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旅は道連れ 世は情け 『従者が綴る姫日記―観察編―』

作者: 望月琴乃

作中に記載はありませんが、設定では、昼中です。

※突発的に書いた作品なので、多めに見ていただけると幸いです。

ある国のお姫様が従者を伴って訪れた一軒の宿。

そこはどう見ても、何年も使われていない宿屋だった。

塵や埃が積もっていて、客としては、とてもじゃないが長居したくない気分になる。


そんな宿の一室に入り、中の様子を見る姫と従者。

「ま、何とかなりそうですね」

「そうかなぁ?」

室内を散策し始めた従者に対し、姫の視線は宙を泳ぐ。


従者は、洗面所に行き、洗面台の蛇口を捻った。

蛇口は所々錆びていて、洗面台は水垢で水の通った跡ができている。

「あ、やっぱりダメみたいですね」

蛇口からは鉄錆が混じった、薄い赤茶色の水が出てきた。

しばらく流し続けたが、澄んだ色に変わる様子はなく、諦めて、蛇口を閉めた。


次に従者は、シャワーブースに入った。

シャワーブースも金属部分に錆が見られ、洗面所と同じように水垢で変色していた。


従者と入れ替わるように、姫がシャワーブースに入る。

「シャワーの水、出さないで下さいね」

隣室から従者の声が聞こえた。

「うーん。これでは、使えそうにないなぁ」

シャワーヘッドを固定具から無理やり外し、手にとる。

何気なく伸びた手が蛇口を捻る。

「ベットは埃っぽいし、せめて、シャワーだけは、と思ったのになぁ」

床にシャワーの水を浴びせるが、やはり使えそうにない。

姫は蛇口を閉めて、シャワーブースから出た。


ベッドルームに戻ると、従者が布団をたたいていた。

「何してるの?」

「埃をたたき出して日干しにすれば使えますよ」

「そうかなぁ?私は遠慮したいなぁ…」

姫は、何気なく近くにあったソファに腰掛けた。

「もう少し、ましな所はないの?」

ここに着て、ずっと思っていた疑問を口にする。

「何言ってるんですか?お忍びで来ているんですから、あまり贅沢はできないんですからね」

「だからって、いくらなんでも、ここはひどくない?」

「そうですか?野宿よりはマシだと思いますけど?」

「食事は近場で済みそうですし、今日は、こちらでおとなしく過ごされた方がいいのではないですか。疲労困憊で筋肉痛だって騒いでいたでしょう」

「だからって、こんな所じゃ、逆にストレス溜まりそう。体力だってあまり回復できないかもしれないし……」

「とにかく、今日はここに決定させていただきます。いいですね」

「えー」

「文句言ってもダメです。諦めてください」

従者にきっぱり言われ、姫は項垂れた。

「何でうまく行かないんだろう」

「旅は初心者ですからね。だいたい、突然旅に出たりするからこうなるんですよ。急すぎて準備不足ですし、いったいなんで旅なんかしようと思われたんですか」

「旅の初心者はそっちでしょう?」

「私が姫になったのは、6日前なのよ。急に『貴女が今日から王女様です』なんて言われて、納得できるわけないじゃない!王宮生活って庶民育ちの私には堅すぎてきつすぎ。たまには自由が欲しくなってもしかたがないじゃない!」

「打診があったのは6日前でも、実際王宮にいたのは、3日あまりじゃないですか。『姫、逃走』とか言われて、今頃捜索隊が結成されているかもしれませんね」

「それはないんじゃない。なぜか一緒に付いて来た奴がいるわけだしぃ」

「当たり前じゃないですか。姫付きの従者は今のところ僕一人だけなんですよ」

「信頼しているのは、だけどね」

聞こえないように、毒づいておく。

「はー、なんでこうならないかな……」

「何、読んでるんです?」

「『ドキドキ 姫のお忍び一人旅』」

「原因はそれですか?」

「同シリーズで『ヌクヌク 姫と行く湯巡り温泉旅行』も、持ってきたのに。役に立たないじゃない!これに掲載されているだけでも、名湯、秘湯や格安庶民派なものまであるのに」

「今、温泉とか行ったら、目立ちますよ?」

「でも、一ヶ所は行こうよ。じゃないと、来た意味がなくなるでしょ?」


「あ、そうそう。このシリーズ、他にもあってね。『ゾクゾク 恐怖!!姫と従者の辺境の旅』もあるのよ」

「いったいどのくらい出版されているんですか。そのシリーズ。悪影響がありすぎて、訴えたくなるんですが」

「そう?おもしろいのもあるのに。あ。あれも読んで来れば、今回の旅うまく行ったかも」

「何ですか?」

「『ウフフ 姫的従者調教法』」

「調教……」

従者は気が遠くなりそうになりながらも、姫の話を聞き続けることにした。

「そう。それでね。これには、もう一冊あって。それは、15歳未満(成人していない女性)は閲覧禁止なの」

「R指定って……」

「今まで言ったのは、プリンセス版だけど、プリンス版もあるのよ。ちなみに、それもR指定だったよ。さすがに、男性用は読む気にならなくてタイトル見ただけでやめたけど。なんか、やばそうだしね」

「うわー。もう何でもありなんですね。ちなみに、その本どこで手に入れたんですか」

「王立図書館特別閲覧室」

特別閲覧室…王族、貴族のみ利用可能な本が置いてある所。

「ああ、あそこですか。非教育的な本まであったんですね。出版社ってわかります?」

「王立出版だけど?どうかした?」

「王立……。作者は?」

「女性用が『さすらいのプリンセス』。男性用が『さすらいのプリンス』だけど?告訴するつもりなら無駄だと思うわよ。愛読者多いみたいだし。王族、貴族ご愛用の本だから……って、聞いてる?」

「さすらいのプリンセスって、まさか……」

いつの間にか、従者の顔が蒼白になっていた。

「わ、私じゃないわよ?」

「わかってます」

「もしかして、知り合い?」

「なんとなく想像がついただけです」

それにしては、顔色が悪すぎると姫は思ったが、言わなかった。


「で、今日は、本当にここに泊まるの?」

「泊まります」

「温泉は?行くよね!?」

「今日中に見つかれば、考えます」

読んで頂きありがとうございました。

タイトルと中身の差は、忘れてください。

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