008話
短めの上に主人公が……今はもうすみませんです!
今週が忙しさの山場でここさえ乗り切れば来週からはもっとペースを上げて投稿していく所存です!!
冒険者とは冒険者ギルドに所属し、冒険者ギルドに寄せられる依頼を達成することで得られる報酬で生活する者たちの総称である。
彼らはその実力を鉱石になぞらえたランク毎に分けられ、下から順に『ストーン』、『アイアン』、『カッパー』、『シルバー』、『ゴールド』、『ミスリル』の6段階評価となっている。
言われるまでもなく駆け出しの冒険者は一律に『ストーンランク』から始まり、回される依頼も大方が街の中で実行される物ばかりだ。
『アイアンランク』からようやく魔物との戦いを前提とした依頼を回されるようになり、『カッパー』『シルバー』『ゴールド』と、以来の最中に遭遇するであろう魔物の強さでランクが上がっていく。
現在ドゥーニア中の冒険者全体で見ても最上級ランクである『ミスリル』の冒険者片手で数えるほどしかおらず、彼らは戦局をひっくり返すことができるほどの実力を各々が持っているとも言われている。
そんな彼らに今一歩届かないのが『ゴールドランク』の冒険者たちであるが、それでもその実力は正規軍の一大隊相当であるから正に一騎当千である。
だが、そんな彼らをもってしても一筋縄で倒せない魔物こそがレッドオーガだ。
レッドオーガとは、アイアンランクの魔物であるゴブリン―――その亜種が何度も死線を潜り抜けた末にようやく進化に至った魔物である。
普通のゴブリンも経験を積んで進化することでオーガへと至れるのだが、オーガとレッドオーガの間にはとてつもない差があり、討伐推奨ランクが『ゴールド』であるレッドオーガに対してオーガは『カッパー』、一般的な冒険者のパーティで十分に相手できる程度でしかない。
オーガとレッドオーガの見た目の差はほとんどなく、その名の通りレッドオーガはオーガと違い肌が燃えるように赤いというのみだが頑丈さと腕力が決定的に違い、一度人里に表れでもしたらそこは描写するのもおぞましい地獄になることだろう。
◇◇◇
「どいつもこいつも俺の言うこと聞いてりゃいいんだよおおお!!」
狂ったように叫ぶ吉田駆は恩寵で授かった力、獣魔召喚を用いて紅蓮の魔鬼『レッドオーガ』を3体召喚した。
「「「GWOOOOOOOOHHHH!!」」」
召喚陣から出てきたレッドオーガが雄叫びを上げると周りの兵士は戦意を喪失し、中には恐怖のあまり意識を喪失する者さえも出た。
「くっ、父上と領軍が遠征に出ているときにこうも苦難が続くとはな……!」
ミシェルが冷や汗をかきながら剣を構える。
「姉貴どうする? 潤殿を呼び起こすか?」
メリッサがナックルを取り付けながら尋ねる。
「そそそそうよ! あの男に助けてもらおうよお姉さま!!」
イチャが後ずさりしながら言う。
「もしくはもういっそイチャちゃんをヨシダに引き渡して帰ってもらうってのはどうかしらん?」
「ちょちょちょーーっと何をとんちきな事言ってるのよこのアバズレ次女!!」
後ずさりしていたイチャがすごい勢いでサラに詰め寄って暴言を吐いた。
「あばっ?!……もう本当に引き渡しましょうよ姉さん」
無駄口としか思えないやり取りを聞いて吉田の怒りはより高まっていく。
「クソオーガども! あの4人を捕らえろ! 生きてさえいればなんでもいい!! なぶって犯して滅茶苦茶にしてやる!!!」
吉田の号令でレッドオーガが4人に近づく。
「迎えうつ! イチャ特大の魔法をぶつけろ!」
「うぇえっ?! 逃げないの姉さま?!」
逃げることを前提で動いていたイチャをミシェルが叱咤する。
「逃げたところで領民を人質に取られるだけだ! 我らで何とかするのだ!」
「……………………うぅうぅぁあああもう! いてもうてやったるわよおおおお!!!」
ミシェルの言葉でしばらく逡巡するも、覚悟を決めて―――というよりもやけくそになってイチャが杖を構えて呪文を唱える。
「足元よ! 足元を爆破させてイチャ!」
サラの指示に従ってイチャはレッドオーガたちの足元を狙って魔法を発動させる。
「バースト!」
レッドオーガたちの足元が炸裂し、粉塵が舞い上がる。
「メリッサ行くわよ!」
「言われなくとも!」
粉塵で身を隠しながらレッドオーガをすり抜けてその後ろにいる吉田に向かって二人は駆けていく。
そのことに気づいた吉田は慌ててレッドオーガたちに戻るよう指示を飛ばそうとするが、
「させないわよ!」
サラがダガーで斬りつけてきたのを避けるために支持を中断せざるをえなくなる。
ヒュンと空を切り裂く音ともに確実に吉田の急所を狙って振るわれるダガーをなんとか紙一重のところで吉田はかわし続けるが、強力な獣魔を使役するようになってからはほとんど体を鍛えてこなかった為にそこから反撃に転じることができずにいた。
「ちいいいっ!」
「いくら勇者とはいえグータラな生活ばかりしてたらそりゃ体も訛るわよねえっ!」
次元の壁を超えた為なのか、吉田の純粋な身体能力自体はユルア王国にくる前からほとんど変わっていない。
しかし戦闘や移動を獣魔に任せっきりにするようになってからは体のキレや勘が鈍ってきており、『シルバーランク』の冒険者で尚且つ素早い動きで急所を狙っての一撃必殺を得意とするサラの様な相手との近接戦闘は現状とてもやりにくいのだ。
「くっ?!」
結果、無理な体勢で避けてしまい、次の回避行動に移るまで一瞬のラグが生まれてしまった。
「そこっ!」
その隙をサラは見逃さず、吉田の首めがけてダガーを振りぬく―――が、
「えっ……?」
吉田とサラの間にカラスの様な鳥型の魔物が割って入り、ダガーはその魔物を殺すだけにとどまった。
予想外のことが起こり、サラは頭が真っ白になった。
そしてそんなおいしい獲物を見逃さないのが吉田である。
「……保険をかけといてよかったぜ」
吉田はサラの背後に回り込むと彼女を羽交い絞めにした。
「あらかじめあの魔物に命令してたんだよ。俺が傷を受けそうになったらその身を盾にしろってな。あのシャドウクロウって魔物の飛翔速度は速いからな。いざって時の盾替わりにゃちょうどいい魔物なんだよ」
勝ち誇った表情で吉田は言う。
「……本当に下衆ね、あなた」
「そんな下衆に捕まってるんだ。どんな目に遭うかは想像がつくだろう?」
「もちろん。殴り飛ばされるんでしょう?」
サラの返事に吉田は怪訝な顔をする。
「はあ? まあ、いたぶるのも好きだがその前に犯すに決まって―――」
「殴り飛ばされるのはあんたよ下衆野郎」
サラのその言葉を合図に二人の脇にメリッサが現れた。
「しまっ―――」
「エンジェリックナックル!!」
メリッサは魔力で極限まで力を溜めた拳を吉田の脇腹に叩き込んだ。
「ぎぃゃあああああああ!!」
叫び声をあげて横っ飛びに飛んでいく。
そして今まさにミシェルに棍棒を振り下ろそうとしているレッドオーガを巻き込んでいった。
「遅いじゃないメリッサ」
「しょうがないだろ。この技発動まですげー時間がかかるんだから」
「本当に実践向きとは言えない技よね」
「うるせえなー」
と言ったところでメリッサがサラに倒れ掛かる。
「その上1回使うと2、3日動けなくなるし」
「……うるせえな」
サラの言葉にメリッサはふてくされ、サラの胸に顔をうずめる。
「まあとりあえず休んでなさい。私は姉さんが持ちこたえてるうちに潤様を呼んで―――」
「土人の、それも女ごときにこの俺が本当にやられたと思ってんのか……?」
地獄の底から響いてきたような声がサラの言葉を遮る。
頭から血を流し、右腕と右足がおかしな方向に曲がりながらもレッドオーガに支えられた吉田が現れた。
その表情は嗜虐的な笑みを浮かべており、体の様子と相まって鳥肌が立つほどに不気味だ。
「まさか、メリッサのあの攻撃をまともに受けて立ち上がるなんて、いくら勇者とはいえ―――」
「ああ、今にも死にそうだぜ……? 痛くて痛くてどうにかなってんだよ……なあ、知ってるか? 人間てのは死の淵に立つとなぁ、生存本能が強く働いて子孫を残そうとするんだぁ……見てくれよ俺の生存本能」
へらへら喋る吉田の下腹部は激しく自己主張しており、それを見せつけられたサラとメリッサは嫌悪感でいっぱいになった。
「もう俺は楽しみで楽しみで仕方がないんだ……嫌がるお前らを無理やり犯して俺の子供を孕ませることがなああああああああああ!」
吉田はそうして辺り一面に魔法陣を展開させた。
「まずい……あいつ自分の獣魔を全部召喚する気だ……」
「レッドオーガもいるというのに!」
「サラ姉、あたしのことはいいから仙道さんを―――」
「馬鹿仰い! 妹がひどい目に遭わされるのを見捨てていけるはずないじゃない!」
「でもこのままだと領民も危―――」
「ごちゃごちゃうるせええええ!!」
吉田の言葉に魔法陣から新たに現れた複数の魔物がサラとメリッサに襲い掛かり―――
「うるせえのはてめえらだろうが!!」
その場に現れた仙道潤という異分子によって殴り飛ばされた。
次は来週(22日)の月曜日に投稿予定です!