005話
予定より遅れてしまって申し訳ありません!
8月さえ乗り切れば、もっとペースを上げられるかと思います。
というか、だったらストックしてから投稿しろって話ですよね?
ほんますんません。
たまにはおせっかいをするのももいいかもしれない。
そんなことを、天蓋付きのベッドに横たわりながら考えている。
パッと見たときは何とも金持ちの好きそうな感じで悪趣味だと思ったものだが、この寝心地のなんと良いことか!
ふわふわで厚みのある枕は、柔らかすぎて頭が沈んでしまうのではと思ったが、柔らかさの中にある反発力で首をちょうどいい高さに固定して心地よい呼吸を促してくれる。
ベッドそのものも枕と同じようにふんわりしているが、この体を包み込むような感覚は、幼い頃母に抱かれて眠っている時を想い起こさせ、心まで安らかにしてくれる。
寝ることがこんなに楽しみに思えたのは生れて初めてだ!
これなら今夜はきっといい夢を……見たいものだが、4姉妹から聞いた話のショックが未だに尾を引いていて、どうも寝付けそうにない。
◇◇◇
「ここがどこって、私たちの屋敷じゃない? 一緒に入ったの忘れたの?」
ちんちくりんの4女、イチャが馬鹿を見るような目で俺を見てきた。
イラッとしたが話が進まないのでそれには反応せず、
「さっきちらっと聞いたが、『ドゥーニア』ってのがこの国の名前なのか? だとしたら一体この国は地球のどこら辺にあるんだ? 街の造りや人の顔立ちから察するにやっぱりヨーロッパ圏内なのか? にしては皆えらく日本語が達者なのはどういうことなんだ? 日本好きの外国人ってやつなのかお前ら」
と一気にまくしたてるように尋ねると4姉妹は、いや4姉妹だけでなく食堂にいた他の使用人たちもぽかんとしてしまった。
しばらくの間、食堂を沈黙が包んだ。
「つまりは、その、潤殿は……ドゥーニアを知らないということなのだろうか?」
長女のミシェルがひどく驚いた様子で尋ねた。
「だから聞いてるんじゃねーか」
「その、もう一つ……潤殿の生まれ故郷の名を聞いてもいいでしょうか?」
「日本だ」
「「「「!!!」」」」
日本、という単語を出したとたん、食堂の空気がガラッと変わった。
4姉妹は目を見開き、使用人たちは何か剣呑な空気を出し始めた。
「あん? 日本を知ってるってことは、ここはやっぱり地球でいいのか?」
ひょっとしたら神隠しにでもあったんじゃないか、なんて思ってたがここが地球なら帰るのは容易い。
こいつらに金でも借りて後で送金すれば―――
「お嬢様方、お下がりください! 衛兵! 衛兵!」
突如、執事のような初老の男がそう叫んだ。
すると食堂に鎧で武装した兵士たちがガチャガチャ音を立てながら流れ込んできた。
「その男を捕らえろ! 神託の男だ!」
執事の言葉で兵士たちが俺を取り囲んだ。
「セバスチャン! あなたなんてこと―――」
「お嬢様方、危険ですからどぞお下がりください! さあ、ひっ捕らえるのだ!」
兵の一人が俺の肩を掴んできた。
正直急展開過ぎて事態が呑み込めないが、こいつらが俺の敵になったのはよく分かった。
敵なら容赦はしねえ。
「ぐぁぁぁぁぁああああ!!」
先ず、俺の肩を掴んで強引に立たせようとしていた奴の手を掴み、ガントレットごと握り潰した。
「抵抗するか貴様ぁ!」
同僚の叫び声を聞いて、別の男が剣を抜いて襲い掛かってくる。
その男が腰に差していた剣を抜いて切りかかってきたが、俺はさっと立ち上がり、振り下ろされた剣を真正面から拳で打ち砕くと、そのままの勢いでそいつの胸部を打ち抜いた。
「こはっ……」
そいつは声も出せずに吹き飛ぶと、背後にいた数人を巻き込んで壁にたたきつけられた。
「ば、馬鹿なっ! これが人間の腕力か?!」
「たった、たった2発攻撃で半数近くが戦闘不能になるなんて……!」
その様子を見ていた、未だ無事な兵士たちからどよめきが上がり、先程までの戦意が完全に削がれたようだ。
「てめえら……俺に敵対したからには、覚悟はできてるんだろうな?」
周囲を睨みつけながらそう威圧すると、食堂内の人々が一様にガタガタ震え始めた。
とりあえず女以外を片っ端から叩き潰して―――
「大変申し訳ございません!!」
やろうかと思ったら、ミシェルが膝をついて頭を下げてきた。
「命の恩人であるはずの潤殿に刃を向けるなど、全くあってはならぬことです! 潤殿が怒り狂うのも当然であります! しかし! しかしどうか! どうかこの者たちを許してやってはくれませぬか! これには事情があるのです!」
「お嬢様! シュトルンフォード家の息女がこのように頭を下げるなど―――」
「うるせえよおっさん! つーか事情だぁ? 仮にも命の恩人に対して剣を向けてきたんだ。どんな事情があろうと落とし前をつけてもらわにゃこっちの気が済まんのよ」
あまりに勝手なことを言うものだから語気を強めて言い放つ。
「わ、私たちも謝ります! 潤様申し訳ありません!」
「頼む! 話だけでも聞いてくれ!}
「ごごごごごごめんってばぁ! そんなに睨まないでよぅ……」
長女のミシェルに続いて妹たちもそろって頭を下げてきた。
絵面的に完全に俺が悪者じゃねーか。
確かに有無を言わさずに俺を取り押さえにかかったことにはむかついたが、4姉妹の土下座姿を見て頭が冷えた。
こいつらは別に何もやってないわけだしな。
「……お前らに免じてこの場は収める。だからとっととその事情とやらを話せ」
「きっ、貴様よくもお嬢様方に向かって―――」
「殺すぞおっさん」
とりあえずこのおっさんが鬱陶しかったので本気で威圧した。
「かっ……!」
するとおっさんが泡を吹いて倒れ、その様子を見ていた他の連中が騒ぎだす。
「気絶しただけだから騒ぐな。お前らもいい加減立ち上がれ。それじゃ話にならねえよ」
「慈悲に感謝します」
4人を促して元の位置に座らせると、ミシェルに改めて尋ねた。
「改めて聞こうか。ここはどこだ?」
ミシェルはふーっと一つ深呼吸すると、俺の目を真っすぐ見据えて答える。
「ここは5人の神が創りし世界ドゥーニアです。仙道潤殿、あなたがいらっしゃった地球とは異なる次元に存在する世界です」
「……つまりは異世界ってことか?」
「あなた方から見るとそうなります」
ここに至るまでに薄々感じてはいたことなので多少の心構えはあったものの、改めて面と向かって言われるといくらかショックを受けた。
となるとやはり俺は神隠しに遭ったのか?
そんな夢物語がまさか俺に降りかかるだなんて想像したこともなかったが、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。
「ん? 今あなた方って言ったか? てことは俺以外にもこの世界に来た連中がいるってことなのか?」
「はい、おります」
「そいつらは今どこで何を?」
「それは、その、機密事項により―――」
「あん? こんなことしといて言えねえってのか?」
言葉を濁すミシェル対して俺が苛立ちながら眉を吊り上げると、慌ててサラがフォローに入った。
「ち、違うのよ潤様! 私たちの知らないレベルの機密っていう意味だから知らないのよぉ」
「ふ~ん、なるほどな]
サラのフォローにとりあえずは納得して見せる。
「にしてもあれなのな。俺みたいに異世界から来た連中がいるってのは知ってるのな」
「それは、なぜなら彼らは英雄として神々が異世界から召喚したものたちなので……」
「神ぃ? さっきも言ってたけどよ、この世界の連中は神が実在しているものと認識しているのか?」
「はい。潤殿の世界と違い、ここドゥーニアでは神々が存在することは公然たる事実なのです」
「あたしみたいな神職を司る者に時々神託が下されるんだよ。あたしん所にはまだ1回も来たことないけどな!」
何がおかしいのかメリッサがカラカラ笑う。
「ならその神様とやらは何で地球から俺らを召喚したんだ? 俺の知る限り、俺の住む世界にゃあ英雄だなんて呼ばれる奴ぁいねえぞ?」
それにいたとしても、そういった連中は偉業から英雄と呼ばれるのであって、何か特別な力を持っていることはないはずだ。
「……順を追って説明しましょう。我々の世界ドゥーニアは、数千年に渡り文化の発展が著しく停滞しているのです。原因は魔物や魔族との度重なる戦です。奴らは我々が文化を発展させそうになると決まって大繁殖し、攻撃を仕掛けてくるため、発展の芽がその都度毟り取られてきたのです」
「ちょっと待て。なんかもう既に色々聞きたいことができたんだが……」
このまま話を進められても、正直理解が追いつくとは思えない。
「なんなりとお尋ねください」
「魔物、魔族っていったい何なんだ?」
「『魔素』と呼ばれるエネルギーをその身に宿している生物のことです。その中で知性のあるものを魔族、そうでないのを魔物と呼んでいます。奴らはかつてこの地に存在したと云われている魔王が生み出した存在だとされています」
なるへそ。
「話を戻しますが、その停滞をどうにかしようと画策した神々の案として、潤殿の世界から英雄を召喚し、ドゥーニアに発展を促そうとたのです」
「まあ確かに地球から来たってんなら色んな知識面で力になれるかもしれねえけど……」
「確かに彼らが我々にもたらしてくれた知識は、もはや英知と呼ぶにふさわしいものでした。しかしそれだけではなく、彼らは魔族との戦いにおいても多大なる戦果を挙げているのです」
どういうことだ?
「これは召喚された方々からの話なんですが、なんでも世界の境界線、要はこちらの世界と向こうの世界の壁を乗り越えると魂が強化され、新たな力に目覚めるのだそうです。通常は異世界間の壁を乗り越えることなんてまずできないのだそうですが、数万年に1度壁が薄くなる瞬間があるそうで、その瞬間なら神々も向こうの世界に干渉することができるのだとか……」
「その瞬間に俺たちを呼び寄せたってことなのか」
勝手なことをしやがって。
道理であのへんな生き物を倒した時も、こいつらを助けに走っていった時も、妙に体が軽くなって力が強くなったように思ってたが、事実強くなっていたわけか……。
ようやく現状を理解し始めたものの、他人に俺の人生を決められたみたいで胸糞悪い。
数万年に1度しか壁が薄くならないってことは、もはや地球に戻ることは叶わないのだろう。
確かに生き辛く感じていたし、どこか別のところへ行きたいなとは思っていたが、俺の行き先をてめーらが勝手に決めんじゃねえ!
「ただその……なんと言いますか」
俺が一人でイライラしてると、何やらミシェルが言いにくそうにもごもごしている。
「あぁん?!」
「ひゃあっ! お、お、お、怒らないでよぅ……」
思わずイライラした状態のまま返事したせいで、イチャが怯えてメリッサの背後に回り込んだ。
「……脅かして悪ぃ。ただお前らに当たる気は全くないから、そこは安心してくれ。それで、一体何を言いにくそうにしてんだ?」
「……はい。神々が召喚された勇者は現在ご活躍されているのですが……」
「ご活躍って、あいつらは俺より先に召喚されたってことなのか?」
「ええ。勇者がこの地に来てからすでに2年ほどになります」
「2年?! だって俺があの教室に突撃してからまだ1日も経ってねーぞ?!」
「それは、申し訳ありません……私にはわかりかねます」
とミシェルが項垂れた。
「ところで召喚された奴らの人数はどれくらいなんだ?」
「33名です」
33人?
確かあのクラスの生徒の数は32人だったように思―――ああ、そういやセンコーもいたな。
てことは1クラス丸々召喚されたわけだ。
何で他クラスどころか他校舎の俺までが召喚され……あああああ!
「話を戻しますが、彼らによると『自分たちが召喚される際に神の結界を破って召喚陣の中に入り込んだ人がいるらしく、自分たちは神からその人物の魂を神のところへ届ける任務も受けた』と……」
そうか、そうだ!
そういやなんかガラスが割れる音がしたのに覗き窓は割れてないから変だなとは思ってたけど、あれは結界が割れた音だったのか!
ならもしあの時あんなことをしなきゃ俺が召喚されることはなかったって事か?!
俺ってただ巻き込まれただけなのかあああ?!
なんて間抜け―――
「あん? 今なんつった?」
「ですから、召喚に紛れ込んだものの魂を神のところへ届けることが、勇者たちの任務の一つであると」
「魂を届けるってもしかして……?」
「はい。潤殿は勇者たちから命を狙われているのです」
結構な説明回になってしまいました。
分かりにくかったらごめんなさいね?
お詫びに腕立てします。