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真夏のベーゴマ

作者: 阜太郎

タイトル『真夏のベーゴマ』



登場人物


浩一(26)会社員

後輩(23)浩一の後輩

佳菜子(26)会社員

ご主人(85)駄菓子屋のご主人

◯駄菓子屋前


後輩「暑いし、お腹いっぱいだぁ。早く戻っ

 てクーラー浴びたいっすよ」

浩一「ラーメン、特大なんかで食うからだよ。

 おい、駄菓子屋あるぞ。寄ってこうぜ」

後輩「えー、まぁいいっすけど、早く切り上

 げて戻りましょうよ」


◯同・店先

 小学生たちがベイブレードで遊んでいる。

浩一「夏休みか・・・」


後輩「『バイゴマ有り〼』って、バイゴマって

 なんだ?」

浩一「ベーゴマのことだよ。懐かしいなぁ。

 俺、ベーゴマ得意だよ、ちょっと買ってみ

 よう」

後輩「俺も喉乾いた。ラムネ飲もう」


◯同・店内

浩一「こんにちはー。ベーゴマ下さい」

後輩「俺はラムネ一つ」

ご主人「おー、ベーゴマをお買い求めですね。

 取り扱うのが久しぶりだけど、売れなくて

 ね、外で子どもがベイなんちゃらで遊んで

 るから混じってくるといいよ」


◯同・店先

浩一「お兄ちゃんも遊んでいいかな?絶対

 負けないぞー」

小学生A「いいけど、そんな古いおもちゃじ

 ゃ、勝てないと思うけどなー」

  お互い独楽を布を貼った樽に投げる。

後輩「食べすぎて気持ち悪い・・。お、やっ

 てるやってる!パイセンがんばれ!」

  樽からベイブレードが弾け飛ぶ。

小学生A「えー!うそだー!負けちゃったよ」

小学生B「お兄ちゃんつよー。俺、あれ買う」

小学生C「俺も!!」

小学生A「えー、なら俺も買うよー。おじさ

 ん、ベーゴマくださーい」

  店からご主人が現れる。

ご主人「はいはい、いろんなデザインがある

 から好きなの選んでいってね」

  飛ぶようにベーゴマが売れる。

後輩「パイセン、そんな特技があったなんて

 しらなかったですよー」

浩一「まぁね、死んだおばあちゃんから教え

 てもらったんだよ。俺自身、ベーゴマやる

 のは小学生以来だよ」


  ギラつく太陽の中、白い日傘をさした女

  が店に来る。

佳菜子「ベーゴマ一つ下さい」

ご主人「どれがいいですか?選んでねー。遊

 び方がわからなかったら、このお兄ちゃん

 い聞いてね」

佳菜子「じゃ、このKの文字のをください。

 私、佳菜子なんで」

浩一「こんにちは、ベーゴマ遊んだことあり

 ます?よければ、お教えしますよ」

佳菜子「ありがとう。でも、昔やってたんで、

 よければ、お手合わせしませんか?」

浩一「え?いいですよ・・」

後輩「パイセン、手加減しましょうね」

佳菜子「手加減はしなくていいですよ。なら、

負けたらジュースを一杯でどうです

か?」

浩一「え?まぁ、いいですよ」

後輩「じゃ、合図しますよ!」

  二人とも紐を巻き、準備する。

  佳菜子、浩一よりもすばやく紐を巻く。

  二人とも、構える。


浩一「・・・」


後輩「レディ・・、ゴー!!」

  佳菜子の長い髪と、スカートがフワッと

舞う。


浩一「あ・・」



佳菜子「はい」

佳菜子、ベーゴマを浩一に手渡す。


後輩「お、お姉さんの勝ち!」


浩一「・・・」


佳菜子「・・あの、ジュースの件は冗談です

からね?」


浩一「・・あの!もう一回勝負してもらえま

せんか?!」

佳菜子「え?私、そろそろ会社に戻らない

と・・、もし定時にあがれれば、六時半と

かなら」


○灼熱の夕焼けの

中を走る二人。


後輩「ハァハァ、2回も走りすぎて気持ち悪

いですよ。なんであんな決闘みたいなこと

言ったんですか?!今日の先輩おかしいで

すよ!仕事中もずっとベーゴマ握りしめて

さ、報告書も間違えだらけで、部長がカン

カンでしたよ!」

浩一「ハァハァ、ならついて来なくてよかっ

たのに」

後輩「だって気になるからですよー。パチン

コとかBBQとかボードに誘ってもさ、先輩

いっつもつまんなそうなくせにさ、あんな

にマジになって再試合申し込むんだからさ。

先輩、あの子に気があるんじゃないんです

か?ゼェゼェ」

浩一「そんなんじゃねぇよ・・。・・・あの

子の投げ方がおばあちゃんに似てる気がし

てさ・・」

後輩「なんだそれ!?」

浩一「とにかく、あの子ともう一回ベーゴマ

やりたいんだ」

後輩「だから、なんなんすか!もう五分遅れ

だからさっさと行きますよ!」


◯夕焼けで赤く染まった駄菓子屋前

  昼間の小学生がベーゴマに興じる。

  佳菜子、ラムネを飲む。ビー玉の音が鳴

る。


浩一「遅くなって、すみませんでした!」

小学生A「やっと来たよ」

小学生B「野球見逃した甲斐があったよ。俺、

お姉ちゃんに美味い棒1本ね」

小学生C「お兄ちゃんのリベンジにレアカー

ド1枚」


ご主人「こら、子どもが賭博なんかやっちゃ

いかんよ。ベーゴマの真剣勝負は久しぶり

だな・・。ちょっと待ってろ。今、褌を締

め直す」

ご主人は樽に張った布の紐を締め直す。


佳菜子「もう賭けなくても、大丈夫ですか?」

浩一「さっきは、フォームが思い出せなく

て・・。もう大丈夫です」

お互い紐を巻き始める。


ご主人「よし・・、じっけった!」


二つのベーゴマは解き放たれ、激しくぶつ

かり合う。

後輩「・・今度はいい勝負だ・・」

浩一と佳菜子以外はベーゴマに釘付けにな

る。


浩一「めちゃくちゃな申し込みをしちゃった

けど、来てくれたんですね」

佳菜子「ほんとはどうしようと思ったけど、

ベーゴマ久しぶりで・・。よく死んだおじ

いちゃんと遊んでたんですよ・・」

浩一「そうなんだ・・。俺もおばあちゃんに

教わったけど、一回もおばあちゃんに勝て

なくて」

佳菜子「私のおじいちゃんは弱かったな・・。

亡くなるまで、ずっと勝ちたいって遊んで

くれてね。それを思い出しちゃた」


ベーゴマは勢いを失い、静かに回る。


後輩「持久戦に入った・・」

ご主人「この勝負わからなくなってきたな」


浩一「俺もだ。おばあちゃんいなくなっちゃ

って・・、誰もベーゴマなんて知らないか

ら、真剣に勝負したのは久しぶりです」

佳菜子「真剣かぁ。本当は昔使ってたのが強

いんだけどな・・」

浩一「俺もこれじゃなくて、おばあちゃんの

ならこんなもんじゃないよ。今度、またや

りません?」

佳菜子「是非、今度」


バランスを崩しながら、カラカラ音を立て

ながら二つのベーゴマは回る。


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