かつて友だった者
何と、久しぶりにアクセス数を確認したら30000pv達成していました!!
これからも頑張っていきます!!
では、皆さん楽しんで読んでください!!
102 かつて友だった者
「あれ~?ハルトさんどうしたんですか~?」
スキル【ゲート】で逃げた先に映ったのは首を傾げてこちらを向く元女神様の姿で、さっきまで高鳴っていた心臓が冷静さを取り戻したように活動を始めた。
「ついさっき天界からやって来た女神から奇襲を受けた。……そして、何故かノワールが敵になった」
「……それはどういうことですか~?それも私には分かりませんね~」
「俺も分からない。でも、ノワールが意味もなく敵になるとは思えない……。ノワールを襲っていた悪魔のせいかと思ったけど、明らかにあの女神が原因だと思う」
最初に驚いたのはノワールがマントを脱いでいたことだけど、ノワールは俺が「手を貸してくれ」と言っても手を貸してはくれなかった。しかし、どこか寂しそうで辛そうな目をしていたのをよく覚えている。だから本当に俺を殺したいとは思っていないだろう。
「とりあえずその女神を確認しないとだめですね~。知り合いの女神なら話し合いが出来ると思うますが~……」
「じゃあとりあえず俺はノワールを。女神様は女神を相手にするってことでいいのか」
俺がそう言うと女神様が的確な相槌を打ち、互いに役割を分担したところでそれは来た。
「「!!?」」
――まるで台風のような力の反応が二つ。俺は震えながらも覚悟を決め、マントを外した最強のアンデッドと戦うことを決意した。マントを着ていた頃のノワールと戦ったことは何度かあるが、正直一回も勝ったことがない。ノワールがマントを着ていたら俺の方がステータスは上のはずなのに、ノワールの方が遥かに上なのだ。
やはりステータスは所詮数字だけで、その数字を使いこなせるようにならないと意味がないのだろう。
「……来たぞ。予定通り女神の方は任せた」
「はい~。ムカつく上司だった容赦しませんので~」
台風のような力の塊が段々と近づいているように、俺の死も段々と近づいているようだった。俺は女神の方を同じく女神様に任せることにして、思い切り跳躍する。そしてスキル【部分擬態】で背中の一部を翼に変え、空を自由に飛べるようにした。
「……うお!!?」
少しでも距離を取ろうと遥か上空に飛び立った瞬間、真下から【天滅】が放たれていた。間一髪回避することが出来たが、次も回避できるとは限らない。
「さすがはハルトだ。今の【天滅】をよく回避した」
「ノワールか……。再会して早々【天滅】を放つ何て友達にすることじゃねえぞ?」
「我と貴様はもう友などではない。今の我は奴の―――いや、ルナの騎士だ。ルナの剣であり盾である我は、ルナの願いが我の願いとなる」
「――ルナ?お前……それって、お前の……」
何度も聞いた名前だった。別に直接会ったことがあるわけではないのだが、その名前はノワールの口から何度も聞いた名前だった。ルナというのはノワールが一番想っていた女性で、アンデッドになることを決意した引き金となった女性だ。
「まさかあの女神が………?」
「その通りだ。貴様は会ったことがないから分からないと思うが、あれこそがルナなのだ。口調も性格も変わったが、我の本能がそう囁いているのだ。そして―――ルナに血は似合わない」
最後にそう言い切ったノワールはまたも目つきを変えてこちらに突っ込んできた。黒く輝いた剣を持ち、俺に向かって容赦なく振りかざす。俺はそんな一撃を持っている剣で受ける。
「……?」
剣を受けたタイミングで少し違和感を感じた。剣で受けてそのまま弾こうかと思ったのだが、どういうわけかノワールの剣はこれ以上動かなかった。どんなに力を込めても剣は動かなく、このまま力を込め続けたら剣そのものが折れてしまうような恐怖が俺を襲う。
そしてそんな考えが無意識に俺が剣に込める力を弱めた瞬間にノワールが力を強め、逆に俺の剣が弾かれてしまった。
「なにっ!!?」
「貴様は我には勝てない……。なぜなら貴様は我より弱いからだ!!」
剣を弾かれ、がら空きとなっている俺の胸を容赦なく貫いてくるノワール。でも、俺は剣を持っていない左手でスキル【硬化】を発動させ、それでノワールの突きを防ぐ。
―――全力で【硬化】を発動させて防御力を上げても、ノワールの強力な突きはそれを貫いて俺の腕に剣が突き刺さった。痛みを堪え、俺は右手で持っていた剣を上に投げて空けた右手で同じように【硬化】を発動させ、そのまま全力でノワールの腹に【魔力撃】を放った。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
「がっ!!?」
【身体増強】も【身体強化】の両方を発動させて放った渾身の一撃……さらに【魔力撃】を打ち込んだ瞬間に【魔力破】を放ち、その威力を体内に伝わるようにした。
「強い方が勝つんじゃねえ!!勝った方が強いんだ!!」
ノワールを思い切り吹っ飛ばし、やり切った感を出していた俺は無意識のうちにそう叫んでいたけどノワールが吹っ飛んだのはほんの4メートルほどだった。さっきの攻撃は俺が使えるスキル全てを使った物理攻撃と言っても過言ではないのだが、ノワールはそんな渾身の一撃をわずか4メートル移動しただけで威力を失わせた。
「……なるほど。確かに一理ある」
俺が攻撃を打ち込んだ腹を撫でるように触れ、特性【自己再生】でその傷を癒す。それは俺も同じでノワールにつけられた傷を特性【自己再生】で癒していった。
「すまなかったハルト。我としたことが、まだ心のどこかで迷いが生じていたらしい」
「何だと?」
「あの一瞬……。貴様の心臓を貫いていいものか、戸惑ってしまった。時間にして百分の一秒ほどだが、その迷いがなかったら貴様の心臓は我のこの剣が貫いていた」
「じゃあ……次は……」
「ああ。そんなことはしない。我はもうお前の友ではなく、ルナの騎士だ」
きっと自分の中ではちゃんと割り切られていると思っているのだろうが、俺にはむしろ心にそう言い聞かせているようにしか見えなかった。自分自身の気持ちを殺してまでルナという女神に協力したノワール。
そんなにもルナを愛し、想っていたことに俺は素直に尊敬する。俺がノワールの立場だったとしても、同じことが出来るとは言えない。
でも…………俺も俺で死にたいわけではない。
「お前が自分自身の気持ちを殺してまで俺を殺す理由は何となく分かる。ルナの願いを叶えるためなら自分の気持ちすら殺すのは素直に尊敬できる」
「何がいいたいのだ?」
「お前が俺のことを友と思っていなかったとしても、俺はお前のことを友と思っている。なぜなら、本当に俺を殺したいとは思っていないからだ」
「今さら何を言っている?最後まで我に情を抱くつもりか?」
「そう……かもな。最後の最後まで情を抱かせてもらう」
最後にそう言った俺は先ほど天に投げた剣を上手いことキャッチし、軽く腹を抑えるノワールに突っ込んでいった。
―――そこから戦いは長い間続くこととなった。互いに傷をつけ合っては特性【自己再生】で傷を癒し、魔力が尽きればただ殴り合うだけ。もはや二人を殺す術は天属性の攻撃しかなかった。
でも……なぜかただ殴り合っているだけなのに、自然と親近感がもっと湧いてきた。互いに互いの願いを叶えるために殴り続けるという単純な作業。それなのになぜか心にとても響いていた。
―――でも、結末は前触れなくやってくる。
「ふんっ!!」
ノワールの強力な右ストレートが俺の鳩尾に直撃し、俺は数メートル高く吹っ飛ばされた。
「……さらばだハルトよ」
殴られた痛みを早く鎮めるために力を込めるけど【自己再生】の回復速度は一定で、気が付けばノワールが俺の真上で手を翳していた。その手から放たれるスキルはもはや分かっていた。
「終わりとでも言いたそうだな?」
「先ほど『さらば』と言っただろ?何回も言わせるな」
指を鳴らし、光のエネルギーのようなものがノワールが俺に翳している右手に溜まっていた。そして……ノワールの【天滅】は予告されることもなく容赦なく俺に放たれていった。
―――“さらばだ我の友だった者よ”
最後にノワールがそう言ったような気がした。
しかし、俺は心のなかでとても喜んでいた。
―――全て作戦通りであると。
読んでいただいてありがとうございます。
現在毎日更新で、着々と完結へと近づいているこの作品ですがあと何話で完結するかは分かりません。
全く予想できなくなっていき、作者も私も毎日どういう展開にするか迷っています。
では次回の更新をお楽しみに。