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前編

まだまだ初心者ですが温かい心で読んで頂けると有難いです。

トリスタン王国フルュー伯爵家これが私ーートリス・フリューの実家である。

父も母も騎士団所属で系譜のほぼ全ての人間が軍人という、ある意味脳筋一家だ。洩れなく私自身も騎士団所属で、獲物は槍。

頭より本能で動くタイプ。

一応は伯爵家のご令嬢という肩書きはあるので、マナーやら淑女としての礼儀はわきまえてはいるが…。

何せ19歳にして騎士団の王妃近衛に付くという大出世をしてしまい、世の男性には遠巻きに見られる始末。

このままでは行きおくれ確実かなと最近考えさせられている。

出会いは周りに嫌というほど、溢れてはいる。

騎士団所属だからね。

ただ、自分より強い嫁はちょっと…というやつだ。

両親は余り気にはしていないようで、跡継ぎが居ないなら養子でもいいよという始末。私も一応は女ですから、両親に孫を抱かせてやりたいとは思ってるけどね。

まぁ、そうは思っても相手が居ないんじゃどうしようもない。

どっかにいい人いないかね。


「トリス貴女今年で何歳になったかしら?」

「19になります」

カウチに腰掛け、豊な金の巻毛のナイスバディの美女はこの国の王妃――イザベラ様だ。

自分より一回りは年上だが、そんな事を感じさせない若さと堂々とした佇まいはまさに女王様だ。

「結婚の予定は?」

「あるように見えますか?」

カウチの後ろに立ちながら結構な軽口を返す。本来なら不敬に当たるのだろうが、この王妃様には私が警護についた頃よりこんな感じなのだ。まだ、国内が安定していなく王妃がお世継ぎを妊娠中に暗殺未遂事件がありそこに警備に当たっていた当時15歳の私が賊8人を捕縛という大手柄を挙げてしまい、その後も色々あったがこの王妃様からの信頼はメキメキ好感度マックスという状態になってしまったのだ。

そして騎士見習いの終了の16歳と同時に近衛へと大出世するのである。

「貴女メイドやご令嬢には大人気なのに、どうしてなのかしらね?」

「それは自分より強い嫁は嫌という男の心理というものではないでしょうか?それに自分で言うのもなんですが、性格も態度も男の様で友達なら親友になれるタイプと騎士団仲間に言われました」

「あら、でも私に貴女へと見合いが来ているのだけど」

「は?」

「以前、貴女に助けて貰ってからどうにか繋がりが欲しいと打診されていたのだけれど。騎士団団長のルーファスがなかなか許可を出し渋ってね」

「ルーファス様がですか?」

騎士団団長ルーファス・エヴァンは侯爵家出身の漆黒の黒髪をきっちりと一本に纏め、切れ長の紫の瞳が印象的な精悍な顔の美形だ。身長も190近くあり騎士団の濃紺の詰襟の騎士服を身に纏う様は世のご令嬢が卒倒するほど美しいとされている人物だ。

勿論団長という肩書きからも実力、知性両方を兼ね備えたパーフェクトな人物である。

私とは数度しか会話した事はないのだが…。

「何だか煮え切らない態度でね。だからトリスと親しいのかと思ったのよ?」

「私と団長は事務的なのを除けば数度しか会話した事がありませんし、手合せも三回程しましたが勝てたのは一度だけですし。ほぼ関わりが無いのですが…」

「じゃあ何なのかしらね?」

イザベラ様と二人、思案顔で困惑する。

「じゃあ取りあえず会うでけ会ってみない?」

「まぁ、会うだけなら。ですが、私と会おうという奇特な人物は誰なんです?」

「王宮専属魔導師の筆頭魔導師アキュラス・ミーガンよ」

「は!?」

とんでもない人物の名前にイザベラ様を凝視する。

王宮専属魔導師の筆頭魔導師アキュラス・ミーガン。この国の魔術を極める者の頂点に立つ人物、国民の誰もがその名前を知らぬ者はいないとされる人物。15年程前にあった隣国との戦争で、僅か12歳で出陣し大規模魔術により国境防衛を成し遂げた英雄である。

おまけに銀の髪に、珍しい金眼の持ち主で身長も180あり騎士団とは正反対の白い詰襟の魔導師の制服姿は『月様』と言われる美人顔の美形様だ。

そんな人が私と見合い!?

「なんの冗談です?」

「本当よ。四年前の私の暗殺未遂の当時王宮・後宮結界を張ってたのがアキュラスだったのよ。賊が後宮に侵入出来たのはアキュラスが内通者じゃないのかって疑いがかけられたの。でも貴女がメイドの内通者を突き止めて、アキュラスの疑いは晴れたわ。そんな経緯があったのだけれど、それからアキュラスは自分の疑いを晴らしてくれた騎士見習いのトリスの事を知り、まさか見習い騎士のしかも女の子だとは思わなかったみたいで一気に運命を感じちゃったらしいわよ」

「あの時、そんな事になってたんですね知りませんでした。ですが、一度も顔を合わせた事もありませんし噂では凄い美形だとか。私は釣り合わないと思うのですが…」

「トリスは磨けば光るのに何もしないから、そう思うのよ!普段だって騎士服に化粧もほぼスッピン、装飾類も付けないじゃない。そのクリームがかった金髪も手入れをして、きっちり化粧をすれば最高の令嬢になれるのに勿体ない!」

ビッシっと扇子を突き付けられて力説するイザベラ様に腰が引ける。

「ですから今回の見合いは少し気合いを入れるわよ!」

「…えっと、頑張ります」




見合いの打診から一週間イザベラ様指導の下、イザベラ様専属の侍女に髪から肌から磨かれまくった。

お蔭で髪はツルツル天使の輪が輝き、肌はプルプルモチモチだ。女として、どんだけサボってたんだと感じずにはいられない。

「さぁ、いよいよ今日よ!昼に王宮庭園でガーデンパーティ形式でやるわよ。他の貴族連中も居るけど、トリスはアキュラスと顔合わせしてお茶しなさい」

「イザベラ様ドレスはこちらで」

「きたわね。トリス、今日はこれを着なさい」

侍女が持ってきたのは白のワンショルダーのマーメイドラインのドレスだった。両脇に薄水色の切り替えしとウエストより下はレースがスカート部分を覆っていて所々にビーズがあしらわれ光によってキラキラ光り恐ろしく豪華だ。

何か凄い細身に見えるんですけど、これ入るの…?

「さぁ、やってしまいなさい」

イザベラ様の号令で侍女がワラワラと私を囲む。

「では先ずは体型補正から」

気付くと既に騎士団の制服を脱がされ、コルセットでギュウギュウに締められ白のガーターストッキングを履かされる。

ドレスを着るとサイズはピッタリで。何だか怖い…。

侍女の皆さんの目付きが狩りに赴くハンターのごときギラギラ感満載である。

髪はサラサラストレートに前髪を少し上げ、耳上で白と水色のドレスに合わせた花のコサージュ髪飾り。ダイヤとブルートパーズで彩られたネックレスに、揃いのイヤリングを付ける。

化粧も睫毛をクリンとカールさせ、アイラインで釣り目を少し垂目ぎみに引き、口紅は可愛らしいアプリコット色。

「まぁまぁ!素晴らしいわ!」

「会心の出来でございます!」

イザベラ様と侍女の皆のやりきった顔が私の出来を物語っている。

自分でも化粧の力は偉大だなと思わずにはいられない。

「それにしても、こんなに素晴らしいドレスを用意していただけるとは…」

「今までの褒章みたいなものだと思って受け取りなさい。トリスには今まで、どれほど救われたか分らないわ。本来ならば男性騎士が任に就くはずの近衛任務も、貴女が女だてらに他の追随をものともせず武を磨いた努力の賜物よ。私は同性の貴女が常に傍にあったからこそ、この王宮で健やかに過ごせたのです。貴女がいなければ、きっと謀略の果てに死ぬ運命だった。だから今度はトリスが幸せを掴めればいいと思うのよ。ドレスは受け取りなさい。私と陛下からの褒章と思いなさい」

潤んだ瞳のイザベラ様の言葉に胸が熱くなる。

暗殺は一度きりではなかった。国王陛下の治世が盤石になるまで、国の膿を出し切るまで続いた。

食事には毒が混ぜられ、昼夜問わず刺客が送られ、誰も信用なんて出来なかった。一握りの侍女と自分だけしか信じられなかった。

そんな殺伐とした毎日も、側室の一人と一部の貴族が黒幕と分りやっと終わったのだ。

私が近衛に就任して二年は常に緊張と警戒で、まともに寝てもいなかった。それは今ここにいる侍女達も一緒だろう。だからこそ、この言葉に誰もが感慨深かった。

イザベラ様も侍女達にも、そして私にも。

「ありがたき幸せです。トリス・フリュー身に余る僥倖でございます」

片膝をつき胸に手を当て礼をとる。

「さぁ、いきますわよ」




王宮内、中庭庭園では静かなどよめきが広がっていた。

招待された貴族も警備にあたる騎士も給仕ですら、そのご令嬢に視線は釘づけだった。

王妃の三歩後ろを楚々とつき、見事なプロポーションと傾国かと思わずにはいられない美貌に誰もがヒソヒソとあれは誰なのだと呟く。

トリスは自分に集まる好奇の視線に居心地の悪さを感じていた。騎士服でない今、自分は周りから一体どう見られているのかと。

何となく、それは悪意や敵意でない視線とは感じるがそれでも不快だった。

「トリス、今日は警備をジュネに頼んであるから大丈夫ですよ。どうやらアキュラスは既にご令嬢方に囲まれてますわね」

扇子で口元を隠しながら小声で話すイザベラ様に視線を追うと端のテーブル一角が一部賑やかになっている。優雅に座り茶を飲んでいるアキュラスと思わしき銀髪の青年の周りには、若いご令嬢が群れをなし懸命に話掛けているが一切相手にせず無視している様だ。

遠目にも分る見事な銀髪に白い魔導団の制服と座っていても分かる長身。顔は見えないが、ここからでもかなりの美形なのだとは周囲の状況を見るだけで判断はつく。

「お嬢、今日は随分別嬪になったな。王妃様は俺が責任もって付くから行ってこい」

すっと横に騎士団の副団長ジュネ・ブライドが現れる。

短髪黒髪の精悍な顔つきの鍛え上げられた体、まさに騎士という言葉を体現したかのような男だ。先日五十になったと言ってはいたが、まだまだ現役の鉄人だ。

私が見習いの時から目を掛けてもらった恩師でもある。騎士自体、女が少ない職場だからか年も幼かったからか槍術も体術もジュネから教わり時には娘の様に接してくれた人物だ。父の同僚でもあったからか、目の掛け方はちょっと贔屓目にみても父より父らしかった。

「あのアキュラスと見合いって聞いた時はビビったが、まぁこれも縁ってヤツだな。俺としては、もう一人紹介したいのがいるんだけどな」

「あら?ジュネがトリスに紹介だなんて気になりますわね」

「はは、これが中々ヘタレでしてね。普段は生真面目で仕事も出来るんですが事、色事となるとどうにも奥手な奴でして。今日はいい機会だから参加させてるんですよ」

ジュネがイザベラ様に耳打ちするのを傍目に見ながら、周りを見渡す。

着飾った紳士淑女、騎士服や魔導団服の青年もちらほら混ざっている。

基本招待客は貴族だろうから、皆そうなのだろう。

「そうなんですの!?あら…悪い事をしてしまいましたわね」

驚き困惑の表情のイザベラ様が私をじっと見つめる。

「こればかりは煮え切らない本人が一番悪いですからね。自業自得というもんですよ」

「そうかもしれないけれど、まさか彼がねぇ」

「なんで今日は公平にチャンスをあげて下さいよ」

「それにしてもトリスはモテモテね、ふふ」

イザベラ様とジュネが楽しそうに内緒話だ。

――――それにしても、あのご令嬢の群れに突っ込んで行きたくはないな…。


「皆さん今日は、私主催のお茶会にようこそ。ゆっくり楽しんで頂戴」

イザベラ様がすっと手を挙げると宮廷楽師達の演奏が静かに始まる。

私もイザベラ様に一礼し傍を離れる。

初夏の季節に彩られた中庭は、それは美しく整えられ庭師達の努力が垣間見える。

広い中庭には招待客だけで50人はいるだろう。それぞれ挨拶をし茶や菓子を楽しんでいる。

――――さて、どうすべきか。

見合いと言われたが、相手があの状況ではどうにも近付き難い。

が、イザベラ様が扇子の先を指して合図を送ってくるのだ行かぬ訳にもいかない。

「失礼」

思いっ切って目の前に立ち淑女の礼をとる。

そこでやっとアキュラスが顔をあげ、こちらを見た。

「初めましてトリス・フリューと申します」

そう言った瞬間アキュラスの目が見開かれる。

ガタッ。

「…失礼しました!まさか貴女から来ていただけるとは」

アキュラスも立ち上がり慌てふためきながら礼をとる。

今までのツンドラ極寒の表情はなんだったんだと言わんばかりの表情で心なしか頬も耳も赤い。

そんな彼の雰囲気に周囲のご令嬢は驚きながら、こちらを凝視する。

「…貴女、近衛のトリス・フリューですの?」

「はい。王妃付近衛騎士トリス・フリューです」

「なぜ貴女がここに…」

「それは貴女にはどうでも良い事。トリス殿には私が王妃様に頼んで今日来て頂いたのだ、邪魔をしないで頂きたい」

アキュラスのツンドラ視線プラス言葉にご令嬢たちは、そそくさと散っていく。

「本当に失礼しました。本来ならば私から向かうのが礼儀、お許し下さい」

「大丈夫ですよ。それにしても驚きました。魔導団長の貴方からお申し出があるとは…」

お互い椅子に座り、給仕に茶を淹れてもらう。

「身分不相応だとは分っているのですが、諦めきれず王妃様には何度もお願いを。しつこい男だと思われている自覚もああるのです」

「身分不相応など、私は伯爵家ですがアキュラス殿も伯爵家ではないですか」

「私は平民からの所詮成上がりです。魔術がなければ貴女にお会いできる機会すらなかった人間です」

「そんなに卑下されなくても…」

確かにミーガン家は先の戦争でのアキュラス殿の活躍により伯爵位を頂いたが、一家全員が一様に魔力が膨大でそれぞれが魔術関係の要職についていたはずだ。

「いえ!代々続くフリュー家のご令嬢の貴女とこうして一緒に居られるだけでも光栄です!」

――――いやいや、そんなに家格高くないし…。

「それは褒めすぎです。我家は軍人ばかりの不作法者ばかりですし魔力も微塵も無い者ばかりで逆に恥ずかしい位です」

――――脳筋ばっかだからね。

「魔力が無くともフリュー家の者は武芸で一騎当千の方々ばかりです。あそこまでの研鑽を積まれた方々なれば、魔力の有る無など些細な事」

確かに魔導師だろうが何だろうが邪魔な奴は、己の武力をもって徹底的にが我家の家訓。

本当に脳筋なのだ。

魔導師が作る結界だろうが、攻撃魔法だろうが武器を持ってぶっ潰すという家族はある意味このトリスタンでは有名だ。

「聞いているとは思われますが、四年前の事件での礼が遅くなり申し訳ありません。まさか自分の窮地を15の少女が救ってくれるなど夢にも思わず…。一回り近く年も離れているのに、この恋心を諦められず。ストーカーと罵られようと甘んじて受ける所存です」

「ストーカーなどとそんな事は思いませんが、アキュラス殿の様な美男子にそう言われると些か恥ずかしく…。私など凡庸な容姿で特筆すべき所も有りませんので、アキュラス殿と並ぶと釣り合いが取れないなと」

この美男子に切々と恋心を語られると、嬉しいが同時に悲しい。

脳筋と美男子では釣り合わないだろうと。

「トリス殿は凡庸などではございません!物語に登場する姫のような美しさ、それでいて槍を持って王妃様を守る姿は軍神が降臨されたかの如く美麗。私など貴女の美しさの前では地を這う虫の様なものです」

ニコニコと微笑ながら頬を紅潮させ自分を虫とまで言ってのけるアキュラス殿は、少し残念な思考回路の持主なのかもしれない…。




アキュラスは犬属性…。

そして激鈍、主人公…。

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