忘れた』並の糞みたいな言い訳したのに、騙されちゃったよこのヴァンパイア

 


「どうした?珍しく貴様の考えが我を納得させたから何も言わなかったのであるが、我の行動は何か間違っていたか?」


ポカーンとしながら止まっていたら、ノワールが捨て犬のような顔をしてこっちを見ていた。

 ………そんな悲しそうな顔するなよチートヴァンパイア。元魔王候補の二つ名が聞いて呆れるぞ。



(いや、別に間違ってないよ。むしろ大正解だ。)



少し笑みをこぼしながら、俺はノワールに駆け寄っていた。



※※※




森のなか。

 一応お世話になった村を出発してわろと時間が経ったが、まだまだ目的地には遠いらしい。森すらも抜けられていないというのに、街には一体いつになったら着くというのだろう。

ノワールの話によると現在向かっている町は『最も巫女の数が多い町』という、早速自殺しに行くということだが、まあ、何とかなるだろう。


仮になにかあったとしても、チートヴァンパイアさんもいるから大丈夫だろう。レベルとステータスが高すぎて、並の巫女の浄化パージは全く効かないということらしい。『浄化パージが出来ないアンデッドモンスター』という本当にチートなノワールさんだが、そこまで強すぎると逆に退屈なんじゃないか?

 俺と会うまで友達と呼べる奴が一人もいなかったというノワール………こいつは本当に退屈だったんじゃないのか?



「時にハルトよ。人間は二人の時に何して遊ぶのだ?」


いきなりどうしたんだよノワールさん。


 森の中を淡々と歩いている中(俺はちょっとフワフワ浮いている)、いきなり那覇市かけてきたノワールが真剣な顔で聞いてきた。

『二人の時は何して遊ぶ』ってノワールさん、二人だけで遊ぶことって言ったら結構限られてきますよ。

トランプとかは人数必要だし、二人だけでできるゲームって言ったらオセロとか将棋とかだけど………まず道具がないからな。


(じゃあやっぱり『しりとり』じゃねえか?)


「しりとり?それは一体どういった遊びなのだ?」


地球にある伝統的な遊ぶの一つだけど、そこまでワクワクするような遊びじゃないよ?だからそこまで期待してるような目をされても困るんだけど……。


ノワールは、まるで俺をからかう時のようにワクワクしているようだ。


(えっと……軽くルール説明すると―――)



ここで、ハルト風しりとりのルールが始まります。

 ※これは単なるハルトがやってきたルールです。多少ルールが違うかもしれませんが、そこはご了承くだい。


1 交互にそれぞれ単語を言って言って、次の人は最初に言った単語の最後の文字から始まる単語を言っていく。

2 『ん』から始まる単語はないため、最後に『ん』のつく単語を言ってしまったら負け。

3 単語は名詞にだけである。動詞などは禁止。



以上、ハルトがやってきたしりとりのローカルルール!!




(―――というわけだ。分かったか?)


「ふむ……少々分からないところもあるが、それはやりながら質問するとしよう。だが、ハルトよ。我は貴様の世界の単語を知らん。貴様も貴様でこちらの世界の単語は知らないはずだが、大丈夫か?」



………そっか、世界が違うとそんなこともあるのか。

 『異世界しりとり』という新たなる新ゲームの始まりかと思ったけど、それぞれの世界の単語を知らないと成立しないゲームだ。そこは盲点だった。


でも、そうなると二人だけでやるゲーム何てないような気がするけど………何かいいゲームないのかねえ?



「ハルトよ。この際その『しりとり』でも構わないからやるとしよう。いくら単語を知らなかったとしても、明らかに無さそうな単語というのは大体分かる」



………まあそれもそうか。

 じゃあ、ノワールもやりたがっているようだし………『異世界しりとり』を頑張って始めていきますか。


(じゃあ俺からいいな?とりあえず………『リンゴ』。)



最初は無難ものからスタートするために、しりとりの最初に来る確率が高いリンゴから言った。

 リンゴという、恐らく初めて聞く単語のはずだけど、何の疑問も持たずに次の言葉を言ったきた。


「ふむ………『ご』か。なら。『ゴーレム』でどうだ?」


(『む』か、じゃあ『ムクドリ』。)


「『り』か………」




そんな感じで始まったしりとりは、これから2時間以上続くという死闘になってしまった。

 2時間も経ってしまえば、互いにうまく考えられなく―――というか、俺は既にしりとりに飽きている。暇をつぶすためのしりとりなのに、何で2時間も続けているのか不思議なくらいだけど、思っていたよりもノワールが熱中してしまっているからだ。


チートヴァンパイアなのに、しりとり一つでここまで本気になるとは思わなかった。地球でしりとりをやるときのコツと言えば最後に『る』が付く単語を言っていけば勝てるということだが、こちらの世界では『る』から始まる言葉多くて決着がなかなかつかない。 


「『ぞ』か……。なら『ゾーマ』だな」


(ハア……。何かもう、何も考えられなくなってきたな。)



2時間続いた死闘だったが、ここであっさり決着がついてしまう。

 ノワールが最後に言ったのは『ゾーマ』。『ま』からは地場る言葉何てまだまだ沢山ある。だけど、俺はそこから何も考えられなかった。


それどころか、思考の全てを遮断されたかのように何も考えられないという、新たなる感覚に襲われていた―――


「―――よ。ハルトよ。起きろ、既にスキルは解除してある」



―――何だろう。何か、メチャクチャ疲れたような気がする。ノワールと一緒にしりとりやっていて、確か『ま』で俺の番だったような気がするけど、なぜかそこから先が思い出せない。

 どうやら俺は、しりとりをやっている途中に寝てしまっていたらしい。


(悪いなノワール。勝負中だったのに寝ちまって。)


「気にするな。それに責任は我にある」


(………どういうことだ?)


俺が勝手に寝ただけだと思っていたけど、なぜかノワールは頭を下げながら謝ってきた。こいつが俺に謝る日が来るとは思っていなかったけど、一体どういう風の吹き回しだろうか。


「貴様とのしりとり途中、我が貴様にSPSスペシャルスキルである【思考抑制】をかけたのだ。【思考抑制】というスキルは、かけた相手の思考を抑制する。つまり、『何も考えられない状態』にするのだ。何も考えられないということは、脳が働いていないということであるから、かなりの眠気が来るのだ」



………ふぇ?

 ちょっとノワールさん、その話本当?たかがしりとりにチートヴァンパイアのSPSスペシャルスキルを受けたってこと?

しりとり初心者に『ル攻め』を仕掛けた俺があんまり強く言えないけどさ、何もスキルまで使うことないじゃん?それに、SPSスペシャルスキルを使う何てひどくないですか?


俺は中でのノワールの評価がうなぎ登りならぬ、ウナギ下がりしていることは言うまでもなかったのだった………。

 しりとりをやりながらも、俺は自分の体が腐っていないことをしっかり祈っているのだった―――


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