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細マッチョの恋 2

ラルフが荒療治と称してエヴァンとアーロンをベッドルームに閉じ込めたあの疑惑の夜。

バネッサは自分でも驚く程動揺していた。その気持ちがエヴァンへの嫉妬だと気づくまでにそんなに時間はかからなかった。

アーロンと過ごした時間は楽しかった。ハワード市長に暴行されて傷だらけになって戻ってきたアーロンの姿を見て号泣した。アーロンが体を売っていたことも、エヴァンのことを好きだということも承知していたのに、あの夜バネッサはジェラシーに胸を焦がした。


家族が迎えに来た日の別れ際、バネッサはアーロンにハグして言った。


「アルバムのジャケットあなたと一緒に撮りたいんだけど」


「オーケイ」


と頬にキスしてくれたアーロンにホンモノのキスを返しながら


「あなたのことが好き」


と思いのたけをぶつけた。

見返りなんて期待していない。そんなめんどくさい女じゃないんだから。

ただ気持ちだけは伝えたかった。片思いでけっこう、片思いバンザイ!


アルバムジャケットのバネッサからの企画はアーロンの写メを見せるとすんなり許可がおりた。それだけアーロンの透明な美しさは逸材だった。


カメラスタジオで久しぶりにアーロンと再会した。カメラマンの要請で「上半身裸の後ろ姿でのキスシーン」というセンセーショナルな内容にもかかわらずアーロンは快く応じてくれた。

あくまでも撮影のためのキスシーンだったけどバネッサはうれしかった。

アーロンとの思い出になればいい。片思いの恋の記念。


アーロンはというと家族が迎えに来た日の別れ際、バネッサからのジャケット写真の依頼にはちょっと驚いたがアルビノを恥じてはいないことの証明として応じようと即決した。

アルビノであることを武器として男娼していたことをラルフにもバネッサにも軽蔑されたのは正直キツかった。

これまで誰もストレートに非難する人なんていなかったから。


そして誰にも語ったことがなかった子供のころからの話、家出の理由をなぜかバネッサには聞いて欲しいと思った。結果、バネッサを泣かせてしまい心が痛んだのも事実。


僕はそんなに鈍くはない、バネッサの気持ちにはその頃から気づいていた。でもエヴァンへの断ち難い思い。絶対に成就しない片思い。そしてラルフに恋人を提供されたあの夜。

あのままエヴァンを落とすことはできた。もちろんカラダだけの関係だが、このままエヴァンをラルフから奪いたい衝動。でもそんなことしたらたぶん僕は自責の念でこの世から消えてしまいたくなっただろう。ラルフ、あなたにはかなわない。心の大きさもエヴァンへの愛も。

未遂で終わったエヴァンとの夜が男娼としての最後の仕事。そう、あれは卒業儀式だったんだ。ラルフは絶対に泣かせてはいけない。エヴァンとのこの約束を守ることが過去との決別と未来への核となるはずだ。


エヴァンとは友人として別れようと決意した朝、バネッサから言われた


「あなたのことが好き」


ってとてもシンプルなことば。

なんていうのか、ストンと胸に落ちてきた。受け入れるとか受け入れないとかそんなレベルじゃなくて、頭で考えるんじゃなくて、ストンと当たり前のように落ちてきた。不思議な気持ちだった。

「愛してる」「キミが好きだ」なんて言葉は単なる商売上のリップサービスとして天候の挨拶くらいの軽さで客にも言ったし言われもした。

でもバネッサに言われたひとことは別の種類の言語のようにアーロンの心に落ちてきた。


正直バイセクシュアルではあったけど、ゲイの要素のほうが強かった。

ストリートでは仕事としてどちらともやったが自ら異性を好きになったことはない。

変な意味じゃなくいちばん好きな女性は姉のイリーナだった。

イリーナ以上の女性は存在しないと思っていたから真性のシスコンとも言える。

ケガ人の弟を迷いなくひっぱたく姉ではあったが。


アルバムジャケットの撮影が終わったあと


「今日はありがとう、ご飯でも食べに行こう」


と誘うバネッサに


「ご飯もいいけど、キミを抱いてみたい」


と自然に言えた。


セックスをした後、バネッサはアーロンの胸の中で泣いた。

女の子のカラダってこんなに柔らかくて温かいんだ。

ゲイの客との殺伐とした荒々しい交わりとは全然違っていた。

とても穏やかで温かな幸福感に包まれたアーロンは


「キミが好きだよ」


とバネッサにキスをした。そしてもう一度ささやいた。


「愛してる」


30分後には金をもらって別れる相手に使う「愛してる」とは違った、重く責任のあることばだということをアーロンは自覚していた。

異性限定で言うならアーロンには初恋だった。



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