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ライバル同士? その1

115        ライバル同士? その1




―――アスペリル地方に位置するウリル島。今は誰も住んでいない無人島で、俺たちは悪魔と戦うためにこの場所を選んだ。魔族との戦いでは島どころか大陸が消しとんでもおかしくないので、ルナさんがしっかりと島を包み込むように結界を張ってくれた。

 その結界は特殊なもので、入ることは出来ても出ることができないのだ。


「ノワール。暇なんだけど」


―――そんなことはどこかに置いておくとして、現在俺はこれ以上ないほど暇をもて余していた。最初は魔族の手下とか天使とかが襲いかかってきたけれど、今は閑古鳥が鳴いているように静かな草原となってしまった。


「サタンを倒すためのイメージトレーニングでもしておくんだな。強敵相手にはイメージトレーニングがかなり役に立つ。勝つことを望んではおるが、絶対に勝てるとは言えん。故にイメージを固めろ」


「あ、はい」


的確すぎるノワールの言葉になにも言い返せなかった俺は体育座りをしながら不貞腐れることにした。さっきまでここに居たマッドも「そろそろ戻るよ」と言って初期の待機場所…………ルナさんたちが居る場所に戻ってしまった。ルインと魔女さんとモンとコアトルちゃんは固まっているし、今はこの暇という過酷な状況に打ち勝ちながらサタンという悪魔が来るのを待つしかなかった。


「ハルト。今ルインから連絡があった。『ハメられた』ということだ」


「え?どういうことだ?」


いきなりのカミングアウトに状況が掴めないでいた俺は立ち上がってノワールに聞き返す。ルインともあろう者がハメられたと言うのだから、よほどのことをされたのだろうと少し覚悟をしていた俺。


ノワールは再びルインと連絡をとっているようで、耳に手を当てながら具体的な内容を聞こうとしていた。


「…………なるほど。そういうことか」


耳に手を当てながら詳細を聞いているノワールは時々相槌を打ちながらルインから話を聞く。早く説明してほしい俺にとってはソワソワしながら待っていたのだが、一人でソワソワ待っていると何となく悲しい気分になってきてしまう。


「ハルト。ハメられた理由が分かったぞ。一回目の攻撃の狙いはルナたちだったらしい」


「ルナさんたち?」


「ああ。悪魔たちにとって神の力を持っている者は天敵もいいところだ。奴等は俺とルインの場所に同じような軍勢を送り、その間にルナたちを襲ったらしい」


ノワールに説明されると納得は出来る。でも、並の魔族がルナさんたちを襲っても涼しい顔で撃退出来るはずだ。悪魔でさえ一撃で葬っていたはずだし、何よりそれだけ大きな力を持つ悪魔が来たと言うならノワールとかルインが気がつくはずだ。


「貴様が思うことも分かる。しかし、奴等は我らに爆弾を仕掛けていた」


「爆弾?」


比喩表現が難解すぎて意味が全く分からなかった。


「爆弾はマッドだ。確かに魔族たちの情報を得るために魔族となったが、魔族であることには変わらない。ルインが視たことによると、マッドが【テレパシー】で命令を受けた瞬間、背後からルナたちを襲ったらしい」


「そ、そんな…………マッドが?本当なのかよ?」


話を聞くと否定する部分など見つからなかったけど、ただマッドが敵であることを認めたくない俺はその事実が信じられないでいた。仮にマッドがやったことだったとしても、それをマッド自身が望んだことだとは思わない。


「認めたくない気持ちは分かるが、奴は魔族なのだ。上からの命令が出れば平気で裏切り、子供でさえ手にかけるだろう」


「………ルナさんたちはもう殺されたのか?」


「いや、ギリギリで死んでいなかったらしい。今はルインが診てくれているが、当然のようにマッドは姿を消したらしい」


「そうか」


その事実を聞いた俺は口を笑みを浮かべながら心底安心した。ルナさんたちが無事だったこともそうだが、それ以上にマッドが殺さなかったことを心底安心した。

 殺していないということはマッドは完全に服従していないということだろう。仮にアスモデウスがマッドに命令したとして、ルナさんを生かしておく理由がないのだ。つまりマッドは命令されても尚、必死で抗って命令を無視したということだろう。



「とりあえず我らもそっちに向かうぞ」


「あいよ」


そう言ったノワールは直ぐに指を鳴らし、黒い霧が俺の視界を奪う。さすがに慣れたこの黒い霧は包まれるとなぜか安心する。黒い球体はもう御免だけど、黒い霧なら大歓迎だ。



―――次に目を開けて映った景色はルインが額に汗を滲ませながらルナさんもの胸に手を当てている光景だった。ルインの手はルナさんの血によって赤く染まり、ルナさんの意識は朦朧としているようだった。


「ルナ!!」


その光景を目の当たりにしたノワールは名前を叫びながら光の速さでルナさんに駆け寄り、強く手を握る。…………何となく涙が出てきそうな光景で、俺は必死になって涙を堪えながらゆっくり近づいていった。


「………あなたは確かノワールと呼ばれていましたね。知り合って間もないはずなのに、なぜそんなに私を心配するのです?」


意識が朦朧としているなか、強く握るノワールに問いかけるルナさん。今のルナさんは記憶を失っているため、ノワールと過ごしてきたことを忘れている。そして、そう言われたノワールは強く握っていた手を離そうとした。


―――しかし、ルナさんはノワールが離そうとする手を逆の手で触れて首を振る。



「………理由は分かりませんが、あなたに――――ノワールさんに手を握られるととても心地良いのです。だから………離さないでください」


弱々しい声で囁くように放たれたその言葉は確かにノワールの心に届いていた。無言のままルナさんの目を見て頷いたノワールは再びルナさんの手を強く握る。

 仮に記憶を失っていたとしても、その感情が消えるわけではない。人そのものが変わることはなく、ルナさんの楽しかった時の思い出や嬉しかった時の思い出は全てノワールと一緒に居た時の記憶なのだろう。その感情がまだルナさんの心に残っていた…………だからノワールに手を握られて心地よいと思ったのだろう。


「皆さん。一つ言っておきますけど、私たちを襲ったのはマッドさんだけでなくベルゼブブと言う悪魔も居ました」


「ベルゼブブか………」


ルナさんよりは深傷を負わなかったらしいロゼが耳よりの情報を出してきた。ここで出てきたのはアスモデウスの側近のベルゼブブで、ルナさんがここまで深傷を負ったということはかなりの強さを誇るのだろう。


ロゼの言葉を聞き、皆が皆どうするのか考え出した瞬間思わず震え上がってしまうほどの強力な魔力が接近してきた。全員の視線がその魔力の方に移り、全員が血相を変えて空を見上げた。


「お初にお目にかかります。私はアスモデウス様に忠誠を誓った悪魔…………サタンともうします。早速で悪いのですが、あなた方は私の目的のために死んでもらいます」

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