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6.閑話 マルガの幸せ日記

前回後日と言ったのに翌日とは。


閑話扱いですが一応本編にはちゃんと絡みます。

 忙しいとつい日記を書くのを忘れてしまいますね。

 まぁ、毎日がとても充実しているので全く苦に感じないのですけど。

 …そう、私はとても幸せ日々を送っております。



 そういえばこの日記には書いていなかったので、少し回想しましょうか。


 思えば私は旦那様に引き抜かれるまで、とても暗く冷たい日々を送っておりました。

 「訓練」と称するあの生活は、私の心というものを根こそぎ奪い去ってしまうように感じたものです。脳裏に浮かぶあの赤色はすっかり染み付いてしまいました。

 それでも幸いにも私には「その手の才能」があったらしく、一緒に暮らす他の子供達のように「ある日全身に魔道具を括り付けてどこかへ向かい、それから戻って来ない」ような扱いを受けることはありませんでしたけど。


 どのような経緯があったのか、10歳になった私は「腕前」を評価されてルルー家に買い上げられ、産まれたばかりのティーシャお嬢様の専属として働くことになりました。

 「訓練」の中にメイドとしての教育も含まれておりましたので、仕事に関しては何も問題ありません。


 しかし、私にとってその出会いはあまりにも衝撃的でした。


 まだ赤子のティーシャお嬢様の、なんと麗しいこと! 異国の神話に記された黄金の林檎を奪い合ったという三柱の女神達ですら、きっとお嬢様の足元にも及びません。

 そしてあの妖しくも美し過ぎる「瞳」に、私は身も心も全て奪われてしまったのです。


 私はその日のうちに旦那様と奥様、それからレミーに直訴して、お嬢様親衛隊(カンタレラ)の設立を成し遂げました。

 私一人では限界を感じましたし、自分の手足があれば何かと便利ですからね。

 …そう、お嬢様の人智を超えた愛らしさは、やがて大きな渦となり世界を覆うことでしょう。

 巻き込まれた木っ端がお嬢様を傷付けることのないよう、私達が命を賭してお護りするのです。



 あれから5年余り、成長と共にその魅力も増していく様に忘れていた恐怖すら覚える日々ですが、春になってからお嬢様が少しだけ変わったように感じます。

 何と言いましょうか…なんとなく凛々しくなったような?

 嗚呼、美しく可愛い上に凛々しさまで加わるなんて、お嬢様は人類を滅ぼすつもりなのでしょうか!

 具体的には庭で散歩中何故か自生していたエラスト草の実に頭をぶつけて鞠のように跳ね飛ばされてから…なのですけど、とても高い弾性を誇るあの素材にそのような効果はないと思われるので、関連するかは不明です。


 そういえば最近また新しく高価な魔道具を買ってしまったため、金欠になってしまいました。

 それでも欲しい魔道具はいくらでもあるので、手っ取り早くお金を稼ぐため…そして皆の需要に応えて、先日もお嬢様親衛隊(カンタレラ)招集会議を開催したのです。


 いつも通り、会議の参加率は100%。

 私が隊長として主催するこの催しは、いつも盛況でして……皆黒ローブを身に纏い顔を隠しつつも、フードの奥から漏れる期待と興奮が熱気となって渦巻いているのがよく分かります。

私は壇上に立ち、記録の魔道具(カメラ)で生成された5枚のそれを、皆に見えるように並べ、そして高らかに声を上げます。


「お嬢様生写真メイド服ver.5枚セット…50,000C(クレ)から!」


 ただでさえ並みの貴族ですら手が出ない魔道具で撮影した、とても貴重なお嬢様の生写真……ああ、魔道具は自費購入でした。古巣に潜入して金庫を奪う必要がありましたね。

 その価値を皆知っているため、50,000Cなど端金だと言うように次々と声が上がり、値段が跳ね上がって行きます。

 …50,000Cあれば最近流行りの1C均一ショップで50000個もモノが買えるのですけど。…46296個でしたっけ?


 …あら、120,000Cで声が止みました。

 私の手足たちは訓練として交代であちこちに出掛けて「色々狩っている」ので、そのオマケとしてかなり金回りは良いのですけど…やはり出し渋りますか。

 どうやら皆の理解が足りないようですわね。


「ひとつ情報を与えましょう。あの事件のあとレミーによってメイド服は奪われ、今後一切着せることが禁止されました」


 ざわっ…と、驚きの気配が大きく広がります。

 そう、あの素晴らし過ぎて尊いお嬢様はもう二度と目にすることが出来ないのです。

 私があの御姿を見た時など、物心ついて初めて泣いてしまったくらいなのですから、それがどれだけ有り得ない素晴らしさなのか分かるかと思います。

 「訓練」によってどんな拷問や精神攻撃にも眉すら動かさない私が…なのですよ?


 私の言葉を理解した皆の声には更に熱が込められ、値段は際限なく増え続けます。

 結果、私はその一回でいくら稼げたかと言うと……あら、もうほとんど使ってしまったので忘れましたわ。


 落札者は最終的には仲間と共同購入をしていたようですけど、ちゃんと貯金は尽きたことでしょう。

 しかしこの催しは定期的に行われますし、彼らの欲望に際限はありません。きっと皆これから頑張って「稼ぐ」でしょうから、腕も磨けてついでに「色々と綺麗になる」のです。

 より強力なお嬢様の守護となる上に、お嬢様の世界が浄化されるのですから、物事とは上手く回るように出来ているのですね。


 まぁ最終的に私にお金が入るとしても、必要経費以上は興味ありません。お金など必要な時に必要なだけあれば良いのです。まだ 記録の魔道具(カメラ)の使用回数はもう少し余裕がありますし。

 あと、私には親衛隊にも見せないもっと大切なコレクションもあります。

 例えばこの胸元に隠された飴玉などが最近のものですわね。

 そういえばつい先日からお嬢様はお食事の際、無意識に下の前歯を気にするそぶりを見せております。もうすぐ6歳ですものね。

 …貴重なコレクションが増えそうで楽しみでなりません。



 間もなくお嬢様の降誕祭、そして魔眼検査が行われます。

 検査以降は風習に従いベールを外すことになるのですが、色々と大丈夫でしょうか?

 …実はこっそりとお嬢様のベールは毎日新品が使われております。しかも、それは大魔導師である奥様の魔力が込められた代物です。

 いくら専門家ではないとはいえ、あの奥様の作る封印が毎日壊れるなど…。しかもそれですら「気休め」にすらなっておりません。漏れ放題です。

 いいえ、きっと奥様は敢えて効果だけは弱めの封印を施すことで負荷を受け流し、全体の強度を保っているのでしょう。まともに強力な封印を用いたら…反発で爆発とか起こりそうです。


 こればかりは、今後のお嬢様の成長に期待するしかありません。

 こういうのは「自覚」が何より必要だと奥様は仰いました。

 それも検査によって齎されるであろう精度の低い情報ではなく、自らの意志による理解と制御が…。



 願わくば、お嬢様にこの世全ての幸せを…。

通貨単位Cはクレジットの略じゃないです

「pentacle→penta-cle→clé(clef)」

こんな感じの謎変換


6話目で閑話はちょっと早かった…我慢出来なくてつい出来心で…

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