女神の実力
106 女神の実力
「おらっ!!どんどん行くぜぇぇぇぇ!!」
――キンッキンッと固い金属同士がぶつかりある音だけが響き、互いの圧によって誰も近づけずにいた。片方は人間、もう片方は悪魔という状況で誰がどう見ても最初は人間である俺が負けると思っているだろう。だが、こうやってただ剣で戦っているだけでは魔力を回復するだけなので長期的に見ると俺が勝つ確率が上がってくるのだ。
そしてスキル【肉体保護解除】の効果が大分分かるようになった。どうやらこの【肉体保護解除】というスキルが消費するのは魔力ではなく、ただ体の保護を解除するスキルだったんのだ。例えば100メートルを全力で走っても一応まだ歩くことが出来るが、それは脳は本法的に肉体を保護しているからだ。しかし、この【肉体保護解除】はその名の通りその保護を外すことで、驚異的な身体能力を手に入れるスキルだったのだ。
魔力こそ消費はしないが、使えば使うほど軋むような痛みに襲われる。魔力を消費して体に異常をきたすのではなく、直接体にその反動をもたらすスキルというわけだ。
「……くそ!!」
「おっと。危ない危ない」
―――そして、今はその【肉体保護解除】を度々発動させて力づくで悪魔の攻撃を弾いているのだ。今の互いの力が拮抗して剣が震えていたので、痛みを堪えて弾いたのだが衝撃を流されてしまった。純粋な体術は俺より遥かに上らしく、何度か攻撃を流されてしまったことがある。
幸い、痛んだ体は特性の【自己再生】で治すことが出来る。……だがそれを繰り返しているだけでは何も変わらない。
「ったく、もうちょっと頑張ってくれよ~。しばらく剣でやろうって言ったんだから。もう少し楽しめるかと思ったけど、剣は苦手か?」
「実を言うと最近使い始めたばかりだ。俺はずっと拳とスキルで戦ってきたからな」
剣を左手に持ち替え、右手で強く拳を現して悪魔の問いかけに答えた。すると悪魔は大きな声で笑い出し、
持っていた剣を【収納魔法】でどこかにしまった。
「スキルか……あの忌々しいアンデッドが作り出した概念とやらが生み出した物。そもそもスキルが何なのかが分からないが、魔術の簡易版みたいなものだろう。その概念が作り出されてから俺たち悪魔もスキルという物を習得したからな」
「もう一つ言うと俺は今魔力が半分くらいだ。だから強さも半分くらいって見積もっててくれ」
俺がそう言うと笑いを止めた悪魔が俺と同じように右手を強く握ってそのままゆっくりと駆け寄ってきた。
「確か……一番最初にお前、俺に強烈なのを食らわせたよな?」
「何のことだ?」
右手に力を込めているのがよく分かる。これはスキル【身体強化】を発動させているらしく、俺も殴られる前に【硬化】を発動させて防御を飛躍させておく。そして―――悪魔の渾身の一撃が、俺のお腹に容赦なく放たれた。
「がっ―――」
電光石火のように速く、鋭い一撃に声すら十分に出すことが出来なかった。次の瞬間、一定方向に力伝わった一撃によってすごいスピードで吹っ飛んでいた。足で踏ん張ろうとしてもギリギリ地面に足が届くことは無く、気合で止まるほどやわな威力でないことは俺でも分かる。
―――そして俺はまだ威力が体内に残る悪魔の一撃を、手で押さえて止めることにした。パンチを食らわされた場所に手を当て、何とか威力を抑え込もうとする。
すると案外早く威力を抑え込むことに成功し、ようやく止まることができた。
「へえ……よく止まることが出来たな。じゃあ、続きをやろうぜ」
初期位置から大分ずれてしまったが再び戦いが始まろうとしていた。今度は剣ではなく拳とスキルで勝負するという結果となり、今度は本当に本当の殺し合いが始まった。
※※※
「【魔弾】!!」
数発の【魔弾】が俺の手のひらから放たれ、真っすぐ悪魔に向かっていく。しかし悪魔は自らの翼を使って空を飛び、俺の【魔弾】を回避した。――俺はそんな悪魔の行動を読み、スキル【魔力誘導】を使って【魔弾】の方向を追跡させるように変えた。
「なに!?まさか、コントロールが可能だと!!?」
スキル【魔力誘導】を知らなかった魔族は俺の【魔弾】が最初からコントロールが可能だと勘違いし、そのまま【魔弾】の餌食となった。空中で爆発が起こり、その爆風が俺の無駄に長い黒髪をなびかせる。
「っくそ……。余計なダメージを喰らった」
しかし、あの爆発の中心にいたとは思えないほど悪魔は無傷だった。強いて言うなら爆発よって巻き上げられた土のお陰で体が汚れていることくらいだ。
「タフだな。一応【魔弾】は俺の魔力の強さと比例しているんだが」
「俺があんな貧弱なスキルで死ぬわけがないだろう?でも、コントロールが出来るとは思わなかった」
空中にいる悪魔は見下すような目付きで俺を見つめ、そして再び地上に降りた。今度はこっちから行くと言わんばかりに構え、俺は攻撃に備えるため同じく構える。すると悪魔は強く右の手を握り、その後にパッと手を開くと数センチの紫色した球体が出来ていた。
「………これで生きていたらスゴいよ」
適当に飛ばすとその球体は風に乗るようにふわふわと浮かび、ゆっくりと俺に近づいてくる。嫌な予感しかしない俺はその球体目掛けて【魔弾】を放つ。
―――ズボッ!!
真っ直ぐ球体に向かって放たれた俺の【魔弾】はまるで喰われたかかのように、飲み込まれていった。
「飲み込まれた………?」
一体何が起こったのかわからない俺はふわふわと浮かぶ未知の球体に恐怖を抱いていた。さらに、俺の放った【魔弾】を飲み込んだ黒の球体はさっきよりも確実に大きくなっている。
「まさか、吸収してる!?」
飲み込んでいるだけではなく、それを利用して大きくなった黒の球体。今のところ吸収するということしか分からないけど、それ以外に何をするのか―――
「………ん?がっ!?こ、これは………っ!!」
その球体が俺の真上に移動した瞬間、超重力が俺を襲った。地面に這いつくばり、重力の影響で地面には大きな亀裂が入る。何とかして動かそうにも無理に力を入れるとギシギシと不気味な音が鳴る。
「がっ!?があぁぁぁ!!」
何とか耐えようと思った瞬間、重力がさらに数倍強烈になった。手も足も動かせることができず、ただ超重力に従って地面に這いつくばっているしかなかった。
「それは俺たち悪魔が使える黒の力だ。黒は全てを喰らい尽くす………。そう。それはブラックホールのようにな!!」
「ブラックホールだと………」
光すら飲み込んでしまうと言われている宇宙現象。天文学的なことは詳しくないのでそれくらいしか知らない。ブラックホールをイメージしているというなら、この超重力も納得がいく。
―――だが、ここから抜け出せる策はいっこうに考えつかなかった。そろそろ俺の体も限界を迎えたその時
「“守護なる光よ”」
清らかな温かい光が俺を包み、超重力から解放される。
「大丈夫ですか?いくら【女神の祝福】を授かっても今は人間の体です。無理だけはしないでください」
ついさっきまで標的だったことを忘れているようなことを言ってくる女神様が目の前にいた。どうやらさっきの光は女神様がやってくれたことらしい。
「め、女神だと!?天界の者がどうしてここに!?」
女神の姿を見た悪魔は急に焦りだし、直ぐに翼を広げて逃げようとしてしまった。
「逃がしません」
冷たい声でそう呟いた女神様は飛んで逃げていく悪魔に手を翳す。すると次の瞬間、光で作られたロープのような物に悪魔が捕らえられそのまま重力に従って地面に直撃した。
女神様はそんなことで終わらせるような人ではない。落ちる前から移動を開始していた女神様は、悪魔を見つけると両手を広げて力を溜めるような素振りを見せる。
「この世界に終焉をもたらす悪魔たちよ………女神の力より滅びなさい!!【裁きの光】!!」
「く、くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
両手を広げて力を溜め、放たれた渾身の一撃。まるで天から放たれたようになり、気持ちのいい草原に直径数十メートルにも及ぶ底が見えない巨大な穴が空いてしまった。