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マッド・ヘル

127    マッド・ヘル


「マッド……あれは、あれは何なんだ?」


「あれは君がよく知るハタストムだよ。ただ……君があの姿を見るのは初めてかもしれないけどね」


ノワールが変わり果てた姿を見た俺は震えながらマッドに問いかけていた。俺の問いかけに対して顔に少しの笑みを浮かべながら答えるマッドは、何よりも楽しそうだった。子供がテーマパークに行ったようなテンションになっているマッドは、本当に楽しそうだった。ノワールの中にひそかに宿っていた本能が顔を出したという状況を楽しんでいるマッドは、俺にとってはとても怖かった。


「何でお前……そんなに楽しんでるんだ?」


「何のことだい?君は僕がこの状況を楽しんでいると思っているのかい?」


「“()()()()()()()()()()()()()()”。それはお前が言ったんだぞ?最初は俺たちに協力するって言ってたけど、結局はお前は俺たちの味方じゃない。……つまり、俺たちの目的とは少し異なるってことだ。俺たちの目的はこの世界を救うこと……でも、お前の目的はアスモデウスを殺すことだけだろ?」


「……」


俺が能弁になりながら言うとマッドは何も返してこなかった。この考えはノワールも考えていたことで、マッドのことを警戒していたのだ。“仲間の近くに敵を置”くという言葉をどこかで聞いたこともあるし、マッドが怪しいと思っていたのは俺自身だ。ずっと警戒していたからこそ浮かんでいた答えであり、マッドの目的はアスモデウスを殺してついでにこの世界を滅ぼすこと。


考えたくは無かったし、認めたくもなかったけどこれがきっと真実なのだ。



「……なるほどね。正直、君を見くびっていたけど君を見る目を改めないといけないようだね」


ようやく口を開いたマッドの言葉は深々と俺の胸に突き刺さったようだった。信じていた者に裏切られた気分と言うものなのか、それとも俺はマッドに他の気持ちを抱いているということなのだろうか。


「君が言ったことが正解だよ。少し違うけど、本当に君の言う通りだ。最初に言った通り僕は“君達の敵でも味方でもない”。その言葉に嘘はないよ。でも……僕の本当の目的を悟られるとは思わなかった。やはり、君という存在がそれほどイレギュラーということだね」


「お前が何年かけてその作戦を作り上げたのか分からないけど、全てがお前の目論見通りに行くとは思わないことだな。マッドがすごい奴だってことは分かってるし、むしろその作戦を考え付くことは尊敬すらしてる。……けど、俺は友達を裏切ることはできない。ノワールが暴走状態(あれ)なら俺はあれを解除させる方法を考える。それだけだ」


そう言い切った俺はマッドを置いて暴走しているノワールの元に飛んでいった。さっきまでは【部分擬態】を発動させて飛んでいただけなので、大した魔力は消費していない。【部分擬態】というのは擬態させる時だけ魔力を消費するので、飛んでいる間に魔力が回復できるのだ。


(……俺がマッドの指示を無視して【音速走】を使っていたら、ノワールはあんな状態にはならなかったのか?)


心の中でその考えが浮かび、俺は自分自身を責めていた。自分がもっと早くにマッドの目論見に気づいていたら……俺にもっと力があったらこんなことにはならなかったはずだ。

 以前、ノワールがこんな感じの暴走状態になったことを覚えている。しかし、あれは呪いの効果を受けていて呪いがかかっていることは目を見て分かった。


しかし、今のノワールは以前とは何かが違う。感じられる魔力がいつもより……強いというか、黒何と言うか。


「の、ノワール!!」


「……?」


ノワールに近づき、名前を叫んだら直ぐにこちらを向いたノワールは殺気が宿った目をこちらに向けた。その殺気に怯えそうになった俺だけど、それか気合と根性で何とか持ちこたえて近づいてくるノワールに手を差し伸べた。


―――その差し伸べた手を見つめるノワールは暴走状態でありながらも手を差し伸べ返そうになったけど、あと一歩のところで頭を押さえ始めた。


「うっ!?う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「ノワール!?」


あと一歩のところで頭を押さえたノワールはさらに力を高め、血に飢えた目で俺を睨みつける。先ほどはまだ僅かの理性を保っていたというのに、まだ残っていた本能が顔を出してノワールの理性を蝕んだ。一度指し伸ばしていた手を引っ込め、攻撃を仕掛けるためにこちらに手を翳す。


「……」


無言のまま放たれた一撃。一瞬【天滅】かと思ったが、それとは違って黒い魔力が外に飛び出たような攻撃だった。神様の魔力が黒を蝕む魔力だとしたら、ノワールの魔力は白を蝕む魔力と言ったところだろうか。これこそがノワール自身に宿していた魔力であり、それが今解放されたということだ。


嫌な予感が当たって何とか回避することが出来たノワールの一撃。黒いレーザー光線のようなものが俺を襲ったけど、上に逃げて何とか回避した。


「……っ!!?」


―――回避した後、俺の後ろに現れた強大な力を持ったノワールに殴られた。



※※※




「……ん?どこだここ?」


「目を覚ましたか?……まあ、あの状態のハタストムの攻撃を喰らって生きているなら上出来だな」


「何だ……ルインか」


目を覚まして目の前に居たのはルインだった。最近事あるごとに気を失っているような気がするけど俺の体は大丈夫なのだろうか?しかも、次に目を覚まして映る景色には全部違う人なのだ。

 今回はルインだったし前回はマッドだった。


「ルイン。あの状態って、何か知ってるのか?」


「ああ。奴があの状態になったのは今回で二回目だからな。……奴は持っていた血を飲んだのだ。血を飲まないとゼウスに勝てないと悟ったのだろうな。その選択に間違いは無いと思っていたが、一回飲んだ時よりも力が凄まじい。どうやら奴自身に宿っていた本能が昔に比べてもっと大きくなってしまったのだろう」


「どうすればいいんだ?」


長々とした解説に感謝をしたいけど今はそんなことをしている場合ではない。俺の問いかけに対しては割りと簡単に答えてくれたルインは、手で顎を押さえながら言った。


「方法と言えば奴の外に出る本能を狩りつくすことだな。以前は俺が力づくで止めたが、今回ばかりは出来ない。奴自身の力が強すぎるし、俺の力では絶対に止めることが出来ない」


「マジですか……」


ルインが出来ないといった瞬間、俺は絶望に包まれていた。一番あてにしていたルインに出来ないといわれた俺は何に期待すればいいのだろうか?

 そんな感じに絶望していると後ろからルナさんがやって来て、俺の目を真っすぐ見つめながら言ってきた。


()()()()()()

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