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チハルの住まう真っ白な部屋で、二人の研究員を殴殺した後、ヒジリは彼に部屋の外に広がる世界がどれほど素晴らしいかを語り聞かせ、子供の探究心を利用し、最強の生物兵器である少年を自らの下僕にした。
ヒジリが隣の世界の巨大地下研究所『エリア38』でチハルを拉致した直後、警備員の一人によって、件の五人の研究者の死亡が確認され、研究室に残されたメモにより、自国の最強兵器が何者かに奪われた事実が国の上層部に露見した。そして、隣の世界の軍人達は宇宙人を捕獲し、拷問の末入手した、優れた科学技術を用いて、兵器を奪った人間を他国に逃がさないよう、周囲の国を特殊なロケット弾で灰に変えた。圧倒的な科学力を持つ彼の国には、どこの国も批難はしても、手が出せず、唯一の戦争相手であるチハルは相手が攻めてこない限り戦わないので、隣の世界とは現在半ば停戦状態だった。
「ふあぁあ」
大きく伸びをして、サヤカは寝ているチハルの身体を抱きしめる。
チハルさえいれば、私達は隣の世界のヘイタイに殺されずに済むはずだ。
サヤカは安心しきっていた。が、二日前に、戦争で両親を失った時から親切に接してくれていた青年、カズキが自殺してしまい、一昨日、昨日に引き続いて、今日も傷心気味だった。
カズキの死体は真っ先にチハルが見つけた。人の気配に異常なほど敏感なチハルは、朝起きた時、いつも感じる筈の人の気配が一つ足りないことに気付き、その根源であるカズキのテントに足を踏み込み、彼の死を知った。チハルの傍にはこの時も、癒着したかのようにサヤカがくっついていたので、彼女もカズキの死体を見てしまった。
カズキはテントの下に深く掘った穴の中で、縄で首を吊って死んでいた。彼が自殺した理由は、サヤカにもチハルにも心当たりがあった為、何となく解った。
ヒジリとチハルと共に、奇跡的に生き残った者同士、集団生活が始まってから一週間が過ぎた頃、サヤカはヒジリやチハルを良く思っていない四人の男達に輪姦されたことがあった。当時、超能力者を嫌っていたサヤカの隣には、現在のようにチハルの姿はなく、彼女が共に一つのテントの下で就寝していたのはカズキだった。
カズキは大学生時代、貧困と性暴力が原因で、妹を失くしたことがあった為、妹の姿を重ねていたサヤカを何が何でも守ろうと、襲撃にきた、自分よりも体格の大きい四人の男達相手に、腕の骨を折られても、死ぬ気で暴れたが、奮闘虚しく、ありえない方向に腕が曲がったまま、両手足を縛られ、助けることもできないまま、意識を失ってしまった。
目が覚めた時、カズキの前にサヤカの姿はなかった。それから、ずっとサヤカはカズキを含む大人全員を避けていたので、当然彼と話す機会は一度もなかった。




