020話
今回と次回で重めな感じからようやっと脱出できます。
書いててきつい……
それから馬車を走らせること1日半。
イブとリース達親子が隠れ住んでいたという森にたどり着いた。
森の周囲に生えている木々は、俺がこの世界に初めて来たときのような熱帯雨林の木々ではなく、ぱっと見針葉樹の木々が多く生えているように見受けられる。
そんなに気候は違わないはずだと思うが、まあ異世界だからな。
地球での常識は通用しないのだろう。
難しく考える必要もないし、何より面倒だからそう思うことにした。
「あれが、始祖様の森……です」
隣に座るイブが教えてくれた。
「始祖様……な」
始祖とは魔族を生み出した者で、とてもとても強く聡明で、優しい人物だったと伝えられている人物のことだそうだ。
ちなみにこれは、イブとリース、二人から聞いた話を総合したものなので真偽の程は定かではない。
おそらく彼女らの両親の話した昔話か童話に出てくる架空の人物なんじゃないかと俺は思っている。
そしてそんな始祖様とやらがその生涯を終えたとされているのが、この森なのだとか。(それも真偽はわからん)
「うん! しそさまのもりー!」
俺の膝の上に座るリースが元気よく答える。
ここに来るまでの道中、どうにか二人を怖がらせないように接していたら何やら懐かれた。
まあ、怖がられるよりは遥かに良いが、こうもくっつかれると暑苦しくてかなわない。
かと言って突き放すと傷つけそうだから言わないけどな。
「とりあえず森に入ろう。馬車を止められそうな所知らないか?」
あの豚もこの森に入ったわけだから、この馬車の入れるスペースがどこかにあるはずだ。
「……うん……あっち……」
それを尋ねた途端にイブが俯いた。
「……おう。ありがとうな」
イブの指さした方向に馬を進めると、確かに馬車がぎりぎり進めそうな獣道があった。
その道の上には最近できたであろう足跡と車輪の跡があったので、豚共この道をたどったのだろうことが分かる。
足跡を辿って進んでいくと、急に森の雰囲気ががらりと変わった。
木々の種類もそうだが、何よりも空気感というのだろうか?
別に神聖さとか、もしくは不気味さというのではなく、落ち着く感じというか……。
俺がこんなこと思うのはおかしいのだが、この雰囲気にどこか懐かしさを感じた。
「あ……」
イブが思わずといった感じで声を出して前を見つめる。
その視線の先には一本の大きな木が生えており、見るとところどころに赤い果実をつけていた。
「赤い果物……りんごみてえだな」
「あのね、あのね。あの赤い実ね、食べるととってもおいしいんだよ?」
膝の上に座るリースが俺の顔を見上げて言う。
「じゃあ、とってきてやるよ」
馬をとめてリースを膝からどけて地面に降り立つ。
そして4m程の高さに生っている赤い果実目がけて軽くジャンプをし、赤い果実数個をもぎ取って着地した。
この間わずか数秒のことであり、イブとリースは何が起こったか分からない様子で目をぱちくりさせていた。
「ほらよ」
御者台で呆けているイブとリースに一つずつ赤い果実を渡すと素直に受け取ってくれた。
この赤い果実、見た目はリンゴをさらに球状にしたような形をしていて、俺の知っている普通のリンゴよりもはるかに香り高い。
現にこの一帯には甘い香りが充満している。
これは味のほうもさぞかし期待できるなと、まず一口噛り付いた。
果実に歯を立てた瞬間、ジュワっと甘い果汁が溢れ出した。
うまい!
こんなうまい果物は食べたことがない!
とても甘いのだが、みずみずしさも相まってくどさは全く感じない。
ジュースにすれば最高だな!
強いて難点を挙げるならば唯一食感がまるで桃のように柔らかいことだが(俺はどちらかというと歯ごたえのある食べ物が好きだ)、それすらも全く気にならないくらいうまい!
事実あっという間に一つ平らげてしまった。
きっと姉妹たちも喜んでいることだろうと両脇に座る二人の様子を窺うと、二人ともその果物を持ったままじっとそれを見つめていた。
「どうした? ひょっとしていらなかったか?」
「ううん! これ好きだから嬉しいよ! ね、お姉ちゃん!」
「うん……これ、おいしいから……」
そう言って二人はカプリと赤い果実に噛り付いた。
「あまいーーー!!」
「甘くて、おいしい……」
「久しぶりに食べたけど、やっぱりおいしいね! お姉ちゃん!」
「そうね。お父さんにも―――」
イブが言いかけて言葉を詰まらせた。
そして嗚咽交じりに言葉を続けた。
「―――だべざぜであ゛げだがっだ……」
イブは大粒の涙を零して泣き出した。
俺はイブを抱き寄せて背中をさすってやる。
そうする以外できなかったから。
涙を流す姉につられるように、今度はリースも目に涙をためて隣に座る俺に語り掛けてきた。
「リースのおとうしゃんもね、この赤い実がね、好きだったんだよ?」
「……そうか」
「おかあしゃんもね、この赤い実が好きだったんだよ?」
「……そうか」
「だからね、あのときね、おとうしゃんがね、ケガして大変でね、おかあしゃんもね、おとうしゃんのかんびょーでね、大変でね、だからこの赤い実をね、もっていってあげたら、おとーしゃんもけがが治って、おかーしゃんもげんきになるっておもったの」
それはまるで告白。
「……そうか」
「でもね、でもね、本当はこの実を取りに行っちゃいけませんっておかーしゃんにいわれてたの。人族に見つかるかもしれないからって」
「……」
涙を流して、まるで罪の告白をしているように話すリースの言葉を、俺はただただ聞いていた。
「そしたらね、ほんとうに人族がきて―――」
「わかった。辛かったな」
リースも抱き寄せて、その言葉を止めさせた。
これ以上のことは言わせるべきではないと思ったからだ。
「う、うぇえええええん」
「うぁあああああああん」
俺は両手で姉妹抱きしめ、ただただその涙をこの身で受け止めた。
次回は10月15日(土曜)の夜更新予定です。
(注)
私めの言う夜とは午後11時から午前1時くらいまでの間のことを言います。
すいまっせん!!




