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ほんの前菜

113       ほんの前菜



「フハハハ!!魔族ともあろうものが我の【天滅】で消し去っては救いようがないな!!」


最後だと願いたい戦いが始まり、隣にいるノワールが高笑いを上げながら連続で【天滅】を放つ。魔族や天使のような者がこちらに攻撃を仕掛けることもなく、跡形もなく消し去っていくのだ。


「ノワール。あんまり飛ばしすぎるなよ。雑魚相手に魔力を必要以上消費してたら、本当の敵が現れた時に対処できない」


「その通りだよハタストム。君はもう少し考えて動くべきだ」


俺がノワールに忠告するとそれに便乗してきたマッドが挑発するような口調でノワールに言う。マッドは待機場所とは違うのだが、「退屈だから」という単調な理由でこちらに来たそうだ。


「大丈夫だよ。僕の待機場所には元女神と現役の女神…………いや、ルナと呼んだ方が良いのかな?」


「………それは貴様の勝手だが、その言い方は少々気に障るな」


「本当に似てるよね。だからこそ君は傍に居るんだろうけど。…………でも、僕は別に君を否定したりはしないよ。君が彼女の傍に居たいと言うなら好きなだけ居ればいい」


マッドは強い口調でノワールに言い、その後に「でも…………」と何かを続けるようなことを口にした。しかしマッドはそれ以上何も口にせず、襲いかかってくる魔族や天使たちに向かってゆっくりと手を翳す。


「手伝うよ。いくらハタストムでも、これだけの量を相手にしてたら魔力が尽きる」


「貴様に頼むのは些か複雑な気持ちだが、今だけは頼るとしよう」


意外にもマッドの言葉を了承したノワールは翳していた手を下げ、休むために腕を組ながら座り込んだ。偉そうに座るノワールをジト目で見ていると、マッドに肩をポンっと叩かれて「手伝って」と言われてしまった。

 元々この場所で待機していたのは俺とノワールなので、手伝わないわけにはいかない。


「よし!やるか!」


俺は少しでも気合いを入れるために大きな声で返事をし、マッドと同じように向かってくる魔族や天使に手を翳す。



「【獄炎竜】!!」


マッドが先に放った一撃…………【黒炎竜】はその名の通り黒い炎で竜を表していたけど、【獄炎竜】は紫色の炎で竜を表していた。強さ順で表すとすれば【炎竜】<【黒炎竜】<【獄炎竜】という順番になるだろう。

 その【獄炎竜】は向かってくる魔族と天使のど真ん中に辺り、焼き作るしていく。【天滅】のように一瞬で消し飛ばすことは出来なかったけど、獄炎に包まれた魔族や天使が消し炭になっていく。


―――ムクムクムク。


「あれ?でかくなった?」


【獄炎竜】が魔族や天使たちに獄炎を食らわせ、消し炭にした瞬間【獄炎竜】が大きくなったような気がした。そして―――【獄炎竜】は留まることを知らず、どんどん魔族や天使を喰らうように消し炭にする。敵を喰らい、消し炭にしていくにつれてどんどん大きくなっていく。


「なあマッド。やっぱり大きくなってるよな?」


「もちろんそうだよ。【獄炎】は【黒炎】のように消えないだけの炎じゃないからね。消えないだけでなく、()()()()()()と言われているよ。まあ、本当に喰らうのは命じゃなくて魔力なんだけどね。獄炎を纏わせた相手から魔力を喰らって大きくなるんだ。獄炎竜(あれ)を消すためには相当な力が必要だよ」


「へえ……」


【獄炎竜】の強さに驚き、たったその一言しか出てこなかった。【天滅】とはまた違った強さのあるスキルとここで出会うとは思っていなかったし、そんなスキルを使えるマッドを片手で倒したアスモデウスってマジで何者なの?


それはそうと、俺も俺で少しは手伝うことにした。今のところ魔族も天使もただイノシシのように突っ込んでくるだけだけど、そろそろ知恵が働く奴が来てもおかしくない。


「……ん?なにやってるんだ?」


スキル【千里眼】を発動させ、遠くにいる魔族の動きを確認すると早速奇妙な動くをしている魔族を発見した。それだけでなく他の魔族よりは強い力を持っているようだ。右耳に手を当てながら口を動かしているところを見ると、誰かと連絡をとっているのかもしれない。


「マッド。ちょっと行ってくる」


「頑張ってね~」


明らかに怪しい行動をとっている魔族を発見した俺はマッドに一言断ってから【ゲート】を発動させて、その魔族の真後ろに移動する。


「――はい。そうです」


遥か上空に【ゲート】が開いたのでスキル【部分擬態】で背中に翼を擬態させた俺は少しでも情報を聞き出すために、【気配遮断】と【認識阻害】を同時展開して完全なステルス状態を生み出した。でも、連絡に夢中になっている魔族以外は俺の存在に気づき、次々に襲い掛かってくる。


「【円廻】」


あらゆる方向から襲い掛かってくる魔族と天使たちだが、俺は腰に下げていた剣を抜いてスキルを発動させる。発動させたスキルは【円廻】というスキルで、数少ない剣技のスキルである。円を描くように剣を振る剣技の一つで、このスキル一つで周囲の敵を一網打尽に出来るのだ。剣には【硬化】と【鋭利化】と【魔力撃】を付与エンチャントし、俺に襲い掛かってきた魔族や天使は見事に一刀両断されていった。


剣自体には【腐食】と【浸食】と【風化】が付与エンチャントされていて、仮に一刀両断されてなくても傷一つついていれば即死を免れない。もちろん耐性を持っていたら別だが、所詮は雑魚なので耐性などは持っていないだろう。


「―――はい。分かりました“ベルゼブブ様”。この後直ぐに誘導致します」


……自分の仲間が一瞬にして駆逐されたというのに、まだベルゼブブとやらと連絡を取り合っている馬鹿な魔族の首筋に剣を当てる。


「随分余裕だな。さて……知っている情報を全部吐いてもらうぞ」


剣を首筋に当てると金属特有の冷たさに気が付いた魔族は両手を上げながら目だけをこちらに向けていた。この状況でも顔色一つ変えない所を見ると、かなり気も座っているらしい。ベルゼブブとやらとの連絡も一瞬で取り止め、ただ両手を上げながら俺の次の言葉を待っているようだった。


「黙秘ということは死を選ぶってことでいいんだよな?」


俺がそう言うと今まで開けていた目をゆっくりと閉じた魔族。覚悟を決めたと察した俺はそのまま剣を振って、魔族の首を掻っ切る。


「さて……戻るか」


出来ることならもう少し情報が欲しかったけど、とりあえず目的の魔族が倒せた俺はもう一度【ゲート】を発動させてマッドとノワールが居る場所に戻ろうとした。


―――パキンッ!!


しかし、折角発動させた【ゲート】はガラスが割れたような音を立てながら消失していった。今までこんなことは無かったので、もう一度【ゲート】を発動するが一回目と同じようにガラスが割れたような音を立てながら消失していく。


「おかしいな……」


別のスキルを試そうと【魔弾】を放つと数メートルまで移動したところで何かにぶつかり、そのまま反射して俺の方に向かってきた。反射してきた【魔弾】を見事にキャッチし、そのまま握りつぶして破壊する。【ゲート】も使えず、【魔弾】も何かにぶつかったように反射したということは完全に閉じ込められられたのだろう。


「さーて。どうするかな!!」


【ゲート】も使えなければ【魔弾】ですら破壊出来ない何かに閉じ込められた俺。【天滅】なら破壊出来るかもしれないけど、それだとリスクが高すぎる。一回放つだけで魔力の殆どを持ってかれるので回復するまで時間がかかる。


でもそんなときこそ【解析】の出番である。


(【解析:この状況を打破するために】。)


《 解析が終了致しました。

   現在あなたは【永遠牢獄】というスキルによってつくられた空間に閉じ込められています。【永遠牢獄】を物理的に破壊するのは不可能であり、その空間から脱出するのも困難です。可能だと思われる手段は()()()()()()()()()()()()()()()() 》


「内と外か……」


さすがは【解析】の人。解決策をいとも簡単に見つけ出すとは。


「じゃあノワールにでも連絡を―――」


「あれ~?ハルトなにしてるの?」


【テレパシー】でノワールにヘルプを求めようかと思ったのだが、その前に【ゲート】を使ってマッドがやって来た。マッドがやって来たのならマッドで構わないと、早速頼むことにした。


「なあマッド。ちょっとお願いがあるんだけど―――」


「あれ?なにこれ?」


―――バリンッ!!

 俺が何かに閉じ込められていると直ぐに察したマッドは見えない壁のような物に手を触れると、【永遠牢獄】を一瞬にして破壊したマッド。確かルナさんが作ったロープも破壊していたような気がするけど……マッドって破壊の達人なの?


「どうしたの?」


首を傾げながら問いかけてくるマッドに俺は額に汗をにじませながら答えた。


「いや……何でもない」

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