敵だけど敵ではない
えっと……どうもココアでございます。
こうして前書きを書くのは久しぶりのような気がしますね。
お陰様で今作、クライマックスとなってきました。クライマックスでありながらノワールが強すぎたりするので胸がドキドキするような展開は少ないかもしれないですね~。
ではお楽しみください。
112 敵だけど敵ではない
―――女神様がとどまっている草原に転移すると予想通りルインと破壊の魔女さんが居た。
現役女神と元女神の両方が居ると言う状況で何やらもめているようで、皆が皆血相変えながら丸くなって話し込んでいるようだった。
「フハハハハ!!我をのけ者にして貴様らは何を話しているのだ?我にもその話し合いに参加を―――」
一足早く皆が集まっている方に駆け寄ったノワールだったけど一体何を見たのか、珍しく動揺したように言葉を切った。俺とモンとコアトルちゃんは互いに目を合わせると急いで向かい、皆で囲んでいる者を見た。
するとそこにはルナさんが特別に作りだした光のロープに不貞腐れながら縛られているマッドの姿があった。ハムスターのように頬を含まらせ、覗き込むようにマッドの姿を見た俺と目が合うといきなり笑顔になって自分を拘束していたロープを破壊して迫ってきた。
「やあハルト!!久しぶりだね。それからハタストムから過去を聞いたかい?」
「お、おお。一応な……」
いきなり迫ってきたことよりも他の皆の視線の方が刺さるので、少し後ずさりながら返事をした。まず最初に悔しげな視線を送ってきたのはルナさんで、自分が作り出したロープを破壊されたことを悔やんでいるらしい。悪魔さえも破壊できなかったロープをマッドが破壊したことには俺も驚いたけど、視線を送ってくるのはルナさんだけでない。
「……とりあえずマッド。何でここにいるんだ?」
「そんなの決まってるじゃないか。僕がここに来たのは君達に強力するためだよ」
「【裁きの光】!!!」
――マッドが周りを見渡しながら笑顔で言った瞬間、ルナさんが悪魔を一撃で葬ったスキルをマッドに放った。あの時は天から落ちてきたかのように放たれていたけど今度はただ真っすぐ放たれた。緑色に染まっていた草原は更地ではなくマグマのような赤い物体が散らばっていた。
悪魔さえも一撃で葬ったスキルをまともに食らったのであればさすがのマッドも生きてはいないだろう。
「もう……危ないな~。僕じゃなかったら死んでたよ?女神なら話くらいは最後まで聞こうよ」
「そんな……っ!?私の攻撃を受けて無事の魔族がいるわけ……」
「ん~?ここにいるけど?」
ルナさんが顔を引きつらせながら体を震わせるが、マッドはそんなルナさんを挑発するようなことを口にする。そして……俺以外の全員がマッドに対して警戒態勢をとる。するとマッドは目を瞑りながら拍手をし、拍手を止めて今度は手を広げた。
「お見事だよ。僕は今、君達を攻撃しようかと思った。……もちろんやらないけどね。でもそんな小さな殺気も感じられるなら可能性はあるね。
さて、さっきの話の続きだけど本当に僕は君達に協力するために来たんだ。女神なら【神眼】で嘘じゃないか分かったはずだけど……魔族であることが警戒心を強めたのかな?」
俺たちを試すような行動をとったマッド。残念ながら俺はそんな小さな殺気を感じることが出来なかったけど、マッドは「君は良いんだ」と言い話を進めた。皆どこか疑いながら話を聞いているけど、【神眼】の存在も知っているマッドが邪な考えを持っているとは思えない。
「まず最初に言っておくけど……僕は君達の味方ってわけじゃない。でも、敵というわけでもない。
――そして、この戦争の本当の目的は“世界を無に還すこと”なんだ。僕は悪魔たちの情報を少しでも得るために魔族となったから間違いない。この戦争の目的は“世界を無に還す”こと」
「世界を無に還すだと?それはどういうことだ?」
ノワールがマッドの言った単語に反応し問いかける。するとマッドはその問いかけを待っていたかのような反応を見せ、さらに説明を続ける。さっきまで警戒態勢だった皆もいつしか真剣な眼差しでマッドの話を聞いていて、マッドもそれに便乗するように真剣な表情となる。
「“無に還す”というのは、今ある全てをやり直すということだよ。空気も木も土も生き物も…………世界そのものをやり直そうとしているんだ。そのために“アスモデウス”は天界を契約を結んだ。今やここに居る女神と元女神以外はアスモデウスのいいなりってわけだね。
全てを無に還すんだから、当然魔界も天界も最初からやり直すんだろうね」
「ちょっと待て……。話を聞いていればこの戦争は“アスモデウス”という悪魔の長によって始められたと言うことか?」
「そういうことだよ。アスモデウスは元々狂ってたからね。……つまりこの戦争を止めるためには早い話アスモデウスを止めれればいいんだ。正直あれがどのくらい強いのかは分からない。でも、僕はアスモデウスに一度挑んだけど片手で殺されかけた」
「「「!!?」」」
――最後のマッドの一言で一瞬空気が凍り付いてしまった。その後にマッドは「これが証拠さ」と今まで隠していた首元を見せてきた。その首元には思い切り握りつぶされたような手の痣がくっきりと残っており、マッドの顔色がどんどん悪くなっていく。
「……僕の攻撃は全くきかないだけでなく、むしろ僕の攻撃が全て吸収されるような感じだった。そしてゆっくりと僕の首に手をのばしてそのまま握りつぶしたんだ。この痣が消えない理由は分からないけど、消えない傷を残す力を持っているのかもしれない」
「……」
マッドが語るアスモデウスの恐ろしさに誰も何も言えなかった。つい先日のノワールはやる気に満ち溢れていたのだけど、今は顎に手を当てながらブツブツと何かを呟いていた。モンとコアトルちゃんは額に汗を滲ませていて、ルナさんと元女神様はかなり深刻な顔をしている。俺はそこまで深刻とは思っていないけど周りの雰囲気に合わせるために、偽物の顔を作った。
「君達なら可能性があると僕は信じてるけど舐めてかからない方がいい。君達が想像している以上にアスモデウスは―――彼女は慈悲がなく、恐ろしい存在だ」
「彼女?アスモデウスは女なのか?」
意外すぎる発言に俺は今まで以上の反応を見せる。……別に俺が女好きだからというわけではない。長というのだからてっきり男だとばかり思っていたのだ。俺が問いかけるとマッドは静かに頷き、さらに言葉を続ける。
「そうだよ。アスモデウスは女なんだ。……誰一人として近づけさせない氷の女のような存在で、子供でも容赦しない最悪な悪魔だ」
……まあ、そりゃあ悪魔だからいいんじゃね?
マッドの言った言葉に思わず心の中でツッコミを入れてしまった俺。マッドの話を聞いた俺たちは互いに目を合わせ、決意を現すように全員が頷く。
――全ての始まりは悪魔であり全ての原因はアスモデウスであることが分かった俺たちがやることは、アスモデウスを止めることということとなった。マッドを片手で倒すほどの強さを誇るアスモデウスに勝てるかどうかは分からないけど、今はやるしかない。勝つかどうかではなく、やる者が俺たちしかいないのだ。
―――こうして魔界、下界、天界の運命を決める戦争が多くの者に知られることなく静かに始まった。終焉を迎えるのは世界の方か、それともアスモデウスの方なのか。
結果はまだ分からない…………でも、その結末を迎えようとしている。
「……来たか」
「ああ。半端じゃない魔力反応だ」
隣にいるノワールに問いかけられ、俺は直ぐに返事を返す。まだ遠くではあるが信じられない数の軍勢は真っすぐこちらに向かっている。その中でも一際目立つ反応が二つ。まばらに強い反応が複数ある。
軍勢が来るまでに他の場所を攻撃しない理由は力を温存するためだろう。ノワールというイレギュラーな存在がこちらに居る以上、余計な体力や魔力を消費するわけにはいかないのだ。
だからノワールと俺は気配を隠すようなことはしない。これは相手を誘っているのだ。
「来たぞノワール!!」
「そうだな。では……始めるとしようではないか!!どちらが終焉を迎えるのかを!!」
魔族や天界の天使?の雑魚が次々とやってくる。先日20万の魔族の軍勢で嘆いた自分が恥ずかしくなってしまう。
そして、敵がやってくるのと同時にノワールが指を鳴らして【天滅】を放つ。
―――開戦の狼煙が挙げられたのだった。
読んでいただいてありがとうございます。
最近更新ペースを上げて投稿しているのですが、誤字脱字とか多くないですかね?更新ペースを上げているのでもしかしたらその辺の注意が散漫化と思いますが目を瞑ってください。
ご報告をいただきましたら直ぐに直しに行きます。
では次回をお楽しみください。