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黒エルフ

 シルトとゴウトが起きたのは早朝だった。昼まで寝ようと問題はないはずだが身にしみてしまった浅い眠りがそうはさせてくれなかったのだ。


 階段を降りてくると、それでも竈に入った火が立てる匂いがあり、それを感じられた。広い客席にはほとんどが空席だったが、それでも人がいた。ジョージとあと女がカウンターに座っている。


 降りてきた二人を見て、ジョージは隻眼を輝かし、大きく手を降った。「おうい!こっちだこっちだ!」シルトとゴウトはお互いを見合わせ、心当たりを探った。


 「何してる、早く座れ!おうい!朝飯をこの英雄お二人に!」

ジョージは大声でサバーナへと告げる。二人は渋々といった様子でジョージの座っているテーブルへ歩いていくと腰掛けた。


「ここの飯はな、ここだけの話、村で一番美味いんだ」

ジョージが言う

「ここだけしか飯を食えるところは無いんだがな、どうした遠慮するな、飯を食え。いざという時に食えない奴は死ぬぞ」


 二人は気まずそうな顔をしたが、食事は有難くいただくことにした。

硬い黒パンに、焼いたベーコンのかけら、薄い野菜のスープ。

少ないが旅行食よりはずっとましに感じられる。


朝のラフトン亭は静かなものだった。

しかし、カウンターに座っていた女ががばりと身を起こすと

「マスター!エール!」

と鋭い声で言った。

二人は肩をすくめ食事をつづけようとしたが、できなかった。

ふらふらとジョージが女に近付いて行くのが目に入ったのだ。


ジョージはマグを傾けるその女性に声をかけた。

「なぁお前さん、何があったか知らないが、こんな朝から酒なんて飲んで!困った事があるなら言ってごらんよ、ここには本当の英雄がいるんでさあ!」

とシルトとゴウトに手を振り向けた。

シルトとゴウトはしこたま驚かされた。首をぐるりと回すとこちらを見た女性と目が合う。


改めて女性の顔をよく見るとなかなかの美人であった。切れ長の目で瞳は鮮やかなグリーン、厚い唇にすっと立つ鼻すじ、一番特徴的なのはすっと伸びている耳だった。

女性は〈エルフ〉だったのだ。


しかし美人も美人だが酒精にやられ、目はうつろになり、顔色はだいぶ赤くなってしまっていた。

シルトとゴウトは、お互い困ったことになったという顔を隠せずにいた。

ジョージは手を振り、

「さあ!英雄どの!このご婦人がお困りですぞ!」

とおかまいなしに言う。


しぶしぶ、女性の座るカウンターへと二人は歩み寄った。

ジョージは満足そうに笑顔を見せ、二人はそれを見ないように隣に座った。

エルフの女性は思いがけない展開に口をぽっかり開けている。


「さあ!この方たちは困ってる人を助けずにはおれんのだ。何があったか話してきかせなせぇ。」

とジョージは勢い良く言った。

「いや…」とシルトが口を開きかけたところでエルフの女性は話し始めた。


「私はニナランと言います。」

エルフは恐る恐る二人の様子を見る。

「実は私、この近くでとある事業に関わってたんですが。」

「ある日、よそから来た人たちが偉い人含めて事業を潰しちゃってそれ以来無職なんです。何をしたらいいやらお金も無いし。」

としゃくりあげた。


「そりゃあ、災難じゃったな。」

ジョージは慰めるようにニナランの肩を叩く。

「そ、それはお気の毒でしたね。」

シルトも一応慰めの言葉をニナランにかけた。

「街へ出て仕事を探してはどうですか。」

シルトは恐る恐る提案した。ゴウトは隣で頷いている。


それを聞くとニナランはまた涙を浮かべマグを煽った。

飲まずにはいられなかったらしい。

「街に行くにしても、先立つものもなくて。」

ジョージは気の毒そうにエルフを見ている。

「あの」シルトが口を開きかけた時。

「そうだわ。」

ニナランがそれを遮った。


「まだ本拠地に何か財宝が残ってるかもそれを売ればしばらくは生活できそうです。」

「あの、財宝の回収をお手伝いしていただけませんか、お礼はしますので。」

ニナランはすっかり引き受けてもらったような様子でシルトを見た。

「いや、申し訳ないが我々にも別の仕事が。」


ニナランの顔はさっと曇った。明らかに肩を落としている。

「なあ、困ってる人がいるじゃないか、別の仕事だってこいつをサッと片付けてだってできるだろ?」

「そういう問題じゃ。」

シルトは明らかに動揺していた。そもそもカウンターに来たのが失敗だったのだ。


「行くのは。」

ニナランが俯きながら言う。

「行くのはダンジョンです。まだ財宝が残ってるかも。」

ジョージがさらに言う。

「ダンジョン!財宝!お前さん方、財宝には目がないんじゃないかね!」

「いやそんな。」

シルトは気圧される。


しばらく黙っていたゴウトが笑った。

「お前の負けだなシルト。いいじゃないか。どうも今の仕事は上がりが少なそうだ。ひとつ宝探しといこうじゃないか。」

「そんな、無責任な。」

ニナランはゴウトの言葉に再び瞳を輝かせていた。


「それで、エルフ。」

ゴウトが尋ねる。

「どこへ行くのだ。」

ニナランは目蓋を閉じると再び開き、二人を見た。


「シャドウフェル城です。」

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