006話
1週更新が遅れてしまい申し訳ありません!!
言い訳させていただきますと、家には寝るためだけに帰る日々が続いてしまってPCすら開けなかったのです……。
8月さえ終われば!
8月さえ終われば……!!
あともう一つ申し訳ないことが……
今回も結局話がろくに進まなかったので、次はもっとポンポン進むようにします
「まあ、それはいいや」
「「「「ええぇっ?!」」」」
俺の言葉に姉妹が素っ頓狂な声を上げる。
「あんだよ?」
「いえ、だって、その―――」
「そうよ、だって命を狙われてるのよ? もっと危機感を持ちなさいよ! 馬鹿じゃないの?!」
イチャが俺に詰め寄ってくる。
これが俺を心配しての発言だとはわかってはいるが―――
「あ゛?」
どうも威圧してしまう。
「ごごごごごめんって……」
「いや、俺も悪ぃ。どうも舐めた態度とられると威圧する癖があってよ」
「悪い癖だと思ってるなら直しなさいよ……」
イチャがべそをかく。
ならその口の悪さも直せと言ったらプイと顔を背けやがった。
「つまりは、その勇者とか呼ばれて調子に乗っている俺の同郷の連中が、俺を捕らえることが神の意志だから協力しろみてーなことをこの世界の連中に言いふらしたからあのおっさんは俺に敵対した訳だな?」
「……!概ねおっしゃる通りです!」
「まあ、そこの伸びてるおっさんの行動を理解はしたよ。納得はしねーけどよ」
「それは……本当にごめんなさい潤殿! 私どもでできることなら何でも―――」
「もういいよ。伸びてる間抜け面を見たら気が済んだし、俺は基本的に弱い者苛めはしねーんだ」
もっとも、弱ぇ癖に俺を舐めて突っかかってくる奴らに限ってはその限りではないがな。
「それは本当にありがとうございます!」
「いーよ。それより腹が減った」
「あーあ、でもせっかくの料理が冷めちゃったわ潤様。作り直させましょうか?」
「勿体ないからいい。食っていいか?」
「どうぞ、お召し上がりになってください!」
とりあえず真っ先に何かしらの肉のステーキっぽいものに手を付けた。
◇◇◇
とりあえず4姉妹にああは言ったものの、実際のところ困惑しかない。
いきなり見知らぬ土地に来てしまったこともそうだし、これからどうしていくか決まってないこともそうだし、何より同じ学校の連中に命を狙われていると聞かされては、困惑するなという方が無理だろう。
正直、力が強くなったとはいえ、たかが33人を相手に殺されるとは思っていない。
もしも連中の強さの上り幅が俺と同じだけであるならば、だ。
だが連中は俺と違い神とやらに乞われてこの世界に来た。
ということは、神とやらからこの世界で生きていくための何かしらの恩寵をもらっている可能性がある。
異なる世界に干渉できる力があるなら、自分たちの世界もある程度好きにできるはずだ。
必ずしも恩寵をもらえているとは限らないが、最悪の事態は想定しておくに越したことはない。
そうなった場合、不覚を取らないとも限らない。
超能力とかで来られたら対策の打ちようがないしな。
どうしたものだろう―――等と俺にしては珍しく悩んでいると、深夜だというのにやけに外が騒がしい。
よーく聞いてみると何やら怒号が飛び交ってるようだ。
部屋の窓から庭を覗いてみると、守衛の兵士たちが慌てて正門の方へ走っていくのが見えた。
なにか事件でも起きたのだろうか?
普段ならあまり面倒ごとに積極的に関わっていく性質ではないが、こうしていても眠れる気がしないし、一宿一飯の恩返しができるかもしれないから、見に行くだけ見に行ってみるか。
◇◇◇
「おいおいおいおおおおおおおい!!どうやったんだ?どうやってヒール茸をお前らがこんなに早く採ってこられたんだよおおお?!」
癇に障る声を上げる目の前のイライラした下卑た男を睨み付ける。
「こんな夜遅くに何の前触れもなく来訪した上に騒がないでいただきたい。いくらなんでも無礼が過ぎますよ?」
「うるせえええ!!なんでだなんでだなんでだよおお?!」
「話になりませんね」
目の前の醜悪な男はガリガリと頭に爪を立てて激しく掻き毟っている。
その様子を見て密かに胸のすく思いがした。
「用がないなら帰っていただこう。我らは明日朝早くから街に出向いて民を救わねばなりませんので」
そうしてこの下衆を屋敷の敷地外に出すよう兵士に合図を出す。
その合図で3人の兵が下衆を取り囲む。
「どうぞお引き取りを願えますか?」
「糞が糞が糞が糞が糞が糞が―――」
どうやらこの下衆は怒りのあまり我を忘れているらしい。
その様子を見て危険を感じたのか、兵の一人が下衆の肩に手を置いた。
すると次の瞬間、彼奴はとんでもない暴挙に出た。
「土人が俺に触れんじゃねえええええ!!」
下衆は自身の肩に触れた兵の腕を振り解くと同時に、なんと素手で兵を鎧の上から殴ったのだ。
その拳は鎧を陥没させ、容易く兵の意識を刈り取った。
しかしそれを行った当の本人は、『やってしまった』という表情を浮かべるでもなく、虚ろな目でで何かをぶつぶつ呟くばかりだ。
「ヨシダ殿?! いくらあなたが勇者といえど、今のは看過できない暴挙ですよ!」
「うちの兵に手を挙げることがどういう意味を成すのかわからないわけじゃないでしょう?」
サラが私の言葉を引き継ぐように言った。
「うるさいうるさいうるさああああああい!! おめーらはどいつもこいつも俺の言うことを聞いてりゃいいんだよおおおお!!」
男が狂ったように叫ぶと周囲に魔法陣が浮かび上がる。
「いけない姉さん!あれ召喚陣よ!あの中から何かが呼び出されるわ!」
「くっ!させるか!」
イチャの声に反応したメリッサが即座に下衆に詰め寄って殴りかかる―――が、その拳は下衆の背後から伸びた手に阻まれてしまった。
メリッサは聖職者になる前は闘技場で暴れ回っていた猛者だ。
そのメリッサの拳を容易に受け止めたそれは、その凶暴さと強さで人々に広く知られており、今朝方私たちを追い詰めたモンスター―――
「なっ……これは!」
「まさか―――」
「またかよっ?!」
「もしかして今朝のあれもこいつが?!」
―――レッドオーガであった。
◇◇◇
吉田駆はクラス内でも目立たない生徒だった。
成績は大体真ん中あたりで運動神経も普通。
時々話すクラスメイトはいるが腹を割って話せる友達は皆無。
公言してはいないが趣味はインターネットで、そこでは普段隠している粗暴な本性を現して暴れ回る、所謂悪い意味でのネット弁慶というやつだ。
高校3年生であった彼は大学受験を控えていたが、正直将来のことに関しては深く考えたことはない。
なんとなく受験をしなければならないという周りの空気に合わせてなんとなく受験勉強をし、なんとなく大学に行ってなんとなく働くのだろうとぼんやり考えていた。
だがしかし、実際のところの彼の成績は両親が彼に行ってほしいと思う大学の学力に足りず、そのことを何度も叱られて鬱屈していた。
そんな折だった。
突如神を名乗る連中に召喚されたのは。
『突然で申し訳ありませんが、どうか我らの世界の発展にご協力願えませんでしょうか?』
その言葉を聞いた瞬間、彼は思わず歓喜の叫びをあげそうになった。
これこそ彼が常日頃妄想していた展開である、異世界への転生ないし転移ではないか!
受験受験と碌でもない現実と先の見えない未来に辟易していた彼は一も二もなく神の提案に乗る決意をした。
しかしこのことに対して、クラスの中で中心的な人物である黒島亮太が異議を唱えた。
「なにわけのわからないことを言っているんですか?! 僕たちは今年受験を控えて大事な時期なんです! それなのにこんなわけのわからないところに連れてこられても困ります! 大体これは誘拐です! 早く僕らを返してください!」
(余計なことを言うんじゃねえよ! 神の機嫌を損ねたらチートを貰えなくなるかもしれないだろうが! それに俺は糞みたいな地球よりも異世界に行きたいんだよ!)
心の中で毒づくも、クラスの中心的人物である黒島にそんなことを言えるわけもなく、ただただ苦い顔を浮かべて爪を噛むばかりだ。
『申し訳ありませんがそれはできません。今回あなた方を召喚できたのは今回たまたま次元の壁が薄くなり、我らがそちらの世界に干渉できるようになったからです。ですので申し訳ありませんが、これはお願いというよりは半ば決定事項ですので悪しからず』
「そんな……!」
(ざまあああああああ!!!)
駆は心中で喝采を上げた。
(これで元の生活に戻ることはなくなった!異世界での新たな生活が俺を待っているんだ!)
『その代わりといってはなんですが、あなた達には我々からささやかながらプレゼントを贈ります』
(来たよこれ! 絶対に来たよこれ! 絶対にチート貰えるよ! 薔薇色異世界生活決定だよ!!)
ここにきて彼はその喜びの感情を隠すことなく顔に現しているが、周りの生徒はもう日本に戻れないという事実にショックを受けているため気が付かない。
『それぞれに特別な力を授けましょう。ただし得られる能力はこちらで選ぶのでお好きなのをというわけにはまいりませんが、少なくともこのドゥーニアでは重宝される物ばかりです』
どういう能力が貰えるんだろうと駆がワクワクしていると、後ろの方から声が上がった。
「ちょっといいか?」
声を上げたのはそれまで黙っていた唐沢教諭だった。
日本史の教師である彼は物臭なことで生徒たちに知られているが、生徒たちの悩みには嫌々ながらもちゃんと乗ってくれることからそこそこ生徒たちからは人気があったが、駆はあまり好きではなかった。
「教師としてはこの場合あんたらに突っかかってどうにか元の場所に戻してもらおうとするのだろうが、それはもう無理なんだよな?」
『無理ですね』
「じゃあもうそれはいい。生徒らも今はこんなだがそのうちどうにかなるだろう。それよりも聞きたいことがあるんだ」
『なんでしょうか?』
「……なんで俺はこんな状態なんだ?」
そういう唐沢教諭を見て、駆を初めとした生徒一同が絶句した。
彼の顔は腫れ上がっており、前歯が数本抜け、鼻血もだらだら流れている。
一目で大怪我をしていると分かる状態だった。
「せ、先生? それ大丈夫……?」
クラスのマドンナ、小寺つぐみが心配そうに声をかける。
「大丈夫じゃない。痛い」
「そ、そう……」
『そのことは、これから話すことにもつながるのですが、異分子のせいですね』
「異分子ぃ~?」
4人の神の中で唯一女性の姿をしている神の言葉に唐沢教諭が怪訝な顔をする。
『あなた方を召喚する際に、邪魔が入らぬように結界を張りながら召喚の儀を執り行ったのですが、我々の張った結界を破って侵入した者がいるのです』
(なんだそりゃ?)
『そのものが侵入する際に部屋の戸を蹴り飛ばしたのですが、蹴り飛ばされた戸があなたにぶつかったようですね』
「え……それって?」
「もしかして俺、とばっちり……?」
『そうなるのでしょうか?』
まるで(というか完全に)他人事のように神が言うと、唐沢教諭はぷるぷる体を震わせている。
「ふざけるなああ!! え何? いったい何の恨みがあって俺をこんな目に合わせたのそいつ?! その異分子?とやらがどこにいるか教えろ! 同じ目に合わせてやるぁああ!」
(気持ちは分からないでもないけど怒りすぎだろ唐沢先生……)
駆は唐沢教諭の怒りっぷりに引いていた。
正確には駆のみならず他の生徒らも、だが。
そんな唐沢教諭の言葉に、赤髪の若い見た目の神が嬉しそうに反応する。
『あぁっ! それはちょうど良かった! 実はそのことでもう一つ頼みたいことがあったのですよ!』
(なんだか面倒ごとを押し付けられそうだぞ……)
吉田駆は顔を顰める。
『あなた方の手で、その異分子の魂をこちらへ導いて欲しいのですよ』
「……え? それってどういう―――」
『要は、その異分子の抹殺をお前たちに依頼したいんだ』
あっさりと出た神の言葉に、唐沢教諭を初めとした生徒たちが凍り付いた。
『まあそういう反応されることも予想はしていたけどね、ちょっと確認したいことがあるからどうしてもその異分子の魂を確認しなければならないんだ。それには目の前で確認する必要があるし、その異分子がこのドゥーニアを滅茶苦茶にしないとも限らないことを鑑みての結論なんだ』
『これは命令ではない。命令ではないが、できる限り叶えてくれるととても助かる』
赤髪の神シュライアとその隣の隆々とした肉体を持つマイヤーの言葉に一同は沈黙する。
『まあ全てはドゥーニアに行ってからだね。もう時間がないし』
「えぇっ?! まだ色々と尋ねたいことが―――」
『大丈夫。人の子らには神託を授けたから君たちを悪いようにはしないはずだよ』
「だからと言って―――」
『じゃあいってらっしゃい!』
その言葉を最後に、吉田駆ら32人の生徒と一人の教師はドゥーニアへと旅立った。
◇◇◇
『あんなに適当でよかったの?』
知恵の神ウェズがシュライアに尋ねる。
『しょうがないよ。もともと時間がなかったのは本当だし、それにいくら言ったところで結局僕たちは彼らにしてみればただの誘拐者だからね。無理やり送った方が諦めもつくってものだろう?』
『酷い神もあったものね』
『仕方あるまい。我らにとって一番大事なのはこの世界の発展じゃからのう』
珍しくセメリウスがシュライアに同調した。
『そういうことだ』
『まあ、やってしまった以上はもうなるようにしかならないわね』
ウェズも気持ちを切り替えて今後のことについて頭を巡らせる。
『ではとにかく我らも動こうか』
『次の集まりにはシオフラニも来るんだろうの?』
『無理じゃない?』
『そのことについてもまた今後の課題ということでいいんじゃない?』
『じゃあまた今度ということで―――』
そういうとウェズはふっと消えた。
『忙しくなりそうじゃのう』
『覚悟していたことだろう』
続いてセメリウスとマイヤーもその場から消え、残されたのはシュライア一人となった。
『さあ異世界の人の子らよ。どうぞ我らの世界に新たな息吹を送り込んでおくれ』
一応次週の土曜に更新予定です(泣)