Goin' Back To Georgia 1
「アタシは帰れないの。ゲイであることもカミングアウトしてないしエヴァンと婚約してることも家族は知らないの」
「そうだった、ごめんなさい。私たちだけ盛り上がっちゃってごめんなさい」
とバネッサ。エヴァンがそんな雰囲気を変えようと無理して陽気に言った。
「せっかくだからラルフ、3人で帰ったら? 僕もちょっとやりたい新しい仕事もあるし。久しぶりに家族に会っておいでよ」
「ごめんなさい、エヴァン。アタシに勇気がないせいで……でもアタシだけ帰るのなんていや」
ラルフは泣き出してしまった。
ずっと避けてきた問題に期せずして直面してしまったエヴァンとラルフだった。
「でもラルフ、キミだって家族に会いたいだろ? 家族も会いたいに決まってるじゃないか。今回はバネッサたちと帰るべきだよ」
「ひとりだけで帰りたくない。でもうちの家族はエヴァンのご家族みたいに理解してくれないわ、むしろ逆よ。ああ! もうどうしていいのかわからない」
いつも冷静なラルフがめずらしくパニックになりつつあった。エヴァンへの愛と家族に対する気持ちとの葛藤がラルフの中で混乱を引き起こしたのだった。
エヴァンの家族も今ではふたりの関係を理解して応援してくれているが、カミングアウトした時はそれはそれは修羅場だった。
アーロンとバネッサはただ事態の急展開を見守るしかなかった。
「じゃあ……僕はキミの友人としてというのは? 愛し合って婚約してる関係、というのは封印して。キミが僕の家族に会うときそうしようとしたみたいに」
「そんなのエヴァンに失礼だわ」
「そんなこと問題ない。それでキミが帰省する気になってくれればむしろ大歓迎だよ。ただし出発前の3日間は同棲だよ。頬がこけるまでヤリ抜く」
「エヴァン、大好き!」
エヴァンに抱きしめられてラルフはさらにポロポロ泣いた。
幸せなアーロンとバネッサのカップル、先が見えないエヴァンとラルフのジョージア行きが決まった。
出発前の3日間、本当にエヴァンはラルフの部屋に泊まり込み発情期のカブトムシのようにメスを貪った。その行為の背景にはジョージア行きへの不安があることをラルフも理解していた。
出発を明日にひかえた夜、ベッドの中でエヴァンはラルフに思いきって聞いてみた。
「ラルフにはおじいさんがいる? 前にちらっとバネッサに聞いたことあるんだけど」
「いるわ、大好きな祖父よ。厳格な人でライフルの名手なの」
バネッサとのコーヒーショプでの会話がよみがえった。
『ねえ、バネッサ。さっき故郷でラルフがゲイだって知ってるのキミたち姉妹だけって言ってたよね?』
『そうだけど?』
『じゃあもちろんラルフの家族も知らないわけだ』
『もちろん。知ったらラルフ、おじいさまに射殺されるわよ。確実に』
ラルフが射殺されるくらいなら僕が射殺された方がマシだ。
でも僕たちの関係は射殺されるに値するほど罪深いことなんだろうか?
父さんたちの時代と違って、今では同性婚もできる時代になっているのに。
だけど、やっぱりほとんどのノーマルな人には理解できない鬼畜の所業なんだろうか?
「エヴァン、どうかした?」
不安そうに問いかけるラルフに笑顔を作ってキスをした。
「僕がキミを守るよ」
自称小説家、ゲイのフリーター、セックス依存症で弁護士のひもの僕だけど、恋人のためなら騎士になるよ。
「しばらくキミを抱けないね。エヴァン君、おかわりいただきます!」
不安を打ち消すようにエヴァンは再びラルフを攻略した。