007話
すみません1日遅れました!!
違う違う違う違う違ぁあああああうううう!!!!
俺の求めていた異世界生活は断じてこんなのじゃないはずだ!!
チート能力で一流の冒険者になってハーレムを作ったり、現代知識を総動員した内政チートで国を作り上げてハーレムを作ったり、要は俺の活躍によってこの世界とその住人を救って富と名声、ハーレムを得たかったのだ俺は!
なのにあの糞センコーに糞学級委員め!!
転移させられた先はムジア帝国という、異世界ドゥーニアで最大の国力を誇る国だった。
大体こういう大きな国のお偉いさんは人間的にちょっとアレな奴らだろうから、こいつらの私利私欲の為だけに利用されそうなら逃げ出してやろうと思ったが全然そんなことはなく、こっちが戸惑うくらいとても丁寧に迎えてくれた。
神託がどうのとか言ってたから、あの神たちが予め何か言ってたのだろう。
すると唐沢教諭が俺たちの代表として皇帝以下お偉いさん方と今後の俺たちの処遇について細かい(神の神託とやらは大まかな事しか言わなかったようで、下手すりゃすぐに最前線に送られるところだった)話し合いを行い、半年間の戦闘訓練を経た後に、『唐沢教諭の指揮の下』前線に送られることとなった。
何やかんや言っても唯一の大人であり、且つ教師だけあって俺たち生徒を思ってのことだったのだろうが、それが俺の不満の原因でもある。
なぜならまず第一に、唐沢教諭は俺たち生徒を単騎で突っ込ませることがなく、あくまで多対一で魔物を囲むか、もしくは遠距離攻撃が可能なチート持ちが攻撃している間の壁役だとか、個人で戦功を挙げ辛いのだ。
要は俺たち生徒が間違って死ぬことのないようにという考えの下なのだろうが、この作戦は俺のチートとは相性が悪すぎるんだ。
もしも俺のチートが遠距離攻撃のできる、例えば常人の数百倍の膨大な魔力だとか物質創造で銃を作り出せるだとかならば俺の戦功は多大なものとなっただろう。
だが俺のチートは魔物の使役、および召喚。
職業でいうと、モンスターテイマーみたいなものだろうか?
簡単に言えば、ある程度弱らせた魔物に直接触れて魔力を注ぎ込むことで、魔物は俺に逆らえなくなり、また魔法陣を展開して、服従させた魔物をいつでも呼び出すことができるというものだ。
うまくすればどんな魔物でも服従させることができるから、将来ドラゴンを服従させてその背にハーレムメンバーを載せて空を飛ぶんだ~、などとほくそ笑んでいたら、
「その能力は戦場ではあまり勝手がよくないな。まず魔物を倒すでなく弱らせなきゃいけないという点。殺し合いをしている相手に対して手加減をしなきゃならないのが大変だ。次に君が魔物を服従させてる間は完全に無防備になってしまうから、君を守るために数人が付いていなければならないのが非効率的だ。それならば遠隔攻撃ができる者たちを守っていた方が確実だから、吉田君は神の恩寵ではなく上がった身体能力で守護班に回ってもらっていいかい?」
なんて糞学級委員長様がぬかしやがった!
確かにそのおかげでクラス内に死人はおろか重傷者すら出ていない。
だがこの作戦で目立った戦功を挙げることができるのは、遠距離攻撃が可能なチートを持ってる奴らだけで、実際ムジア帝国内外を問わず人気があるのはそいつらだけなのだ!
そうしてこの世界に来てから1年近く経ったころ、まるでルーティンワークのように得られるもののない魔物との闘いばかりの生活に嫌気がさし、俺は戦いの最中に逃亡した。
あらかじめ隣国のユルア王国と計画を立てていたためスムーズに事は進んだ。
ユルア王国としても、神の恩寵などというチート能力を持つ人間を、ムジア帝国が独占している状況が気に食わなかったらしい。
そして辿り着いたユルア王国で、俺は初めて自分のチート能力を存分に使ってやった。
まず手始めに、俺一人でも余裕で倒せる魔物を複数従え、俺一人で倒すのは厳しい魔物をそいつらで囲んで弱らせたところを俺の服従能力で従える……こうやって徐々に従えていく魔物の強さを上げていき、わずか半年間で俺の従える魔物の軍団は運用次第で国を落せるほどの戦力にまで膨れ上がった。
その力をもってユルア王国を魔物の脅威から守っていくうちに富と名声、そして奴隷たちのハーレムを手に入れた。
まさに人生の絶頂を感じていた折、俺は生れてはじめて一目惚れをした。
◇◇◇
駆が王からの要請で辺境の森の魔物を退治しに行った時のことだ。
いつもは仕事が終わると一刻も早く自分のハーレムのある王都へ帰る駆だったが、辺境伯家の戦う4姉妹の噂を聞いて一目見ていこうと寄ったシュトルンフォードの街で天使を見つけた。
彼女の名前はイチャ=シュトルンフォード。
綺麗なブロンドの髪をツインテールにしたロリっ娘で、見るからに気が強そうな少女である。
外見がすでにドストライクだったのだが、そんな彼女が姉たちに交じって貧民街で炊き出しをしている様子に駆は所謂『萌え』を感じてぞっこんになった。
そして彼はすぐに彼女に求婚をした。
ユルア王国内で英雄扱いされている自分の求婚を断るはずがないだろうと高をくくっていたのだが、イチャの『嫌!』の一言でその鼻っ柱は完全に折られてしまった。
駆は確かにその武勇でユルア王国内で英雄扱いもされていたが、女癖の悪さもまた同じくらい国中に知れ渡っており、イチャは駆に会う前からすでに嫌悪感を持っていたのだ。
しかし駆はそれでもイチャを諦めようとはしなかった。
彼女に対して『正妻にするから』だの、『他の女の子たちは愛人で、君こそが1番だ』だの完全に勘違いした言葉を並べるのでイチャはもうこれ以上ないほどに駆を嫌った。
そんな彼女の様子を見ても、駆は『イチャはツンデレキャラなんだろう』くらいにしか思っておらず、尚もしつこく付きまとった。
結果、古くからユルア王国を支え続けてきたシュトルンフォード家を怒らせ、王国としても駆を注意せざるを得なくなってしまい、ここでようやく駆は自分が彼女に好かれていないことを理解し渋々引き下がった。
だが駆はイチャを諦めたわけではなかった。
王都の屋敷に引きこもって、どうすれば彼女が自分に惚れ直すだろうと必死に考えて策を練っていたのだ。
駆はイチャ達姉妹が冒険者のパーティーを組んで、貴族なのに時々冒険者のようなことをしていることを利用する、鬼畜の所業ともいえるような作戦を思いついたのだ。
彼女らが簡単な依頼をこなしている間に、自分の従えている魔物の中で彼女ら4人が束になっても叶わないであろう魔物をけしかけてやろうと!
そうして目の前で姉3人が死んで心身ともに限界を迎えそうなときに自分が颯爽と助ければ、きっと自分に惚れるに違いないと、彼は本気でそう思っていた。
一般的な日本人の感覚からいったらこのような考えを持つ人間の方が圧倒的少数であり、吉田駆という少年も一般的な日本人の感覚を持っていたはずなのだ。
ならばなぜ彼がこんな考えに至ったか?
期待を裏切られた異世界への転移と鬱屈した日々によるストレス、逃げ出してからはそれまでの鬱憤を晴らすかのように過ごした日々を経て、彼の感覚はぶっ壊れてしまったのだ……というわけではない。
元々の彼の本質が残虐なのだ。
ただ日本という国で生きていくために、その残虐な本性を自分で持っていることすら忘れて生きていたにすぎず、異世界での日々は徐々に彼にそれを思い出させたのである。
そうしてイチャ達が森に入ったのを確認すると、彼は魔法陣を展開して2体のレッドオーガを召喚して命令を下した。
「いいか? まずはお前があいつらを追いかけまわすんだ。あいつらが攻撃してきたなら反撃はしてもいい。だけどその際に間違っても殺すなよ? で、あいつらが疲れ切ったところに、こんどはてめえがあいつらの背後から現れろ。そうして2体で挟み撃ちにして、一番小さい女以外を殺すんだ。できるなら首ちょんぱとか、内臓が出るとか、えげつない感じでだ。そうしたら俺が現れてお前らを攻撃するから、お前らはそれを真正面から受け止めて死ね。いいな?」
そんな残酷な命令に対しても従順させられた魔物は素直に頷く他なく、彼らは駆の命令通りに動いていたが、結果仙道潤という異分子に殺されてしまった。
当初の駆の計画では、採集クエストを行っているイチャ達をレッドオーガが極限まで体力を奪うために半日かけて追い回して、最終的には駆が待ち伏せている場所に誘導してもらおうというものだったが、待てども待てども一向に現れない。
現れないどころか遠くに聞こえていた悲鳴さえも聞こえてこなくなった。
仕方がないのでレッドオーガを召喚して呼び寄せようとするがこちらもまるで反応がない。
まさかと思いつつ犬型の魔物を召喚してレッドオーガを探させたら、とんでもない力で殺されたであろうレッドオーガの死体が見つかった。
そこでようやく自分の計画がだめになったことを確信して駆は怒り狂った。
「ちくしょおおぅぁあああああ!!!」
そして近くにいた犬型の魔物を喚き声を上げながら無茶苦茶に殴る。
魔物は泣き声一つ上げずにその拳を受けていたが、駆の次元の壁を越えたことで得た膂力で殴られ続けて骨が滅茶苦茶になり、次第に倒れてピクリとも動かなくなった。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
そしてようやく少し落ち着いた駆は、今度は馬型の魔物召喚すると乱暴にその背にまたがり、一路シュトルンフォードの街を目指して駆けていった。
自らの歪んだ欲望に突き動かされるままに。
でまた主人公が出てないっていうね、主人公を書きたかったはずなんだけどな・・・・・・
次は日曜の更新を目指しております!