003話
投稿したものと思ってましたけど、したと勘違いしちゃってただけでした。
てへっ☆
光に包まれていたのは、わずか数秒のことだったと思う。反射的に閉じていた瞼の裏から光が感じられなくなったのでゆっくり目を開く。
俺は自分の目を疑った。
俺は確かに校舎の3階にある教室を蹴破ってその中に入ったのだ。だからここは屋内でなければおかしい。
にも拘らず俺の目の前に広がっている光景は、見たこともない樹が鬱蒼と乱立ている密林だった。その密林というのも、日本でよく見たことのある針葉樹林や広葉樹林の類ではなく、まさにジャングルとでもいうべき熱帯雨林なのだ。
俺はそのあまりの光景にしばらくの間声を発することができなかった。
気持ちを落ち着けるために深呼吸を一つしてみたが、鼻を抜ける空気の味ですら日本のものではない。
そこでようやく、何が起こったのかはわからないながらも、俺が現在いる場所は日本ではないのだと思い知った。
それはいいが、いや本当はよくないのだが、ここが日本ではないとしてどうやって俺はこんなところに連れてこられたのだろう?
光で目が眩んだ瞬間に薬品で眠らされたか? しかしその割には意識が途切れた感覚はなかった。
なら神隠しにでも遭ったか? まさかそんな非科学的なことが現代起こるはずも―――と考えを巡らせていると、突然背後からガサガサと繁みが動いた。
俺は咄嗟に何が起こってもいいような態勢をとる。
しばらくの間目の前の繁みはガサガサ揺れていたが、不意に何事もなかったように静まり返った。
繁みの奥にいた何かはどこかへ去ったのだろうかとも考えたが、それでも俺はその繁みを観察しつつ周囲にも気を配る。
まだ気配が残っている。
すると突然、脇の繁みから何かが矢の如く俺に向かって飛びかかってきた。
「グォォオオオオ!!!」
どうやら目の前の繁みで音を立て、そこに注目させた隙に脇から襲い掛かってきたのだろうが―――
「舐めんじゃねええ!」
俺はそれに反応し、飛びかかってきたそいつに対して振り向きざまに拳を振るう。
俺の振るった拳はそいつの顔面を捉え、まるでバットで打たれたボールのようにそいつは吹っ飛び、背後にあった木に衝突してそのまま倒れた。
「なんだこいつぁ……?」
倒れたそいつを見て、思わず眉をしかめた。
そいつの体の大きさは178㎝の俺が子供に見えるほどの巨躯を誇っており、その上隆々とした筋肉に包まれている。それだけなら大きいなと思うくらいで特に眉もしかめなかったろうが、そいつのどす黒い血のような赤い肌と、獅子のような鬣、それと上顎から生えている、大きくて鋭い歯が俺の疑問をさらに深めた。
遠目で見れば人間に近しい姿をしているように思うが、こんな特徴を持った人種は見たことも聞いたこともない。
ひょっとしてこいつはUMAか何かか?
ビッグフットとかイエティとかそういう類の未確認生物なのか?
仮にそうならやばい。数少ない貴重な生物を殴り殺したことになる。
だがまだそうだと決まったわけではない。
まずはこいつをよく観察してから―――
「グォオオオオ!!!」
遠くの方から雄叫びのような音が聞こえてきた。
先ほど俺に襲い掛かってきたこいつと同じような叫び方から察するに、どこかでこいつとは別の個体が、こいつが行ったような狩りを行っているのだろうか?
ということは、きっと今まさに襲われている者がおり―――
「ちぃっ!」
俺はすぐさま駆け出した。
襲われているのが同じ人間ならば、見過ごしては寝覚めが悪い。
音量と響きから察するに、直線距離でここからおよそ2㎞程だろうか?
全力で走っても3分弱かかっちまう!
俺が辿り着く前にやられてなきゃいいが、などと考えていたら走っていて違和感を覚える。
なんだこの違和感?
ジャングルのような悪相路を始めて走ってるから感じているものなのか?
それにいつもより体が軽いような気もする。
突然開けた場所に出た。
そのことに少々驚いたが、俺に襲い掛かってきたのと同じ種類の生物が、倒れこんでいる人間に腕を振り下ろそうとしている姿を確認して気を引き締めなおす。
一歩でその生物と倒れた人の間に割り込み、振り下ろされた腕を横にいなす。
そうしてそいつが体勢を崩して前のめりになったところに、鳩尾辺りを狙った膝蹴りを喰らわせる。
するとそいつは俺が想像していた以上に勢いよく飛んでいき、何本もの木を薙ぎ倒してようやく止まった。
俺は今の膝蹴りは骨を砕くくらいに止まるだろうと思って追撃の準備までしていただけに、自分の引き起こしたことながら呆気にとられてしまった。
確かにトラックを破壊したことはあったが、こんな物理法則を無視するようなことをしたことはない。
そういえば一体目を仕留めたときも、いつもより飛んでったなとか思ったが、体の調子がいいんだろうくらいにしか思っていなかった。
「あ、あのぉ?」
俺の体に何かが起こってるのか?
そうなると、やはり何かしらの薬物を打たれたのかもしれない。
「あ、あの! ちょっとよろしいか?!」
しかし一体だれがどんな目的で俺を狙ったというんだ?
「すみません、あのですね―――」
恨まれる、というかどれもこれも逆恨みだと思うが、心当たりはそれこそ不良の数だけある。
「ちょっとミシェル? なんかこの人考え事しちゃってるけど……?」
俺がのした不良共の中にどこかのボンボンが混ざってて、そいつが親に泣きついて俺をはめ―――
「ねえちょっとってば!!」
考え事をしていたら、そんな必死な声とともに肩を揺さぶられて、俺はようやくそこにいる者たちの存在を認識した。先程殺されそうになっていた連中だろう。
「やっと気づいてくださったか……」
俺が助けた連中、4人組のうちのリーダー格と思われる男がほっとした様な溜息を吐いた。
そいつは全身を重くて動きにくそうな鎧に身を包み、体を隠せるくらいの大きな盾を持っていて、先程の生物の攻撃から身を挺して仲間を守っていた。
大した根性をしていると思う。
「悪ぃな。考え事をしていた」
「あんな恐ろしいレッドオーガを瞬殺した後に何をそんなに深く考え事してるのよ?!」
4人組の中で一番後ろにいたとんがり帽子の女が、びっくりしたように俺に突っ込みを入れてきた。
その手に持っているのは何に使うかはよく分からない杖、そして身に纏っているのはローブのみで、リーダー格の男と違いずいぶん軽装だ。
「イチャ! 恩人にそんな口の利くんじゃないよ!」
小生意気なローブの女に注意したのは、所謂修道服のようなものを着ている女だ。
修道服の持つ、慈愛と穏やかな雰囲気とはかけ離れた雰囲気を纏っているのは、ギャップ萌というやつを狙っているのだろうか、などと邪推する。
「別にいいよ。気にしてねーから」
「あははは。でも本当に強いね~。ランクはいくつなの?」
髪を短く切りそろえた、言わばボーイッシュな女が馴れ馴れしく腕を絡めてきた。
だが残念なことに、腕に押し当てられているのはその女の胸部のプロテクターのようなものなので、柔らかい感触は皆無だし、そいつの腰にぶら下がっている剣の柄がぶつかって鬱陶しい。
なのでそれを振り払うことに微塵も未練がなかった。
「ええい鬱陶しい。初対面で馴れ馴れしい」
「ああん、いじわる」
「やめないかサラ!はしたないし、何より恩人が迷惑しているだろう?」
リーダー格の男がサラと呼ばれた女を諫める。
「えぇ~。じゃあせめてランクを教えてよ~」
「ランク? 一体何のことを言ってんだ?」
「もう~、今さら誤魔化そうとしないでよ~。レッドオーガをたった一人で、それも瞬殺できるレベルとなると……少なくともゴールドランク以上の冒険者でしょ? それともミスリル?」
「冒険者? なんだそりゃ? 冒険家とは違うのか?」
俺の反応に、とんがり帽子の女が本気で驚いた。
「はあ? あなたそれ本気で言ってる? 冒険者を知らないだなんて―――」
「確かに、ドゥーニアにいて冒険者を知らないとなると、よっぽど人と関わらずに生きてきたってことになるな」
修道服の女も続いた。
「まあそれは今はいいじゃないか皆。この人が我々の命の恩人であることに違いはないだろう? ちゃんとお礼を言わないと―――」
リーダー格の男が総まとめに入る。
待てよ?
さっき『ドゥーニアいて』云々言ってたな。
ということはこの場所は恐らく『ドゥーニア』という国なのだろうか?
しかしそんな名前の国は聞いたことがない。
俺が知らないだけなのかもしれないが―――
「イチャ。とりあえずこの人の着ているものをきれいにしてあげてくれる?」
そういえば俺が倒した生物の胃液やら体液、そして悪路を全力で走ったせいで泥があちこちにこびりついてる。
しかし、服は着ているこれしか持っていないので、気持ちはありがたいが洗われたら着るものがなくなるから断ろるか。
「いや、別にその必要は―――」
「クリンネス!」
とんがり帽子の女が杖を掲げてそう叫ぶと、淡い光が俺の体を包み込み、次の瞬間には俺の着ていた学ランが洗濯したてのように綺麗になった。
「おい……今のは―――」
「はあ? 生活魔法に決まっているじゃないの」
なんじゃそりゃあああ?!