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狂乱のアンデッド

110     狂乱のアンデッド



「どうする……?あなたは私を殺す?でも、そんなことしたらここまで広がった刻印に秘められた呪いが全てあなたに降りかかる」


「そんなことは分かっている。だが、貴様を殺さないとその呪いが全世界に降りかかってしまうわけだろ?それだけは絶対に避けたい」


刻印を持つ少女を殺さないといけないということを頭では理解出来ているノワールだが、少女を殺すという行動に抵抗があるようだった。魔王を名乗っていた少女だったが目を見れば自ら願って魔王になったわけではないと悟ったらしく、ノワールは少女が魔王であることを目を瞑っていた。


「貴様は死にたいのか?」


「死にたいわけじゃない。でも、残る道が死ぬことしかないならそれを受け入れる覚悟は出来てる。元々私は魔王……他の魔王と比べて力は無いけど国を一つ崩壊させる力くらいは持ってる」


「そうか……なら、仕方あるまい」


少女の覚悟した気持ちが乗った言葉を聞いたノワールはゆっくりと少女に右手を翳し、指を鳴らす。パチンッと響いた指の音はどこか空っぽの音で、ノワールの心のどこかにはまだ迷いが残っていた。そして、そのまま心に迷いを抱いたまま【天滅】が放たれ、少女を消し飛ばした。


「何故だ……何故なんだ」


しかし、ノワールは顔を俯かせたまま嘆いていた。だが……それもそのはず。少女はノワールが放った【天滅】が当たる前に“ありがとう”と笑顔を向けながら囁いたのだ。生きている時も刻印で言い思いをしなかった少女が最後の最後に見せた精一杯の作り笑顔……。

 ノワールは最後の笑顔と言葉が全て嘘だと分かったから猶更心に響いていたのだ。


「ぐっ!!?」


―――刹那、ノワールが胸と頭を押さえながら痛みを訴え始める。少女を殺したことで呪いがノワールにかかってしまったのだ。呪いの種類は分からないが、最強のアンデッドが苦しみほどの呪いを少女の体には宿っていたと言うことになる。


「が……っ!!?こ、これは……。うがぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ついに理性を保てなくなったノワールは断末魔の叫びのような声を上げながら至る場所に【天滅】を放つ。痛む頭と胸を押さえながらも狂ったかのように【天滅】を放ち続けるノワール。ここはルインが創り出した空間のため、止める者も居なければ破壊されない限り永遠に留まることとなる。今のノワールは完全に理性を失っていて、【テレパシー】を使えるような状況ではない。


「違う……っ!!我は……我は……俺は!!!こんなことを望んでいたわけでは……っ!!」


時々何かを呟き、それを終えると再び狂ったかのように暴れ出すノワール。ルインが創り出した空間はまさに崩壊寸前で元の世界に帰ることができるもの時間の問題である。最強のアンデッドが狂った状態で元の世界に行ってしまったらもしかしなくとも世界は崩壊の道へと進んでしまう。



仮にこれまでのシナリオを全て悪魔の仕業だとしよう。刻印を持つ少女をノワールに殺させ、強制的に呪いを受けるようにする。悪魔たちがどんな呪いなのかを知っているのであればノワールが狂い、ルインの空間だけでなく元の世界すらも崩壊しようとすることも全てシナリオ通りということになる。

 魔王の長”アスモデウス”。仮に全てがその者の策略だとしたら、全てはその者の手の平で踊らされていただけということになる。


ハルトたちはこのまま手の平で踊らされるのか、それとも逆に相手を手に平で踊らすのかは分からない。世界が崩壊するのか、それとも救われるのかも分からない。だが断言できるのは、ハルトが止めるべき者が増えたということだ。果たしてハルトは理性を失い、狂った最強のアンデッドを止めることが出来るのか―――





※※※





「……暇だな」


ルインが創り出した空間でしばらく留まった俺だけどすっかり魔力は回復した。しかし、この空間から出る方法なんてものは知らない俺にとっては退屈すぎる時間だった。


「この空間は平和だねえ……」


空を見上げながらそう呟いた。命の危険がありすぎる元の世界に比べたらこの空間は平和すぎる。それはきっと俺以外の生物がこの空間に居ないからであって、もし仮にここに魔族が居たら平和からは一瞬にして離れてしまう。


《 個有名ルインからメッセージが届きました。メッセージ内容をお伝え致します。

   “ハルトか?使うことが出来るということは勝ったんだな。お前なら勝つと分かっていたからこれ以上は何も言わない。今は一言言いたかっただけだ。戦いが終わったのなら元の世界に帰っていいぞ。【ゲート】を使えば帰れるはずだ。” 》


―――それを先に言えよ。

 珍しくルインに突っ込んだ俺。そしてルインの言った通り戦いが終わった俺は【ゲート】を発動させて元の世界に帰ることにした。もう少し平和を味わいたい気持ちはあったけど、さすがにモンとコアトルちゃんだけだったらきついだろう。


「何と言うか日曜日のお父さんってこんな気持ちなのかな……」


結婚どころか童貞すら捨てられなかった俺は休みのお父さんの気分になりながら【ゲート】で元の世界に帰る。



「ん?あ、ノワールか。さすがにお前早いな」


【ゲート】を発動させて移動した先は俺がルインが創り出した空間に行く前に居た空の上だった。そこには既にノワールが居て、こちらに背中を向けている。確か結構な数の魔族が飛んでいたはずだが、それはモンとコアトルちゃんが倒したのだろう。


「ノワールどうした?さすがに魔王二人はきつかったのか?」


俺の声が聞こえなかったのかノワールはずっと背中をこちらに向けたままだった。今までを振り返ってもノワールに無視された記憶がない俺にとっては少し寂しく、今度は方をポンっと戦いながら話かけた。するとゆっくりこちらを向いたノワール。しかし、相変わらず言葉を発してくれなかった。


「……」


「ノワール?目、どうしたん―――」


無言のまま俺を見下すノワールの目がいつもと違うことを心配したら、右手を上げたノワールが俺に手刀を放った。ノワールの変わり果てた目を見て嫌な予感をしていた俺は自分を中心として全方位に【魔結界】を張っていた。


「……?」


俺に攻撃が届かなかったことを疑問に思っているようで、ノワールは首を傾げたまま連続で手刀を食らわせる。だがいくらやっても破壊できるわけがない。今俺がやるべきことは何故ノワールが俺に攻撃を仕掛けてくるのかだ。遊びとは思えないし、何よりノワールの左目がいつもよりおかしい。

 瞳に変な模様な物がついていて、何かに操られているようだった。


「おいノワール!!一体なにがあったんだ!!」


さっきよりも大きな声を上げてノワールを正気に戻そうとするけど、全く正気に戻ることなくただ手刀を繰り出し続けるノワール。


「――俺はこんなの望んでいない……」


「ノワール?」


急に手刀を止めたノワールは狂ったかのように話出す。


「俺は……俺は……俺は!!!」


「やべっ!!?」


こちらに手を翳すノワール。その行動を見て【天滅】を放つと予想した俺はスキル【縮地】を発動させてノワールの死角に移動する。……結局何で俺に攻撃を仕掛けてくるのかは分からないが、さっきの【天滅】も手刀も本気だったことは分かった。つまり、ノワールは本当の意味で俺を殺そうとしているわけだ。


「あーあ。何でこうなるのかねえ」


ノワールの背中に触れ【魔力破】を放つ。ノワールは俺の【魔力破】によって数メートル移動するが、その後にゆっくりとこちらを向き再び手を翳す。


「またか?」


再び【天滅】を放とうとしたノワールだったけど、今の距離なら回避することは可能だと上に避ける。


「!!?。【縮地】!!」


だが……上に避けた先にも【天滅】が放たれていた。咄嗟に【縮地】を発動させて何とか回避したけど、いくらノワールでも【天滅】をこんなにも連発したら魔力が尽きるはず。


 俺は無意識に体を震わせた。これは俺が知っているノワールではないと。マントを外し、情という情が全てないノワールはまさに化け物そのものだった。



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