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 ヒジリ達が拠点としている、城下町の中心部だった場所から五百メートルほど離れた地点。地が丸みを帯びていて、クレーターが幾つも見受けられる為、彼等が『月』と呼ぶその場所で、黄緑色の大きな瞳を持つ少女、サヤカは黒い砂の上に畳んだドブ色の布製のテントを敷き、その上に寝転がって空を見上げていた。

 一ヶ月前までは、この近くの上空を頻繁に飛行機が飛んでいた。が、今はヘリコプターすら見かけない。空にはただ、日射しを遮ってくれる白い雲が点在しているだけ。

 青い空が寂しくなったのも、センソウが原因なのだろうか。

 サヤカは寝返りを打って、横ですやすや眠る、中性的な顔立ちの美少年、チハルの小さく綺麗な顔をじっと見つめる。

 丈の長い無地の真っ白なシャツ、裾が幾重にも折られた紺色のジーンズに光沢のある黒いブーツを履いているチハルは、この世のありとあらゆる知識を有していた。

『捕まえないんじゃなくて、捕まえられないんだ。隣の世界の兵隊達は、ヒジリ先生が兵器を持っていると思っているみたいだけど、僕がいるからヒジリさんの半径五キロメートル以内には近付くことができない。かといって、この近くにミサイルを撃ち込んで、兵器の隠し場所を知っている先生を死なせる訳にもいかないと思っているから、捕まえたくても捕まえられないって訳』

 サヤカが尋ねる全ての質問に明確な答えを返すことのできるチハルの歳は十八。知識は然ることだが、彼の容姿も驚愕が詰まっている。

 五歳の時から数種類のホルモン剤を服用しているチハルは、肉体の成長が五歳のまま止まっている。また、生まれた時からベッドしかない毒ガスの出る、狭い真っ白な部屋で育ち、数え切れるほど話した人の数が少ない為、精神的にもかなり幼い面が目立つ。しかし、一番に驚くべきことは、彼が持ち得る≪力≫だった。

 チハルは両手を前頭部に置き、念じるだけで、彼の半径五キロメートル以内の人間であれば、その人物にとって最も恐ろしいと思うことを幻視させることができる。そして、チハルの幻視によって恐怖心を引き出された者は、恐ろしさのあまり、確実にショック死する。つまり、チハルは意識を失っている人間と、脳死した人間でない限り、念じるだけで人を殺害することが可能という訳だ。また、正確に狙った相手に幻視させることができるのが、彼の半径五キロメートル以内の人間なだけであって、彼がその気になれば、世界中の人間に悪夢を見せることもできる。

 チハルは隣の世界が生み出した、正に最強の生物兵器だった。彼の存在は生まれた時から五人の名高い研究者の手によって徹底的に隠蔽され、隣の世界で生まれたにも関わらず、その五人以外は国の人間にも認知されていなかった。

 人間が最強の兵器であることを隠す為、チハルを生み出した五人の研究者達は、地下研究所で秘密裏に彼を生育し、彼が五歳の時に、子供の姿であれば誰もが彼を最強兵器だとは思わないだろうという身勝手な理由で、薬で彼の成長を止め、声変わりしないようにとご丁寧に去勢までした。

 だからといって、チハルは研究者達を恨んだことは一度もなかった。彼は悲しみや苦しみとはほぼ無縁の生活を送ってきた。だから、丁重に扱ってくれていた五人の研究者がヒジリの手によって殺害された時も、泣きはしなかった。喪失感はあったが、それ以上は何も感じることはなかった。

 未熟だったのだ。肉体的にも精神的にも……。

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