1ー4 『死の剣』『不死の剣』
死の神を封じた双剣は、神の力を宿す神剣となった。
片方は、神の『死』の力を持ち、もう一振りは神の『不死』の力を得た。その絶大なる力を、エルスは持て余した。ただ、彼女は安息を欲しただけで――。
戦争に勝利したエルスは、『死』を帯びた剣を聖騎士団に託した。騎士団は、これをエルスの故郷にて封印し、世に氾濫する死の力は鎮めた。
死の神が広めた病は封じられ、人の魂は天に還ることを許された。
信仰を得た騎士団は、すぐにも残りの剣を封印し、人の死ぬことのない世界を取り戻そうと試みた。
しかし、エルスは対となる剣の所在を明かさぬまま、騎士団の前から姿を消してしまった。一部の人間が、神の力を牛耳ることを恐れたのだ。
騎士団はエルスの裏切りに怒り、彼女と剣を探し求めたが、エルスは騎士団の前に、二度と姿を見せることはなかった。
かくして、短剣へと姿を移した死の半分は、封印されぬまま、世界に残ってしまった。
人は神の力によって死ぬことはなくなったが、その身に必ず訪れる、死の宿命を背負ったのだ。
有限となってしまった命は、人と人との争いを生んだ。自身の死を怖れるあまり、命奪われる前に奪おうと考える者が後を絶たなかった。
しかし、死の恐怖は、同時に生命への歓喜を与えた。限られた命を賭して、国と文明を築き始める者も少なくなかった。
エルスと、彼女の持ち去った『不死』の剣が見つかることはなかった。