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Anatomy Story  作者: 空谷陸夢
Karton's Anatomy
16/22



サッチャーさんの病室に着いて中を見てみると、サッチャーさんはまだ麻酔から目覚めておらずベッドの周りには家族がいた。とりあえず家族だけにサッチャーさんの手術の原因と術後の状態を話す。



「手術の方は成功しましたから、後は回復を待つだけですね」



サッチャーさんの奥さんは手術が終わっても不安は消せなかったらしく、デイヴィスがそう言うと目に涙を浮かべて安堵し礼を述べた。


病室を出て近場のナースステーションでカルテに術後経過を書き込む。隣にはデイヴィスも立ってるけど、二人ともそれぞれの仕事をしてて互いに無視。私は私でサッチャーさんのカルテに術後経過を書いてるし、隣のデイヴィスも何かしら書いてる。

視線を感じてチラッと前を向くと、一人のナースがジーッとこちらを見ていた。



「なに」



咎めるような視線に訳を問いかける。ナースは言葉を発せずに私の隣を視線だけで合図する。

……なるほどね。この状況を何とかしろってこと。コリンが言ったことは、あながち間違いではないかも。



「ねぇ、」



カルテを書いてた手を止めてデイヴィスの方を向いた。デイヴィスは私の声に顔を横に向けたけど、すぐに視線を元に戻した。

腹立つ……。



「ちょっと、まだ怒ってんの?」



今度は身体ごとデイヴィスの方を向いて問い掛ける。自分でも声に苛立ちが混じっているのがわかった。

デイヴィスは書く手を止めたかと思うと、ペンを白衣の胸ポケットに入れ、パタンと書類を閉じ、私の方を見る。



「別に? 怒ってない」



素っ気なくたった二言だけを残して、書類を手にナースステーションを離れるデイヴィス。

……どこが怒ってないのよ?!



「あれは怒ってるぞー」



ちょうどデイヴィスと入れ違いにナースステーションに来た男のナースにまで冷やかされた。そいつはヒヒヒッと意地の悪い笑い方をして、カウンター越しの私の前に看護婦と並んで座る。



「……何よ?」



ジトーッとナース二人から恨めしげな視線を受けて、ほとんど八つ当たり的に返す。



「早くデイヴィスの機嫌治してくれよ」

「そうよ。仕事しづらいったらありゃしない」



ナース二人から文句を言われて何も言い返せなくなる。目の前に座るナースからの『早く』という無言の圧力に耐えられなくなって、私もデイヴィスのようにカルテをバタンと音をたて閉じた。



「分かったわよ。機嫌治してくりゃいいんでしょ!」



サッチャーさんのカルテをナースに無理やり渡して、私はデイヴィスの後を追いかけた。

まったく、面倒くさい。

デイヴィスが非常階段に入るのを見つけて、見失わないうちにと私もまだ閉めきっていない非常階段のドアを押し開けた。



「ちょっと、デイヴィス!」



苛立ちを隠そうともせずにデイヴィスを呼び止めた。デイヴィスは上に続く階段を上る途中で、私の方を振り向く。



「クリスマスに連続勤務入れたことでまだ怒ってんの?」



さっきもした質問をまた問い掛ける。怒ってるなら怒ってると言えばいいのに、何も言わずただ不機嫌になるデイヴィスにイライラする。

デイヴィスは階段を降りてきて、踊り場に立つ私の前に立った。



「そのことで怒ってるんじゃない」



そんなイラついた声で言われても説得力ないっつーの!



「じゃあ何のことで怒ってんのよ?」

「君が相談もなしに連続勤務を入れたことに怒ってるんだ」



私がイラついた声を出すからか、デイヴィスの怒りもだんだんと上がっていく。怒るデイヴィスが悪いとは言わないけど、私にだって事情がある。



「相談? 私は去年もクリスマスに連続勤務入れてたの。だから今年も入れたって不思議じゃないでしょ!」



そうだ。私はインターンだった去年の今日も連続勤務を入れてた。



「去年と今年とじゃ訳が違う」

「どう違うっていうのよ」

「去年は君のことを何にも知らなかった!」



苛立った声を少し大きくしてデイヴィスが反論した。

その言葉に私は一瞬言葉を詰まらせたけど、すぐに口を開く。クリスマスに家にいる気は毛頭ない。



「私にだって事情があるからクリスマスに連続勤務入れたのよ」

「だったらその事情を話せよ! 君はいつもそうやって肝心なことを俺に話さないだろ。少しくらい君の気持ちも話してくれ!」



デイヴィスが真っ直ぐに私を見つめる。思わず視線を逸らしてしまった。

何となくデイヴィスが怒ってる訳が分かった。私が何にも話さないからだ。全部私一人で決めて、デイヴィスには事後報告しかしない。それは悪いとは思ってるけど、変える気もさらさらない。



「クレオ、」



デイヴィスが私を呼ぶ。まだ少し怒っているような声で。



「クリスマスに連続勤務入れた理由はちゃんとある。でも、それをアンタに話す気ないし、話す必要もない。気持ち全部話せなんて、私に求めないで」

「クレオッ」



外していた視線を戻してはっきりとデイヴィスにそう告げた。当然だけど、デイヴィスはこれに怒ったみたいで、またさっきみたくイラついた声で私を呼んだ。

これ以上何も言われないうちにと、私はデイヴィスに背を向けた。非常階段のドアを乱暴に開けて、デイヴィス一人を踊り場に残したまま非常階段を後にした。

あまりにも乱暴にドアを開けたからか、私が不機嫌な顔をしているからかは分からないけど、すれ違う外科のナースやドクターに引きつった顔をされた。私が不機嫌な理由を感じ取った数人は、『ダメか』というような顔をして溜め息をついていた。まあ、別に気にしないけど。

外科のエレベーターに乗ってERを目指す。トンッと壁に身体を預けた。

デイヴィスに前もって相談してたって、どうせアイツは理由を聞いてくる。理由を話したくないから黙ってたのに。面倒くさい。

それと、ケンカ以上に面倒くさいのが周りの反応。フレッドたちがラウンジで余計なこと言うから広まっちゃったじゃないのよ。

そこでエレベーターがERに到着した。扉が開くのを待って慌ただしいERに踏み込んだ。






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