目覚める本能
どうもココアです。
本日2話目の更新ですが、後書きでお知らせがございます。
別に今回じゃなくてもいいのですが、何となく忘れそうなので今日知らせておきます。
では、楽しんで読んでください。
124 目覚める本能
「ほれ、ほれ!どうした?わしを殺すつもりだったんじゃろ?」
まるで遊んでいるかのように攻撃を繰り出すゼウス。ノワールはそんなゼウスが放つ攻撃をギリギリの所で回避していた。最小限の動きで回避することで無駄をなくし、少しでも体力を温存しようとしているのだ。覚悟を決めた今でも血を飲まないノワールは自分から攻めることは無く、ゼウスが態勢を崩したり攻撃をした瞬間の隙を狙っていた。
一発一発は大した威力ではないのだが、回数を重ねることで多くのダメージを与えようという考えだった。
「確かに我は貴様を殺すと言ったが、力いっぱい暴れるなぞゴブリンがすることだ。我をそこらのゴブリンと同じ脳を持っていると思っているなら、それは勘違いだから我が直々に訂正させてやろう。敗北を味合えば訂正されるだろうしな」
「お前さんが何故攻撃を仕掛けてこないかは分からぬが、わしもただ適当に攻撃をしていたわけじゃないのじゃよ?お前さんが最小限の動きで回避した先には誰がいたかのぉ?確か……裏切りの女神が二人とアンデッドが二人、そして小さなハエが二匹じゃったかのぉ?」
ゼウスがニヤニヤしながら言うとノワールの顔がどんどん険しくなっていく。そのまま恐る恐る後ろを振り返り、確かにあったはずの草原に視線を向けた。
―――つい先ほどまでは緑色の絨毯のようだった草原だというのに、今はゼウスが放った攻撃によって焼け野原となってしまっていた。緑色だった草原が炎と黒に包まれ、まだその草原に居たルナたちは【魔結界】を張って何とか持ちこたえていた。
「なぜ……わしがこの場所を選んだのか分かるか?」
「!!?」
ゼウスが語りながら光の矢をルナたちに向かって放つ。ノワールはそれに一瞬早く気づき、身を挺して防ぐ。ノワールの背中には光の矢が刺さり、それは腹にまで貫通してしまっていた。神の白い魔力はノワールの黒い魔力を蝕み、そのまま白が黒を食らい尽くそうとしていた。
「フハハハハ!!この程度で勝利したつもりなのか!!最強の我がこの程度の攻撃で死ぬわけがないだろう!!」
そう言ったノワールは腹に刺さった光の矢を力ずくで抜き取ろうとした。痛む腹、流れ出るどす黒い血。光の矢に触れるノワールの手が溶けているかのように煙を上げ、表皮から皮膚を徐々に剥がしていく。時々苦痛に悶える声を上げながら矢を抜き取り、それを槍投げの如くゼウスに投げつける。その矢を右手を翳すだけで止めたゼウスは、次の攻撃を放つために今度は左手を天に翳す。
「お前さんを殺すにも飽きていたところじゃ。どうやら……お前さんはアンデッドにしては情が深すぎるようじゃな。だからあの者どもを殺せないのじゃろぉ?」
「……」
【自己再生】のみの回復ではなく、自らで回復スキルを発動させて傷を癒しているノワールはゼウスの問いかけには答えようとしなかった。ただ殺気をむき出しにした目でゼウスを睨んだまま、ノワールは静かに自分の傷を癒していた。
「ふん。黙るというなら否定も肯定もしないということじゃな。……まあ、お前さんに情があるのならあの者どもを殺せば少しは楽しめそうじゃな」
「そんなこと……我が許すと思うのか?」
「殺された絶望と恨みでわしに襲い掛かってきたお前さんを圧倒して勝つ……。中々楽しめそうなシナリオじゃのぉ」
完全に狂っているゼウスは天に翳した手に巨大な光の球体を作りだしていた。悪魔たちが使っていた黒い球体とは全く異なる魔力を帯びた光の球体は、真っすぐルナたちに下ろされた。
―――ゆっくりと落ちていく光の球体だったが、ゼウスが指を鳴らした瞬間に破裂して無数のレーザー光線が隕石のように降り注いだ。
だが、ノワールはその攻撃を防ごうとする素振りすらも見せることなく自分の傷を癒すのに必死だった。そして……ゼウスが放った攻撃は場所を間違えることもなく、真っすぐルナたちが居る場所に降り注がれた。
「……む?なんじゃあれは?」
「フハハ、フハハハハ!!見事に引っかかったな神よ!!全てを見通すはずの神が見事ひっかかかったな!!」
―――確かにその場に居たはずのルナさんたちだったが、ゼウスの放った攻撃を喰らっても傷一つついていなかった。地面は穴だらけになっており、さらに緑の草原が更地になってしまったがルナさんたちは空を見上げながら立っているだけだった。
「貴様は罠にかかったのだ!!あそこに居るルナたちは幻像だからな!貴様はハエと罵ったモンが【幻惑】を発動させて貴様に幻惑を見せたのだ」
高笑いをしながら説明するノワール。そんなノワールの説明を聞いていたゼウスはある違和感に気づき、少し動揺した表情でノワールに問いかける。
「待つんじゃ。ならば、なぜお前さんにも見えていたのじゃ?その幻惑を見ていたのがわしだけなら、お前さんは見えていなかったはずじゃ」
「そんなことは簡単だ。我も同じように幻惑にかかったのだ。我も幻惑にかかることで共に同じ景色を見て、貴様が何もない場所に強力な攻撃を放った。――この時を待っていたのだ!!」
負っていた傷を治し終えたノワールはスキル【音速走】を発動させてゼウスとの距離を一瞬で詰める。その圧倒的至近距離まで近づいたノワールはあえて【魔弾】を放つ。しかし、当たり前のようにゼウスはそれを片手で弾く。そしてノワールは、既に次の攻撃に移っていた。
【収納魔法】で取り出した剣を抜き、その剣に【硬化】と【軽量化】、【鋭利化】に【魔力撃】……さらに【強力魔力】を付与させてゼウスを一刀両断する。
「ぐわぁぁぁぁ―――何て言うと思ったのかのぉ?」
「なにっ!?……ぐはっ!?」
―――ドパッ。
ノワールが振った剣ではゼウスを一刀両断することも、痛みを感じさせることも出来なかった。今まで以上の殺意をノワールに向けたゼウスは、ノワールの体に触れて光の魔力を放つ。
一瞬で右腹部の肉が無くなり、ノワールはそのまま地面に落ちて行ってしまった。
「ぐっ!!?」
「ノワール殿!!大丈夫でござるか!!」
地面に落ちた場所は丁度皆が待機していた場所の近くだった。全員が全員ノワールに近づこうとした瞬間、ゼウスも下りてきて全員に強力な殺気を放つ。その殺気で全員硬直してしまい、ゼウスはそのまま右手を思い切り振る。
「「「ぐわぁぁぁぁ!!」」」
ルナ以外はそのゼウスの素振りだけで吹っ飛び、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまっていた。【自己再生】で少々傷を癒したノワールはルナに近寄ろうとするゼウスの前に立ちふさがる。
「ここを通すわけにはいかん」
「天界を追放された女神はどうでもよいのじゃが……そこのルナはまだ天界の者じゃ。天界の王であるわしを裏切って、無事でいさせるわけがないじゃろぉ」
「それでも!我はここを通すわけには行かないのだ。貴様の事情などはどうでもいい。我はこの命に代えてもここを離れない」
両手を広げてルナを守るように立ちふさがるノワール。ゼウスはそんなノワールの行動と言動に苛立ったのか、右手を二人に翳して今まで以上の魔力を感じさせる攻撃を放とうとした。
「なら……二人まとめて死ね。わしに慈悲があると思わないことじゃな」
「!!?。ルナァァァ!!!!」
【天滅】とは違い、全てを消失させるような効果は無いもののそれよりも数段威力が高い攻撃を放ったゼウス。ノワールはその攻撃が放たれる前にゼウスに背中を向け、ルナの名前を叫びながら力強く抱きしめていた。
―――そして、ルナは傷一つ負っていなくノワールは命を落とす寸前だった。気力だけで持ちこたえていると言っても過言ではないノワールは、ルナを抱きしめる力も無くなって横に倒れた。
「……大したもんじゃな」
その光景を見ていたゼウスは関心と呆れが混じる言葉を言いながら再び近づいた。
「……どうしてですか?なぜ、そこまでして私を助けたのですか?」
自分のことを身を挺してまで救ってくれたノワールに問いかけるルナ。その目には大粒の涙が溜まっていて、ノワールの顔に数滴たらしながら問いかけていた。
「…………」
ルナの問いかけに対していつまでも無言のノワールは、ルナの顔を見ながら何かを思い出しているようだった。そして、ようやく口を動かしたノワールはかすれたような声のままでルナに言った。
「我は……俺は、一度お前を失ったんだ。でも、二度と繰り返したくなかった……お前が死んだ姿をもう見たくなかった」
記憶を失っている今のルナに言っても意味がないことは分かっているノワールはその後に「だから―――」と言い、さらに言葉を続けた。
「俺はもう迷わない。お前を救うために俺は戦う」
そう言ったノワールは震える手で発動させた【収納魔法】から赤い液体の入ったビンを取り出し、蓋を開けて飲もうとする。その飲む直前にもう一度手を止めたノワールは再びルナの顔を見つめ、
「好きだルナ」
最後にそう言いきってからビンに入った血を全て飲み干した。
読んでいただいてありがとうございます!!
さて、前書きで書いた通りお知らせがございます。
来週の月曜日……8月20日なんですが、そこから部活動の合宿に行くので更新が出来ないかもしれません。もちろん書けたら書くつもりですが、結構厳しいと思います。クライマックスとなり、そろそろ完結というタイミングで申し訳ないですがご了承ください。
書き溜めをしようかと思いましたが、一日2話更新していると溜める余裕がございませんでした。本当に申し訳ございません。
では、次回をお楽しみに!!