アスモデウスの策略
114 アスモデウスの策略
「フハハハハ!!そうか!!やけに帰りが遅いと思ったらまさか【永遠牢獄】に閉じ込められていたとは!!貴様は相変わらず油断をしているな!!」
「うるせえ!!そう言うけどいつ仕掛けられたのか全く分からなかったんだよ!!」
マッドと共に元の待機場所に戻ると早速ノワールに馬鹿にされた。俺はこの久しぶりのやり取りに懐かしさを抱きながらノワールに文句を言う。だが、相変わらず大きな高笑いを上げながら俺を馬鹿にし続けるノワール。いつしか拳を食らわしてやりたいと思うこともあったけど、今はそんな思いさえもどこか心地いい。
「それにしても何でマッドは解除で来たんだ?あれって物理的に破壊するの不可能だって言ってたけど」
当たり前すぎる疑問を口笛を吹いてゴキゲンのマッドに問いかける。するとマッドは首を傾げながら何かを思い出すような素振りを見せ、その次にハッと何かを思い出したような顔をする。
「そんなのは簡単だよ。僕は【拘束・封印無効】っていう特性を持てるからね。だから女神が作り出したロープだろうと【永遠牢獄】だろうと触れるだけで破壊出来るんだよ」
「何その特性めちゃくちゃ欲しいんだけど。マッドってマジで何者なんだ?」
軽い気持ちでそう聞くとマッドはいきなり真剣な顔をしながら大きく息を吸う。
「そうだね……。強いて言うなら愚者かな。この場合いい意味じゃなくて愚か者って言う意味でね」
「マッド……」
悲しそうな顔でそう言うマッドにそれ以上なんて声をかければいいのか分からなかった。どんな言葉も今のマッドには届かないような気がして、言うだけ無駄だと思ってしまう。あの伝説的に空気を読まないノワールでさえ、今だけは喋りたい気持ちを必死に押さえていた。
「そう言えば魔族と天使の攻撃終わったけど、全員倒したのか?」
「いや違う。奴らは一度手を引いたのだ。恐らく我らの戦力が想定以上だったのだろう」
俺の問いかけにノワールが見上げながら答える。雑魚ではあったけど知恵の働く奴は一応居たらしい。もしくはあの軍勢を引き連れていた指揮官が指示を出したのかもしれない。そう思いたい俺だけど、何故か胸騒ぎがしてたまらなかった。
ここまで存在を隠し、本来の目的を晒さなかった悪魔の長アスモデウスがこの程度のことで手を引くだろうか?仮に――もし仮にこれも全てアスモデウスの想定内だとしたら、俺たちはまだアスモデウスの手のひらで踊らされているということになってしまう。
「なあマッド。ベルゼブブって知ってるか?」
どこか落ち着けない俺は俺を【永遠牢獄】に閉じ込めた魔族から聞いた名前をマッドに聞いてみることにした。下っ端が“様”と呼んでいたのであまり期待は出来ないけど、魔界の幹部くらいに思っている。
「確かベルゼブブはアスモデウスの右腕と呼ばれていた側近だよ?僕は数回しか見たこと無いからよく知らないけど、サタンとケンカしてるのをよく見るよ」
「サタン?」
新たなる悪魔の浮上に思わず聞き返してしまった。
「そのベルゼブブと互角の強さを持つと言われている悪魔だよ。何か『強い方がアスモデウスの側近になる』ってことで勝負したらその時はベルゼブブが勝った見たけど、サタンもベルゼブブも同じくらいの強さだよ。魔界で注意するべき人物はアスモデウスとその二人くらいかな?」
ちょっと待ってくれよ。そう言うことは先に行ってくれないと困るんだけど。
幹部くらいって認識して俺がめちゃくちゃ甘いじゃん。アスモデウスの側近とそれと同じ強さを持っているのがもう一人いるとかマジでどうなってるんだよ魔界のパワーバランス。
お前らが強いから他が弱いんじゃねえの?
「マッドよ。ちなみにその二人は我々の戦力と比べると誰くらいの強さだ?」
俺とは違って全くツッコミを入れようとしないノワールは冷静にベルゼブブとサタンに戦わせる奴を選別するようだ。アスモデウスと戦うのはノワールだとして、それにまとわりついている二人をどうするのか悩んでいるようだ。
「そうだね……。確実に倒したいならもちろんハタストムが戦ってほしいけど、ルインなら戦い方が上手いからきっとやってくれるよ。仮にベルゼブブとルインを戦わせたとしても、それだとサタンと戦わせる戦力が居ないんだ」
「それならハルトでいいだろう。戦術はルインに劣るが、ステータスだけはルインより上だ」
「ノワール。それって俺のことを褒めてるんだよね?決して俺を馬鹿にしてるわけじゃないよね?」
ケンカ腰の口調で言うけどノワールはそんな俺の言葉を華麗に回避して話を進める。ノワールも大分俺の扱い方を覚えてきたようで、さすがの俺もこれ以上介入する気は毛頭ない。勝手に俺がサタンとかいう悪魔と戦う話が進んでいき、いつの間にか戻ってこれないところまで話が進んでしまった。
「でもやっぱり厳しいんじゃないかな?確かにハルトは強いけどサタンに敵うほどの強さを持っているとは思えないよ。やっぱり上手いこと僕が誘導するからハタストムが戦うべきだよ」
「我はアスモデウスと戦わなければならない。なるべく魔力を消費するのは避けたいのだ。ならば貴様が戦えばいいだろう?」
「僕はダメだよ。悪魔の血を飲んで魔族になったから相手の許可なく目上の存在を攻撃出来ないんだ。アスモデウスと戦った時は彼女から許可が出たからね」
軽い口喧嘩になりながらまだサタンと戦う奴を決めているようだった。意外なのはノワールもマッドも破壊の魔女さんやルナさんの名前を一度も出さないことである。魔女さんがどのくらい強いのか分からない俺にとってはここで魔女さんを戦わせて強さを見たい。
「ハルト!君はサタンと戦う覚悟はあるのかい?確かに君の強さは認めているし、尊敬すらしている。でも君は今人間で一度死んだら生き返ることは無いんだ」
「まあそうだけど、俺がサタンを倒せばこちらが有利になるんだろ?死ぬのは嫌だけど戦争に参加する時点で覚悟は出来てる」
やっと俺の意見を聞いてきたマッドに強い口調でそう言うと、深いため息を吐いたマッドが急に脱力したように座り込んだ。
「……まあ君ならそう言うと思ったけど、まさか本当に言うとはね。君といいハタストムといい、悪魔を舐めてるんじゃないかい?」
「そんなことはねえよ。悪魔の強さは知ってるつもりだし……」
今まで結構な数な敵を倒してきたけど人間になってからはそんなに苦戦をすることは無かった。でも、悪魔や魔王を相手にした時はかなり厳しかったのを覚えている。得に覚えているのは悪魔が使ってきた黒い球体だ。あれの正体は分からなかったけど、ルナさんが助けに来なかったら俺は超重力によって殺されてしまっていたかもしれないのだ。サタンという悪魔が俺が戦った悪魔よりも強いというなら厳しい戦いになるのかもしれないけど、別に勝たなくてもいいのだ。
修行している時にノワールに言われた言葉は勝つ戦いではなく負けない戦い方をしろという言葉だ。
「とりあえず頑張ってみるよ」
決意を固めたとは思えない返事をしてそのサタンという悪魔と戦うために準備をする。側近のベルゼブブと同じくらいの強さを誇ると言われているサタン……俺はそんな強敵を前にちゃんと戦うことができるのだろうか。