009話
遅くなって申し訳ありません……今地獄の3丁目におります。。。。
まあ、僕の事情は置いといて今回ちょっとひょっとしたら読んでいて気分を害する人がいるかもわかりませんので、あらかじめご了承くださいませ。
ほんでもってまた話はほとんど進んでません。
ぬううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
面倒くさがって窓から外に出たのが悪かった。
こんな夜中に何やら騒がしいから見に行こうと思って部屋から一歩出たものの、だだっ広い廊下と夥しい数の扉を見てそっと扉を閉めた。
そりゃもちろん広いとはいえ限度があるから探し回ってりゃ外に出られはするんだろうが、わざわざ出口を探さなければならないというのが面倒だ。
時間をかけて出口を探すより窓から出たほうが時間がかからなくていい。
そう思って俺が止まっている3階の客室のベランダから特に下を確認することなく飛び降りた。
「はんぎゃっ?!」
着地点に人がいた。
まずいやらかした!
売られた喧嘩はいくらでも買うが、無関係の人間を傷つけるのは俺の主義―――というかそれ以前に人道に反する。
慌てて踏みつけてしまった人物を介抱する。
「お、おいあんた? 大丈夫か?!」
と抱き起こしてみると、俺の着地点にいたのは確か『セバス』とか呼ばれていた執事のジジイだ。
俺の声に反応せず白目をむいている。
どうにもいけ好かないジジイだが今回のことはどう考えても俺が悪い……が、
「まあ命に別状はなさそうだからいいだろう」
まずは何かが起こっているらしい正門の方へ行くとするか。
◇◇◇
「「「GWOOOOOOOOHHHH!!」」」
人のものではない雄叫びが聞こえてきた。
これは聞き覚えがある。
数時間前にも聞いたやつだ。
雄叫びが聞こえた方へ向かっていると、ミシェルとイチャが3体のレッドオーガに立ち向かっているのが見えた。
ミシェルは身の丈ほどの盾を構え、彼女の陰に隠れながらイチャが魔法を一心不乱に打ちまくっていた。
サラとメリッサの姿が確認できなかったから殺されたのかと焦ったが、レッドオーガの遥か後ろにいるらしい何者かと交戦している。
どちらから助けに入るべきか逡巡しているとサラとメリッサがその何者かをぶちのめし、その上その何者かはミシェルたちの元へ向かっていた3体のレッドオーガを巻き込むように飛ばされたのを見て思わず口笛を吹いた。
まさに一石二鳥ってやつだな。
あれだけのことができるんなら昼間も俺が助ける必要なんてなかったんじゃねーの?
変に恩を着せただけだったな、などと考えていると先程殴り飛ばされた何者かがレッドオーガに体を起こされてサラとメリッサの方へ向かっていく。
そして叫び声を上げたかと思ったらそこら中に魔法陣のようなのが浮かび上がり、そこから見たことのない生物―――おそらくは魔物と呼ばれる生物なのだろう―――がうじゃうじゃ湧き出した。
そして倒れたメリッサを支えるサラの二人にそれらが襲い掛かっていくので、コンマ数秒で二人の元へ飛んでいき、牙や爪を剥き出しにして襲い来る数体の魔物をまとめて殴り飛ばす。
「うるせえのはてめえらだろうが!」
ちょっとタイミング的に出来すぎかとも思ったが、まあ気にするほどのことでもないだろう。
「ジュ、潤様……?」
まるで信じられないものを見たかの表情でサラが俺の名前を呼んだ。
「よう。勝手に割り込んだんだけどよ、別に構わねえよな?」
「そ、それは、ええ……」
「ところでメリッサはぐったりしてるけど大丈夫なのか?」
サラに全身を預けているメリッサの様子を見てそう尋ねる。
「これは『御業』の反動で動けないだけなので命に別状はありません」
なんだかよくわからないが命に別状がないんなら何よりだ。
「潤さん、あたしのことよりミシェル姉を……!」
「いけない!ミシェル姉さんは―――」
ミシェルとイチャの方を見やると複数の魔物に取り囲まれており、冷静に対処しようとしているミシェルとは対照的にイチャはパニックになっているのがよくわかる。
俺はおもむろに足元に転がっている、女性の腰ほどはありそうな棍棒をひょいと拾い、ミシェルとイチャを取り囲もうとしている魔物の群れに向かってそいつを投げつけた。
「「「GYAAAHHHHHHH!!!!」」」
俺の投げたこん棒は凄まじい音を立てて魔物たちの中心に落ち、ちょっとしたクレーターを作りながら衝撃波を引き起こし、辺りの魔物は物言わぬ肉塊となった。
これでミシェルとイチャに近づいていた魔物たちは一掃できた。
するとミシェルは遠目でもわかるくらいに綺麗な90度のお辞儀をし、イチャは子ザルのように腕を振り回して何かを叫んでいる。
大方ミシェルは礼儀正しくお礼の言葉を述べてるんだろうし、イチャは何かしら文句を言っているのだろう。
わかりやすい奴らだ。
「っ! っ! っ! っ!」
なにか気持ちの悪い音がするのでそちらを見ると、レッドオーガに支えられた重傷のやつが、折れていない方の手で俺を指さしながら声にならない声を出している。
「んだこら! 人を指さしてんじゃねーぞなめてんのか?!」
「お、お、お、お前は!?」
こいつ、血まみれで気が付かなかったがどちらかというと中性的な顔だちをしており、尚且つ俺が見てきたこの国の人種と顔つきが異なっている。
まさかとは思うが―――
「てめえもしかし―――」
「サササササササタン仙道ぉぉぉぉ?!」
間違いない。
「俺を見てそう呼ぶってことはてめえうちの高校の、というかあのクラスにいた奴だな……?」
「な、なななななんでサタンがこんなところにいるんだよ?!」
俺が登場する直前までは愉悦の表情を浮かべ、俺が登場してからはしなびたナスみたいな顔になっているこいつは間違いなく神に召喚された生徒の一人だ。
『サタン』というのは、言ってしまえば俺の通称だ。
いつからかは分からないが、不良グループを次々潰していく俺を悪魔の王のようだと言い始めたのだとか。
正直中学二年生が色々と見誤ってつけたかのようなその通称は微塵も気に入っていない。
「も、もしかしてっ、神様の言ってた異分子って……サタンのことなのか?!」
ぷちっ。
「てめっ、こらぁ!! サタンサタンと気安く人を呼んでんじゃねえぞ!」
◇◇◇
サタン仙道。
この名前は俺の地元で知らない者はいない。
一人で何人もの不良やヤクザを相手に喧嘩をし、それらをことごとく蹴散らしていった男。
それも素手で!
俺と同い年の奴が!
同じ高校にいながら俺は遠目でチラリとしか見たことはないが、その男はもう別次元だった。
男として、人として、生物として―――格が違うのだと思い知らされた。
別にとてつもなく身長が高いわけでもなく、とてつもなく筋肉が隆々としているわけでもなく、とてつもなく怖い見た目をしているわけでもなかったが、この男をただただ大きく感じた。
例えばアラブの石油王の暮らしぶりを見て激しく嫉妬する人は少ないだろう。
言ってしまえばそういう感じなのだ。
俺がその男を見た感想というのは。
だが先ほども言ったように会話なんてしたことはない。
クラスメイトに小中高と同じ学校で何度かクラスメイトになったことのある女の子がいるが、彼女はあまり彼のことを自ら語ろうとはせず、周りが強くお願いしたときに渋々口を開く程度の上、話すことも『彼は普通だよ』『別に特別な事なんてないよ』と、こちらが期待していることは決して言わないので、実は脅されてるんじゃないかという憶測が飛び交ったりしている。
口に出しては言わなかったが、その女の言葉に非常にがっかりした。
だが今!
そんなカリスマと謎溢れる男が今俺の目の前にいる。
それも『異分子』という、俺の敵として立ちはだかっている。
いや違う!
俺が敵としてこの人の前に立てている!
信じられない考えられない!
なんだこれなんだこれなんだこれえええええ!!!!!
なんだかわからないけど、今とても気持ちいい!!
俺の、
いや俺が、
サタンこと仙道潤と敵対しているこの状況下、いろんな思いがぐるぐる巡り、巡り巡って―――俺は絶頂に達した。
◇◇◇
すごく気持ち悪い。
先程まで青ざめていた男が急に歓喜の表情を浮かべたと思ったら急にびくんびくんと痙攣し、にたぁーっと笑ったのだ。
「んだてめえ、人を見てニヤニヤしやがって。殺されてーのか?」
「んふ、んふふふふ! あの仙道潤が俺を見て話してる!」
何言ってんだこいつ?
「そりゃ話すだろ。人間なんだから」
「まただ! また返事をした! んふふ! んふうふふふふふ!!」
気持ち悪ぃ!
「てめえは何でこんなことやらかしてんだ、え? 勇者とか呼ばれてんだろお前? どうかしてんじゃねえのか人として」
「んふふふ! そうだね! きっとそうだよ! きっとどうかしてたよ俺は! なんで今になって気づくかなあ!!」
「てめえまともな会話もできねえのか!」
「確かに女を抱くのは気持ちいいし、イチャら姉妹を犯してやりたいって今でも思うけど―――」
いきなり屑な発言をかましてきやがったので俺はキッとそいつを睨み付けた。
「……突然力を持つと馬鹿になるってのはよくあることだけどよ、てめえはまさにそういうやつらの鏡―――」
「今になって気付いたよサタン仙道! 僕は女を犯すよりも君に僕を犯して欲しかったんだ!」
俺は初めて空気の凍る音を聞いたような気がした。
次回は27日(土曜日)に投稿予定です。