1ー3 死神戦争
旅に出ることを決めたエルスだが、集落を出たこともない彼女にとって、世界は文字通りに暗黒であった。途方にくれるエルスに何者かが声を掛けた。その者は、エルスの両親の墓標を抜きとり、これが刃を持つまで研ぎ続けろと命じた。エルスは父と母の墓標を何日もかけて研ぎ続けた。父母の墓標は、次第に刃を得て、一組の双剣となった。謎の声は、次にエルスに死体の臭いを嗅がせた。始めこそ嘔吐の止まらなかったエルスも、臭いを嗅ぎ続ける内、死に匂いがあることを知った。謎の声は、エルスにその匂いを辿るよう告げた。武器と進路を得たエルスは、集落を後にした。
死の匂いを辿る時、そこには必ず絶望する人間がいた。
常に虐げられてきた彼女は、苦しむ人の話をよく聴いた。死に追われる苦悩、大切な人を失う悲しみの声を聞くなか、エルスは死を鎮める必要があることを悟った。
荒廃した世界で、他人の辛苦に耳を傾ける者などいなかった。エルスに想いを受け止めてもらった人々は、皆、それぞれに出来ることをエルスに返した。
ある者は温かい食事を施し、ある者は歩きやすい道を彼女に教えた。戦士達は、彼女に鎧をしつらえ、真に救われた者は、エルスに付き従うようにまでなった。
やがて、人々は、エルスを『聖女』と称え、その従者達を『聖騎士』と呼ぶようになった。
エルスの道が地底へ至る頃、聖騎士は1つの軍団と化していた。自らの国にかけ降りてくる人間に、死の神の激怒した。人と神の戦争が幕を開ける。
死との戦争…聖騎士達は、正しく決死の思いで戦った。しかし、神の力は絶大だ。死の神の右手は、いかなる戦士も、一瞬で骸の奴隷兵へと堕とし、左手は、倒れた奴隷兵を幾度も甦らせた。
死の軍団の猛攻を切り抜け、騎士団は何度でも突撃を繰り返した。いかなる名工が鍛え抜いた剣や槍も、神に届く前に錆びて腐り落ちたが、唯一、エルスの双剣だけは死の神の身体を引き裂くことができた。
エルスの剣に苦戦した神は、エルスの両親の屍を人質とし、エルスに妻となるよう求めた。しかし、エルスはこれを死の神ごと両断し、戦いに勝利した。エルスは2つに裂いた死の神を、両手に持つ剣へと、それぞれ繋ぎ止めた。
死の神に捕らわれた魂は、全て天へと解放された。
人は、勝利した。
誰もが、『永遠』の奪還を疑わなかった。