Merry-go-round
「アタシ、絶対無理!」
人気アトラクションの絶叫マシーンに乗ろうとしたらラルフが立ちすくんだ。
「なんで? 遊園地っていったらまず絶叫マシーンだろ?」
とエヴァン。アーロンとバネッサはもちろん乗る気まんまん。
「遊園地っていったらまずメリーゴーラウンドでしょ?」
とラルフ。
あ、かわいい。ラルフのこんなとこも好きなんだよな、僕は。
「僕がしっかり手を握っててあげるから乗ろうよ、大丈夫、平気だって。次にメリーゴーラウンドにも乗るからさ」
エヴァンに説得されてしぶしぶマシーンに乗り込んだラルフだった。
そして絶叫マシーンの正しい乗り方の見本のような雄叫びが園内に響き渡ったのだった。
マシーンからようやく降りたラルフは涙を浮かべ腰がくだけていた。それをエヴァンが抱きかかえていた。
「かわいいなぁ、ラルフって。女の私から見ても本当にかわいい」
と言うバネッサに
「そうだね、エヴァンがベタ惚れになるのもわかる気がする」
アーロンが笑った。
次はメリーゴーラウンド。
正直、いちばん絵になっていたのはアーロンだった。銀色の髪をなびかせて白馬にまたがった童話の王子様そのもの。バネッサが惚れ直したのは言うまでもない。
しかしエヴァンは別の妄想をしていた。嬉しそうに木馬にまたがるラルフに古代ローマのグラディエーターの鎧を着せてみたい。そしてローマ皇帝になった僕はラルフをコロッセオの中央で陵辱するんだ。数万の観衆の前で。ああ、このシチュエーションたまらない。
「ハーイ、エヴァン。妄想は終わった?」
とアーロンに声をかけられて我に返ったらメリーゴーラウンドはとっくに止まっていた。
アーロンが耳元で囁いた。
「股間だいじょうぶ? 淫らな妄想してただろ?」
「危険だわ」
すでにメリーゴーラウンドから降りたバネッサが小声でラルフに囁いた。
「磁石のS極とN極が急接近してるわ」
LDF緊急軍事会議。「指令その1。食欲で性衝動を抑える作戦遂行せよ」
「アーロン、エヴァン。お腹すいちゃったぁ。ランチにしましょう」
バネッサが声をかけた。
「オーケイ」
ふたりはメリーゴーラウンドから降りてきた。
バネッサはアーロンと手をつなぎ、ラルフはエヴァンの腕に自分の太い腕を絡ませていた。
なんとなくさっきより密着度が増したような気がしないでもないアーロンとエヴァンだった。
遊園地のカフェで簡単なランチをとった4人は次のプラン「公園でお散歩」に向かった。
「鳩のえさ買ってくるわね」
とラルフ。
「私、飲み物買ってくる」
とバネッサ。
公園におけるLDFの防衛活動の確認のため、あえてエヴァンとアーロンを二人きりにしたのだ。
「ねえ、エヴァン。このデートプランって絶対ラルフが考えたんだよね」
ベンチに並んで座ったアーロンが笑いながら言った。
「うん、僕もそう思ってた、でも悪くないプランだ」
木漏れ日が気持ちいい。夜型インドア派のエヴァンには新鮮だった。
「ところでアーロン、バネッサとはうまくいってるみたいだね」
「夜のこと?」
「まあいろいろそれも含めて」
「僕を真正のゲイだと思ってたんだろ? 聞きたいのはそこだろ?」
アーロンは以前みたいな不敵な笑みを浮かべた。
その癖がアーロンらしくてエヴァンはちょっと安心した。ハワード市長の事件では精神的にもかなりまいっていたはず。でもそのあとの家族のケアのおかげで精神的にも肉体的にもほぼ回復したようだった。そしてバネッサとつき合いだしたことも大きいのかもしれない。
「うん。正直どっちかわかんなかった」
「僕はストリートではご婦人にも人気だったんだよ。器用だろ?」
エヴァンは笑ってアーロンの胸に軽くパンチを食らわした。そして言った。
「バネッサを泣かすなよ」
「まるでデジャヴだね。前はラルフを泣かすなって言われた。だからちゃんと約束は守ったよ」
「でも今回は約束できないね。今夜もベッドでバネッサを泣かすよ」
と続けた。
「この野郎」
と笑いながらエヴァンはアーロンの肩に手を回した。