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不死物語り  作者: ジャス
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2ー1 死霊術士

ルグリ山の麓に、ゾッドの大穴と呼ばれる場所がある。そこにはゾッドという男が棲んでおり、何十年もかけて、死の力を研究しているという。洞窟の奥からは、死の実験の犠牲者達が迷い出で、周囲を通る者を見境なく襲った。賞金稼ぎ、軍隊、時には聖騎士までもが、ゾッドの討伐に挑んだが、大穴から戻った者は、一人もいない。




「おっと、これはすまない。もうその左目はダメだなあ。」


ゾッドは、男の瞼のみを切り取りたかったのだが、つい、力が入り過ぎた。それでも焦らないのは、人がどれ程の出血で死に至るか、彼は知っているから。研究の中で、比較的初期に判明した事実だった。捕らえた相手を、死なない程度に傷めつけるのには、彼の趣味趣向が大きく関係している。


「愚かなヤツだな。その程度の技量で、私から盗みを働とは、そんなに私の研究に貢献したいか?」


盗賊の肩を強く踏み締める。突き刺さった矢じりが肩の肉に食い込むと、男は痛みを圧し殺すように呻いた。


「久しぶりの検体だ。お前とその粗末な命、私の死霊術に使わして貰おう。実験テーマは、そうだな。これなんかどうだ。」


ゾッドは、奥の壁に繋がれている者を連れてきた。体格からして、女であることがわかるが、人目みて会話は不可能そうでだ。


「その女の目を見てみろ……いいから見ろ。どうだ。白く濁っているのがわかるか?それが、私のゾンビパウダーの副作用でね。理性を破壊するように調合すると、必ずと言っていい程、視力が落ちてしまうんだよ。傷みを感じぬ身体になっても、目が見えないんじゃなあ。部分的には成功しているだけに、口惜しい。」


ゾッドは女の頭を踏みつけながら話を続けた。そうしなければ、女はたちまち、盗賊に喰らいつくだろう。


「さて、今回の実験についてだが、1つはこの女と同じゾンビパウダーを接種すること。まあ、これは

結果は見えているね。2つ目はこの女がお前を何分で噛み殺せるかを計る。そして、3つ目…実はこの実験が一番してみたいんだが」


そう言うと、ゾッドは懐から何かを取り出した。それは、古びた短剣であった。鞘もなく、黄ばんだ布が乱雑に巻かれている。


「この剣が、わかるかい?ほう、その顔は知っているね。こそ泥風情が、よく嗅ぎつけたものだよ。この剣、私の見立てが正しければ『死者の剣』のはずなんだよ。聖騎士団に封印された『死神の剣』と対になる、死者を甦らせる剣。だが、何故か一人も生き返らんのだ。それどころか、これで傷をつけると、そこから腐って、しまうんだ!……ね?」


ゾッドが、地面で藻掻く女に、短剣を叩きつけた。剣は女の肩に刺さり、傷口から溶け出した血肉が耐え難い異臭を放つ。


「やはり偽物なのか。人生をかけて探し当てた物なんだがね。」


ゾッドが、肩から剣を抜く頃には、女の腕は体と別れを告げて、どす黒く染まっていた。女は失神したのか。その濁った目からは、判断しづらい。


「3つ目の実験は蘇生実験だ。この剣で、君の心臓を貫いてみる。うまくいけば、君は純然たる死の奴隷となれる。薬学で産み出した紛い物とはおさらばだ。私も、君が死んだら偽の剣だと諦めよう。うん。それがいい。」


「さて、君にとって、どっちが幸せかな?」


ゾッドは、男の心臓目掛け、ナイフを突き立てた。


「っち。雑魚の癖に往生際が悪いぞ。」


盗賊は、右手を身代わりにして、ゾッドの一撃を受け止めていた。犠牲にした手の平を、左手で引き締める為、剣を抜くことが出来ない。刹那、右足に衝撃を受け、ゾッドは地面に倒れてしまった。カウンターで、足払いを貰ったのだ。剣を奪われる。


「きさまあアアアアア!!」


明らかに格下の相手に出し抜かれ、ゾッドは激昂する。しかし、怒りに震える自分から、盗賊は距離を離していく。違う。ゾッドが進んでいないのだ。何者かが彼の足を掴んでいた。それは、彼自身が作り出した亡者もどき。


「くそ。放せ!放さんか!!言うことを聞け!」


理性と視覚を破壊され、左腕まで奪われた女にとって、右手につかむ足首は、1ヶ月ぶりの食事である。女は、全身の力を顎に集め、ゾッドの足に齧り付く。


「ぎやあああああ!あああ。許さんぞ!絶体に捕まえてやるからな。必ず。必ずだ!」


ゾッドの怨恨と絶叫だけが、盗賊を背中から追い立てた。それは、反響する洞窟を出て、いつまでもいつまでも耳を苦しめた。

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